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オマエラの命は50万円だってさ。

俺も令和っ子だし、異世界ラノベは当然嗜んでいる。

なので転移者の勝ち筋の1つとして2世界間貿易がある事は重々承知だった。


例えば最近読んだラノベでも主人公が100円ライターや洗濯バサミを異世界人に高値で売り付けて金持ちになっていた。

俺もその手が使えれば苦労はないのだが…

クラスメートも一緒に転移して来たからな。

そんな商売を始めれば俺の手の内は一発で看破されてしまうだろう。

知られたら…

あまり良い末路は迎えないないだろうな。

誰がどう考えてもワープは危険すぎるし、そんな能力を持っている奴が居ると知ったら、普通はどう始末するかを考える。

なのでワープの運用は慎重に行うべきだし、地球の物品を持ち込むことは禁じ手にしている。


以上を踏まえた上で俺は王都でのリサーチに勤しんでいる。




『こんにちはー。』



「…。 (ギロッ)」



俺が入ったのはドワーフの鍛冶屋。

ラノベやアニメのイメージ通りに傲岸で不愛想だった。



『あのー、金塊とか売ってたりするんですか?』



「…。」



明らかに聞こえている筈なのに、無視して剣を研いでいる。

あまりのテンプレ偏屈ぶりに思わず失笑してしまう。



「何を笑ってやがるッ!!」



信じ難いことだが、砥石を投げ付けて来た。

うーん、さっきまで日本の過剰接客に触れていただけに逆に新鮮だ。



『スイマセンスイマセン。』



ドワーフは王国民ではなく、王国と同盟関係にあるドワーフ氏族から技術者として派遣されているポジションだからな。

俺達地球人同様に王国の刑法の幾つかが免除されている半特権的な存在と聞いている。

異物同士仲良くしたいものである。



「オメーが地球人か?」



『あ、はい。

地球の方角から来ました。』



「へー。

王国人とは全然顔立ちが違うなー。

不細工方面に下位互換だ。」



…オイオイ。

我、顧客ぞ?



『そ、そいつはどーも。』



「で?

何か用か?

ボーっと突っ立ってても話は始まらんぞ?」



…話しかけたのに無視したのはテメーだろーが。

必死で堪えながら笑顔を維持する。



『(頬ヒクヒク)

き、金塊の買取や販売について問い合わせに来ました。』



「だったら早くそう言えよ。

若い癖にトロい奴だなー。」



必死に唇を噛んで怒りを堪える。

落ち着け、落ち着け俺。

ここは日本のファミレスじゃない。

相手は野蛮世界の野蛮種族だ。

COOLに行こうぜ。



『(頬ヒクヒク)

いやあ、それは失礼しました。』



「販売は金貨1枚で倍の重さの粗金。

買取は3倍粗金で金貨1枚。」



『え?

粗金?

もうちょっと詳しく。』



「おう、今から配達だから失せろ。

じゃあな。」



『いやいやいや俺は客ですよ!?』



「え?

何も買ってないじゃん?」



『あ!

じゃあ、金貨1枚払いますんで粗金を売って下さい。』



「オイオイ、買うなら先に言えよ。

トロいやっちゃなー。

ほれ(無造作にポイ)」



当然、包装や保証書はない。

って言うか客に商品を投げるなよジジー。



『え?え?え?

これが粗金なんですか?』



放り投げられたのは、歪で小さな金の延べ棒。

言われてみれば金貨の倍くらいの重さがあるようなないような。

いや、重さを計ったりそういう事はしないのか?



「おーう。

用事が済んだなら早く帰れ(けーれ)

けーれけーれ。 (シャッターピシャリ!!)」



『あ、ちょ!

話はまだ!!』



う、嘘だろ?

仮にも俺は客だぞ?

え?

その接客態度は何なのだ?

え?

我、顧客ぞ?

お客様に商品投げるか普通?



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



あまりに腹が立ったので新宿の百貨店内死角に飛ぶ。

(以前、駅から見たからね。)

必死で深呼吸しながら駅まで歩く。



「こんにちはー。

不用品買取のトレジャー屋でーす♪

ご自宅に貴金属・ブランド品があれば是非当店まで♪」



『あ、ども。』



新宿駅前ではブランドショップのキャンペーンガールが愛想良くティッシュを配っている。

何なのだろう、同じ商売でこの違いは。

別に鼻水は出てないが、感動を味わいたかったので鼻をかむ。

ふーむ、こんな無料配布の粗品でもこのクオリティよ。

もしも転移者が俺1人なら、ティッシュを異世界人に売り捌いても良かったのだがな…

まあいい。

もしもクラスの連中が全滅してくれたら実験してみよう。



『…でもアイツら引き籠りに徹したみたいだからな。

中々死んではくれないだろうな。』



そんな事を考えながら山手線で巣鴨に向かう。

駅から少し歩くが、3階建ての一戸建て(?)の一階が《居酒屋ぴょん吉》だった。

どうやらこの建物自体が老店主一家の持ち物件らしい。



『あのー。』



早く着過ぎたのか、まだ準備中の札が掛かっている。

開店時間を尋ねる為に、看板を雑巾で拭いていたオバサンに声を掛けてみる。



「あらぁ。

もしかして飛田さん?」



『あ、はい。』



「義兄さんなら座敷で待ってますよ。

どうぞ。」



『え?

あ、はい。』



よく分からないが入っても構わないらしい。

恐る恐る店に足を踏み入れる。

義妹さんに案内されるままに奥の座敷に。



「50万でどうだ?」



俺が挨拶する間もなくこれである。



『え?』



「確かに今の相場はグラム単価15000円を突破したけどな。

こっちも危ない橋を渡るからな。」



『え?え?え?』



このジジー、脳味噌ドワーフか?

上着を脱ぐ間も待てないものなのか?



『改めまして飛田です。

本日は宜しくお願いします。』



「確かキミ、未成年だったな。

おーい、幹康ぅー。

ジュースとウーロン茶ァー。」



  「はーい。

  今、持ってきまーす。」



『…。』



  「ああ、キミが飛田君。

  ウチの兄貴は変わり者だから大変でしょ。

  仲良くしてあげてね。」



「いらんことは言わんでいい!!」



  「ははは、ゴメンって。」



「ほら、飛田。

遠慮するな、飲め飲め。

キミ、アレルギーとかあるか?

苦手な物があったら、無理に食べなくていいからな。」



『お気遣いどーも。』



信じ難い事に、このジジー名乗りもしない。

腹に据えかねたので指摘すると「むらかみー。」とビールを流し込む合間に答えやがる。



「あのメダルなあ、50.2グラムだったわ。」



『あ、はあ。』



「さっきのはグラム1万って意味だから。」



『あ、はあ。』



「オイオイ、端数で責めるなよぉー。

あくまで目安の話なんだから。」



このジジー、コミュ障なのか?

いや弟さん夫妻の生暖かい目を見ている限り間違いないな。

後から知った話だが、この居酒屋は村上兄弟の父親が創業したらしい。

父は早くから弟・幹康を後継者に定め、顕康このジジーには因果を含めていたとのこと。



「じゃあ、50万用意したから。

ちゃんと数えて。」



オイオイオイ。

俺はまだ売るなんて一言も…



『じゃあ、金貨をお確かめ下さい。』



でも、渡してしまう。

俺もキャッシュに困ってるからね、仕方ないよね。



「悪いけど、もう一回X線検査するぞー?

キミはすり替えとかしないタイプだとは思うがな。」



『お好きに。』



「これは独り言だけど。

友達同士の遣り取りだから、領収書とかそういうのは要らないよな?」



『え?

マジっすか?』



「友達友達。」



言いながら簡易検査装置しか見てない。

ふざけたジジーである。



『…いや、まあ。

俺もその方が助かりますけど。』



「ほれ。

ちゃんと数えろ。

後で文句言われても知らんぞー。」



数えてみると50万。

いや違う51万ある。



『あ、あの。

1枚多いんじゃないですか?』



「ほらな。

ちゃんと数えないと大変だろ?」



俺は1万円を返そうとするも、強引に胸ポケットに押し込まれてしまう。

このジジー、捻くれ過ぎだろ。



「後、何枚くらい手持ちがあるの?」



『自宅に何枚か置いてます。』



「あっそ。

それも同じ値段でいいよな?

今度から店じゃなくて、こっちに直接来い。

好きな物食べさせてやるぞー。」



いや、幹康さんの料理は美味しいんだけどさ。

こんな糞ジジーと一緒に食わされるのは拷問以外の何物でもない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



腹が膨れたのでワープで胡桃亭に帰る。

食後の運動代わりに外を散歩していると、先日の討伐で逮捕された盗賊が門前で晒し首にされていた。

他に用事もなかったので、俺はしばらく口をぽかんと空けて眺めていた。


なあ、知ってるか?

オマエラの命は50万円だってさ。


高いのか安いのか俺には見当もつかないよ。

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王都からドワーフが一人消えて国際問題になったり…はしないようだ ドワーフセーフ!
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