林檎と蜜柑はどっちが好き?
犬童・遠藤の両名と共にタクシーで六本木へ。
宮川政彦への焼香を済まさせた事で義理は果たした。
風俗業者同士にしか分かり得ない苦悩があるらしく、2人で額を寄せ合って愚痴っている。
たまに遠藤をチラチラ見ているので、嬢には聞かせたくない本音があるのだろう。
『えっと、遠ど…
梢さんを食事に連れて行って構わないですか?』
「ああ、気が利かずに申し訳ないです!」
「どうぞどうぞ!」
心底ありがたそうな表情で2人が許可をくれる。
ぶっちゃけ遠藤って邪魔だしな。
そりゃあ喜ばれるよな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『東京で見たい所があれば案内しようか?
俺もあんまり詳しくないけど…』
「府中を所望します。」
『え?』
「府中を所望します!」
『…。』
遠藤は無言でスマホ画面を見せてくる。
いつの間にか沼袋・らぁら(本名)とのグループラインが作られており、そこでは醜悪な煽り合いが発生していた。
ソープ嬢とピンサロ嬢の序列とか知らんがな…
「殿方はハーレムを好むというではありませんか!
お任せ下さい!」
『うん。
きっとそれは俺の知ってるハーレムとは違うよね。』
仮に俺が王侯か何かで後宮を建造するとしても、まずは女同士を隔離する仕組みを作るだろう。
(もし俺が王なら遠藤なんかに敷居を跨がせない)
宦官やら何やらは、その為の機能。
当然だが、庶民の俺にそんなアホらしい構想はない。
俺がセックス(何ならフェラだけでも)しちゃうと絶対に相手は妊娠するからな…
わざわざ分母を確保する必要性がないのだ。
…そもそも論として、近く生まれてくる4人でいっぱいいっぱいだからな。
当面セックスをする予定はない。
性欲的にかなり苦しいのだが、これ以上妊婦が増えた場合に俺がパニックを起こさない自信がない。
『府中に住み着くの?』
「見るだけ!見るだけ!」
…絶対嘘じゃん、コイツ居座る気満々じゃん。
俺に隠れてライングループに何やら打ち込んでるし。
『じゃあ、見たら帰ってくれる?』
「はい、帰ります!」
必死で真顔を作りながらも唇の端に狡い笑みが浮かんでる。
今の所、身体以外に褒める点が見つからない女だ。
電車の中でも遠藤は絶えず俺との写真を勝手に撮り、意地の悪い笑顔でライングループに投下していた。
ゴメンな我が子よ、親は選べないよなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『…。』
「スマンな、飛田。」
府中の自宅にはらぁら(本名)と沼袋、そして村上翁が居た。
「やっほー(棒)。」
『あ、チャコちゃんさんも来てるんですね。』
「飛田があんな遺言みたいな去り方するからさ。
ここに来る以外の選択肢あったら逆に教えて欲しいくらいだよ。」
『大袈裟だなぁ。
ちゃんと生きてますよ。』
「うん、顔の傷。
血が染みてるぞ。」
『え?
マジっすか。
ちゃんとポーション使ったのに…』
鏡を見ると頬にざっくりと深い傷。
全攻撃を回避したつもりだが、剣圧までは避けられなかったらしい。
改めてレフ・レオナールなる怪物に畏敬の念を抱く。
「オマエには色々言いたい事があるが…
生きててくれて良かった。」
涙ぐんだ村上翁に軽く腹パンされる。
『すみませんって。
危ない橋はなるべく渡りませんから。』
「それ絶対フラグだろうが…」
村上翁とガッチリ抱き合って無事の再会を…
「「「「ちょっと待ったァ!!」」」
女共が邪魔をする。
『あ、はい。
何ですか?』
「「「「ウーッ。」」」」
そんな顔で睨まれると俺が悪者みたいじゃないか。
いや、分かるよ。
不満なんだろ?
同時に妊娠させられてセットで扱われる事が。
「飛呂彦クンに四股掛けられた!」
らぁら(本名)が唐突に叫ぶ。
…いや、オマエにはフェラだけだから股は掛けてない。
続けてチャコちゃんが叫ぶ。
「酷い、私の身体が目当てだったんだね!」
『…。』
確かこの女とセックスはしてない筈だったが…
面倒なので何も答えてやらない。
「一度、この台詞言ってみたかったんだよね、ウェヒヒ。」
『あ、うん。
良かったですね。』
司会役は村上翁に任せて、俺は風呂場で傷のチェック。
案の定、脇腹にも長い傷が付いている。
頬よりも浅そうなので、こちらはそのうち塞がるだろう。
「飛田ー。」
『はーい。』
「女共がオマエの背中を流したいんだとさ。」
『4人が仲良くしてくれるなら許可します。』
「…諦めるってさ。」
『そっすか。』
胃が痛い。
せめてコイツらが1カ所に固まってくれたら子育ての計算も成り立つのだが…
極限まで友好値を高めた所で喧嘩友達になれるかどうかだよな。
そもそも遠藤やチャコちゃんは同性の友人が元々いない。
友達ごっこすら出来なかった女に仲良しごっこを強要するのはあまりに酷だろう。
『はい、風呂から上がりました。』
「「「「Woohoo!!」」」」
『それでは今後の身の振り方を話し合いますので、真面目に回答して下さいね。』
「「「「Hooray!!」」」」
『真面目にね!!』
「「「「…はーい。」」」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『一問一答式でそれぞれに質問します。
それでは第1問ッ!』
「「「「…ゴクリ。」」」」
『今後、皆さんはどこに住みたいですか?』
沼袋
「この府中の家!」
遠藤
「ここを希望します!」
らぁら(本名)
「都内でファミリータイプ!!」
須藤
「タワマン買ったから一緒に住もうよ!」
『はーい、回答ありがとうございました。
皆様の回答は村上さんが整合します。』
「おーう。
アシスタントの村上顕康だ。」
『それでは第2問!
出産までどのように過ごされたいですか?』
沼袋
「飛田君のお知り合いに挨拶回りをさせて欲しい!
インスタへのアップも許可して!」
遠藤
「御商売をお手伝いしたいです!」
らぁら(本名)
「2人きりの時間取ってくれないかな?」
須藤
「まずは妊娠させて!!」
3人が意地の悪い表情でチャコちゃんを煽る。
コイツら本当に糞だな。
『それでは第3問!
今、飛田へ投げかけたい質問はありますか?』
沼袋
「結局、飛田君って何者なの?」
『ただの丁稚です。』
遠藤
「私のことをどれくらい愛してますか!?」
『いやあ、ははは。』
らぁら(本名)
「下ネタは!?
下ネタはあり!?」
『子供の教育に悪いから禁止とします。』
須藤
「飛田クンのスキル構成が見たい!!」
『…見るのは俺に殺される時だけだよ。』
須藤
「ぐわああああ!!!
しばらく見ない間に厨二指数に磨きが掛かってるうう!!!
絶対この人、電灯の紐でシャドウボクシングしてる!!」
『…何で知ってんだよ。』
「飛田。
男はみんなやってるから気にすんな。」
『気を取り直して最終問題。
皆さんが今、一番したい事を教えて下さい。』
沼袋
「結婚式!」
遠藤
「遠藤敬一郎候補の応援演説(ニヤニヤ)」
らぁら
「割とマジにラブコメがしたいかな。」
須藤
「セックスがしたいです。」
『はい皆さんお疲れ様でした。
後は村上さんが総合的に分析して対応策を練って下さります。』
「おーう、善処するわ。」
『それでは以上を持ちまして飛田クイズを終了致します。』
沼袋
「異議あーり!」
『え?』
沼袋
「私達ばっかりお題を振られるのおかしいよ。
飛田君も回答してくれないと不公平じゃない!」
『え?
俺?』
遠藤
「それでは第一問ッ!!
飛呂彦様はどこに住みたいですか!」
『…いや、それは。』
らぁら(本名)
「正直に答えて!!」
『いや、普通に正妻の家に戻る予定だったけど…
義父にも報告事項が溜まってるし。』
天空騎士団を勝手に皆殺しにしちゃたからね。
今度は殴られるくらいじゃ済まないかもね。
「「「「boo- boo!!」」」」
『…これも仕事なんだけどな。』
沼袋
「それでは第2問!
出産までどのように過ごされたいですか?」
『えーっと。
仕事かなぁ。
戦争とか闇バイトとか早めに解決しておきたいしね。』
須藤
「出たァ…
仕事人間…」
『いやいや。
子供を育てて行くのにお金は必須でしょ?
稼げるうちに稼いどかないと不安なんだよ。』
「子供はイタリア車よりもカネ掛かるぞー。」
らぁら(本名)
「それでは第3問!
私達個々へ質問してみて下さい!』
『えー、急に言われても困るよ。』
らぁら(本名)
「駄目、答えて!!」
参ったなぁ。
質問するほどコイツらに興味ないんだよなぁ…
…まあいいか。
『じゃあ、まずはらぁら(本名)さんからね。』
らぁら(本名)
「ばっちこーい!」
『ぶっちゃけ宮川社長が死んでどう思った?』
らぁら(本名)
「半分は気の毒。」
『後の半分は?』
らぁら(本名)
「そりゃあ狙われるでしょとは思った。」
『そうなの?』
らぁら(本名)
「お爺ちゃんの癖に服も車もハイブラで固めてたからね。
飲みに行っても気前良くチップを配るし…
目立ってたよ、かなり。」
『なるほど。
じゃあ次に沼袋さん。』
沼袋
「はーい❤」
『鳥取は俺から見て義実家なんだけど…
あんまり関わって欲しくない?』
沼袋
「基本的にはね。
ただ、冠婚葬祭で呼んじゃうかも知れない。
…お祖母ちゃん、もうすぐだと思うから。」
『分かった。
顔を出す。』
冠婚葬祭なぁ…
人間種ほど厳密ではないものの、当然ニヴルにも存在する。
即ち、エヴァ・沼袋・遠藤・らぁら(本名)と4家族の祭祀と向き合っていかなくてはならない。
これが尋常ではないプレッシャーになっている。
どれだけの可処分時間を奪われるのか想像もつかないのだ。
『では、遠…
梢さんへの質問。』
遠藤
「はいっ!」
『お父さんとの和解は難しい?』
遠藤
「敵の出方次第です!」
『…あ、うん。
敵という表現は控えて行こうね。』
須藤
「はいはいはーい!
次は私! 次は私!
何でも質問して!」
『あ、いや。
チャコちゃんさんへの質問は特に思いつかないかな。』
須藤
「何でよー!
スキルビルドとか、風力発電事業部とか、仮想通貨関連とか、色々謎があるでしょ!」
『あ、うん。
でも何となく予想の範疇だし。』
3人が小馬鹿にしたようにクスクス笑う。
須藤
「キーッ!
何でもいいから質問して!」
『…えっと、林檎と蜜柑はどっちが好き?』
須藤
「林檎だよチクショウッ!
とってつけたような質問すんな!」
『…ごめん。』
須藤
「それじゃあ最終問題ッ!
今、飛田クンが1番したいことを教えて!」
『え?
何だろ?
急に言われても困るよ。』
沼袋
「正直に答えて!」
遠藤
「それも極めて忌憚なく!」
らぁら(本名)
「ありのままブチまけて!」
須藤
「たまには自己開示しろー!」
『えー、したいことかぁ。』
何だろ?
俺も随分しがらみが増えたしな。
最近はしなくちゃならない事で頭がいっぱいなのだ。
生まれて来る子供達の為に資産や社会的地位を確保しておかなくてはならない。
俺が死んだ時に備えて周囲に後事を託しておかなければならない。
中本や趙に迷惑が掛からないようにビジネスの交通整理も必要だ。
また、ハーフドワーフが迫害されにくい環境作りの為にも人間種とドワーフ種の間に融和ムードを作らねばならない。
…やらねばならない事が多すぎるのだ。
「飛田、難しく考えるな。
もっと個人レベルで構わん。
カネとか飯とか…
最初に会った頃のオマエも俺は好きだぞ。」
『そっすね。』
そうだな、元は日銭を稼ぐことしか考えられなかった筈だ。
話が大きくなり過ぎちゃったよなぁ。
「何でもいいぞ。
今日の晩飯とかそういう次元だ。」
今、1番したい事か…
『そうっすねー。
…セックスがしたいかな。』
「「「「しゃあッ!」」」」
『んじゃ、色々仕事が溜まってるんで本妻の実家に行ってきます。』
「「「「オイイイッ!!」」」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
え?
その後どうなったかって?
すぐに義父ブラギの元に出頭したよ。
天空騎士団の後始末とか、合衆国側の使者への対応とか、魔界トンネルの運用会議とか…
為すべき事柄が無限にあったからな。
『ねぇエヴァさん。』
「んー?」
『側室の人達がエヴァさんと話したいんだってさ。』
「それは物理的に可能なの?」
『難しいと思う。』
「それは残念。」
『でも嬉しそうだね。』
「負担が増えないのなら、誰だって喜ぶわ。」
『わかる。』
エヴァの腹もかなり目立って来た。
氏族の呪術師曰く、胎児は順調に育っているとのこと。
但し、若干脈拍が遅い気がする。
人間種との混血である事が原因なのかは分からないが、念の為労働を避け安静を努めるように、とのこと。
少しでもエヴァの負担を減らす為、その身は実家に置くことにした。
狙ってそうしたつもりはなかったのだが…
俺は久し振りに自由を手に入れた。
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