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男の仕事に口挟むんじゃねッーーーー!!!

さて、と。

犬童が18時着の便で羽田に着くからな。

早めに片付けるか。



『ねえ、ロキ先生。』



「んー?」



『彼らを殺していいですか?』



「おいおい。

一番好戦的なワシに聞いてる時点で反対を押し切る気満々だろうがよ。」



『毒性のある食料って貯蔵庫にあります?』



「おいおい。

キミ、酷い奴だな。

駄目だぞ!!

そんな事しちゃ絶対に駄目!!

酸化マッシュルームなんて絶対に駄目!!」



『え?酸化マッシュルーム(笑)?

何すか(笑)?

何すか、それ(笑)?』



「ばっかオメー(笑)

マジで駄目だって(笑)

バレたら経済封鎖じゃすまないから(笑)」



ロキ爺さんは口では駄目駄目と繰り返しながらニコニコ顔で貯蔵庫に進んで行く。



「氏族を危険に晒す作戦なんて絶対に認めんからなー!

ほらこっちの黄色箱があるじゃろ?

これが酸化マッシュルーム。

ワシは断じて反対じゃぞーwww」



この老人に相談して正解だった。

実に手際良く俺の欲しい物を揃えてくれた上に倉庫番とも話を付けてくれる。



「要は錬金術用に化学変化させたマッシュルームじゃな。

主に土魔法の触媒に使う。

岩盤を固定させる大魔法があるのじゃが、無触媒発動は術者への負担が大きすぎるから。」



『へー。

結構重要なんですね。』



「原価は安いんじゃが、熟成まで2年掛かる。

それでいて使用頻度も高いから、こうして貴重品箱に収納している。」



『ほえー。』



「後、地味に食用マッシュルームと見分けが付きにくい。

たまにつまみ食いして腹を壊す馬鹿が居る。」



『あはははは。

ドワーフにもそんなうっかりさんが居るんですねww』



「おう、ロキって名前の間抜け野郎さww」



『「あはははははwwww」』



俺とロキ爺さんは酸化マッシュルームを回収すると足早に坑道を戻る。



「歩きながら説明するぞ。

ドワーフにとっては大した毒性じゃあない。

せいぜい下痢くらいで済む程度だ。

ただ、人間種にはかなり効く。

食後2時間弱で脱力が始まる。

解毒方法を知らなければ、翌朝には死体になってるんだ。」



ドワーフは酸化マッシュルームの人間種への効能を知り尽くしている。

残忍な種族闘争史の中でデータは取り尽くしているからである。

そして眼前の老人がかなりの実証実験を繰り返して来たことも、その口ぶりから自明。



『OK。

俺が騙して食わせます。』



「おう、やっちまえ。

死体はワシが何とかしてやるよ。」



『お願いします。』



「片付けるのがキミの死体じゃない事を祈ってるぜ。」



『善処します。』



「なあ、トビタ少年。

1個謎なんだけど?」



『はい?』



「キミ、何でそんなに楽しそうなの?」



『さあ、きっとロキ先生と同じ理由ですよ。』



「はははは。

楽しい決勝戦になりそうだなぁww」



さあ、この老人との対決まで俺は勝ち上がれるかな?



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『レオナール団長。

お待たせしました。』



「やあトビタ君。

君があまりに遅いからね?

食料搬送を手伝ってやろうかと思っていた所だ。」



『それはそれはお手間を取らせます。』



「で?

その荷車が誠意かい?」



『はい、御存知かも知れませんがドワーフはキノコ類を常食しております。

それでマッシュルームを…』



「穀類を所望する。」



『…。』



「無論知っているさ。

新兵の頃にニヴルとの合同作戦に従事したからね。

ドワーフがキノコを主食としている事は知っている。

麦や米を好んで食べることも、よーく知っている。

穀類を供出してくれないか?」



『残念ながら、今はこれしかないんですよ。

ニヴルも食糧難なので。』



「その割に肥えた山羊が多いな。」



『山羊は勝手に山頂の草を食みますから。』



「穀物を供出せよ。

とりあえずは500石だ。」



『そんな、いきなり無茶ですよ!』



「おいおい、ここは王国領だよ?

無茶でもなんでもないさ。

君達には軍事行動に協力する義務がある。」



『…。』



「穀物は供出出来ない?」



『無いんです、本当に。』



「じゃあ代わりに山羊だな。」



『え!?』



「仕方ないだろう。

穀物が無いと言い張るのだから。

こちらも譲歩してやっているのだ。

穀物は無いかも知れない。

だが山羊はあんなに居る。」



『…。』



「取り敢えず坑道前に放している山羊を全頭供出して貰おうか?

部下に数えさせた所、57頭を確認した。」



『貴方は何を!?』



「60頭頂いていく。

大至急、こちらに引き渡しなさい。」



『…。』



「おいおいおい。

君達の為に言ってやってるんだぞ?

不利益を被らないように口添えしてやろうという話だ。

こっちは親切で提案しているんだがなあ。

いやはや、思い遣りやりが通じないのは辛いものだなぁ。」



背後のバルンガが「了承」と短く叫ぶ。



『分かりました。

山羊を供出します。』



「OK。

賢明な判断だ。

願わくば君にはずっとお利口さんでいて欲しいものだな。」



商人組が縄橋を掛け、無言で山羊を惣堀の向こうに追いやる。

彼らは機敏かつ乱暴に荷馬車に押し込んでしまった。

まったくもって見事な手並みである。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



30分後。

俺の身柄は天空騎士団と共にあった。



「どうだいトビタ君。

我が部隊が誇る高速馬車の乗り心地は。」



『この後に商談が控えてなければ快適だったかも知れません。』



「はっはっは。

商売の邪魔をしてしまったようだね。

恨むかい?」



『いえ、どんな状況からでも利益を回収するのが商人の仕事ですので。』



「あっはっはっは!!

感心感心、前向きな若者は応援してやりたくなってしまうなあww


結局な?

我々に協力するのが利益を回収するコツだ。

軍隊とのコネに優る財産なんてないぞ?


そうだ。

君が酒保商人になれるように口を利いてやろう。

こう見えて私は推薦状の発行権を持っているのだよ。」



『…そいつはどうも。』



密室の馬車。

歴戦の猛者であるレオナールと2人きり。

当たり前だが一切隙がない。

口調こそ冗談めかしているが、猛禽のような眼光で俺の一挙手一投足を観察し続けている。



「本題に入るぞ。」



『ええ。』



「供出してくれたマッシュルーム。

まずは君が食べてみろ。」



『え?』



「おいおい、何だよその反応はww

民間人と食卓を囲むのも軍人の仕事って話だよ。

たまには相互理解を深めるのも乙なものだよなー。」



『…。』



「確かレーションの様にそのまま食せると言ってたよな?

じゃあ、君が食べるのも問題はない筈だ。

別に毒が入ってる訳でもないんだろ?」



『では失礼します。』



俺は無言で酸化マッシュルームを齧る。



「君は若い、育ち盛りだ。

当然、完食出来るよな?」



『ええ、少食なりに頑張ります。』



「はっはっは、トビタ君は面白いなぁ。

軍人としての適性は乏しそうだが、荒事には向いているんじゃないか?」



『そうでしょうか?

俺はただの臆病者ですよ。』



「ふふふ。

私の目は誤魔化せないよ。

臆病?

逆だね、君は獣の様に短絡的で貪欲だ。

盗賊なんかには向いているタイプじゃないかな。」



『軍人への適性があるようで安心しましたw』



「なるほど、いるよねー、こういうタイプw」



『「あはははは。」』



軽口を叩きながらも、レオナールは俺の脈を取って顔色の変化を観察している。



「我々は昨夜から飲まず食わずで動き回っていてね…

私は煩悶しているのだよ。

部下に何か食わせてやりたいとね。」



『なるほど。』



「君の提供してくれたマッシュルーム。

モノは悪くない。」



『ありがとうございます。』



「まあ実際、共和国との国境近くの地域ではマッシュルーム料理は盛んだしね。

我々も出されれば食べるよ?」



『そうなんですね。』



「でも毒を盛ったんだろ?」



『毒?

驚きましたね。

突然言われても困ります。』



「いーや、君は驚いたり困ったりはしない。」



『…。』



「何故なら君は人間の皮を被った悪魔だからだ。」



『そう言われると傷付きます。』



「いーや、悪魔は傷付きもしない。

士官学校に在籍していた頃、教官殿からよく言われたよ。」



『見る目のない指導者ですね。』



「いーや、見る目はあった。

但し先を見通す程の能力は無かった。

出世した悪魔がかつての恩師に玉砕命令を下すことくらいは予測しておくべきだと思わないか?

軍人なら当たり前だよなあ。」



言っている間に天空騎士団は最前線に到着。

鉢伏山からの死角にある窪地に大迂回して辿り着いたようだ。

恐らく合衆国側は接近に気づいてない。



「さて、我々には2つしか選択肢がない。

君の提供したマッシュルームを食べてから突撃するか…

食べずに突撃するか、だ。

なあトビタ君。

正解はどちらだ?

君ならどうする?」



『俺は軍隊経験がないので分かりませんが…

そこまで疑っている相手の出した物を無理に食べても仕方ないのでは?』



「ふっふっふ。

上手いなあ。

今、私の思考を誘導しようとしたね?」



『仰る意味が分かりかねます。』



レオナールに毒物の知識はない。

単に俺が平然と毒を盛るタイプであると見抜いているだけである。

彼一人なら当然こんな怪しいキノコを口に含んだりはしないのだろうが、部下を率いている以上そうも言ってられない。

飲まず食わずの兵士に攻撃命令を出す訳にもいかないからだ。


今の鉢伏山一帯はガチガチに要塞化されている。

馬防柵もバリスタも完備している上に、そして昨日の敗戦で逃げ込んだ合衆国兵が背水の心境で守っている。

そんな死地に空腹状態で飛び込むのは自殺行為以外の何物でもない。

(そもそも騎兵はあくまで野戦兵科であり攻城戦の主役ではない。)



  「…隊長。」



『もう少し待て!』



馬車の外側から不安気に呼び掛けた部下がレオナールに一喝される。

何気なく窓の外を眺めているとマッシュルームが満載された箱の周囲に兵達が集まって、こちらを凝視している。


やはりな。

読み通りだ。

王国軍は飢餓状態で戦っている。

ニヴルからの徴発も恐らく彼らにとっては不本意だったのだろう。

(政治的にデメリットしかない。)

だが、強行せざる得ないほどに窮していた。


本当は今すぐ山羊を捌いて貪りたいのが本音なのだろうが、戦場のど真ん中でそれは出来ない。

(後から知った事だが、敵視界内での家畜解体は軍規で禁止されていた。)

なのでレーション的に齧れるマッシュルームを食べるしかないのだが、レオナールは戦士の勘で毒が含まれている事を確信している。



「団長ッ!!」



馬車の外へ顔を出したレオナールに副官らしき部下が短く叫ぶ。

もはや言葉にする必要すらなかった。

マッシュルームを食べる事を許可しない限り部隊が統率出来ないのだ。

騎兵千騎が咎めるようにレオナールを睨み付けていた。

それまでポーカーフェイスを崩さなかったレオナールが眉間に大きく皴を寄せて唇を噛んだ。



「諸君らの訴えは分かった!!

希望者が食することを許可する!!」



一同が一瞬だけ安堵の笑顔を見せる。

だがすぐに戦士の表情に戻りキビキビとマッシュルームを分配していく。

鉢伏山から目を逸らす者など一人も居ない。

いつ合衆国側に発見され攻撃されても、即座に反撃できる態勢は決して崩さない。

ある者は鎧を微調整しながら、ある者は馬具を直しながらマッシュルームを咀嚼していた。

レオナールは冷ややかな目で窓の外を眺めていた。

それはもはや部下を見る視線ではなかった。



「…。」



『…。』



  「団長!

  団長もお召し上がり下さい!

  せめて何か口に入れて貰わねば困ります!」



「合戦前に毒を喰う馬鹿がいるかよ。」



『…。』



  「この者に毒見はさせたのでしょう?

  何ともないではありませんか!」



「じゃあ遅効性の毒なのだろう。」



『…。』



「なあトビタ君。

餓死と中毒死、どちらが軍人としてマシな死に方だと思う?」



『餓死です。』



「お。

即答するねえ。

その心は?」



『餓える事も男の仕事です。』



「ヒュー、カッコいいねぇww」



『…。』



「だが軍人の仕事は餓える事でも毒を喰う事でもない。」



『…。』



「敵を殺す事が我々の仕事だ。」



レオナールがゆっくりと剣を抜いて俺の喉に突き付けた。



「本日中に鉢伏山を奪還せよとの命令が下っていてね。

まあ、偉いさんの着陣タイミングとか、そういう話だ。」



『…。』



「君に毒見させてから67分。

発症は見られない。

遅効性の毒だとすればありがたいな。

天空騎士団が本調子であればあの程度の小山を制圧することなど造作もない。

あの山頂に王国旗を突き立てるのに67分も必要ない。

本来なら、な。」



『レオナールさん。』



「何だい?」



『そろそろ始めませんか?』



「おう、物わかりがいいね。」



レオナールが笑顔を浮かべる寸前に車外に飛んだ。



『ワープ!!』



酸化マッシュルームは人間種にとって致死性の毒。

平常時であれば遅効性、服用2時間後から脱力が始まる。

但し、絶食時は回りが早く30分もしないうちに全身が痺れて動けなくなる。

無論、食べなかった者も幾名かいたらしい。

それらが馬に乗り後方に下がろうとしていたのでワープで鞍上に飛び乗りながら全員殺した。

騎走しながら背後を取られてはさしもの精鋭もどうにもならない。

その後もワープを駆使して動ける者を全て殺す。

青地白翼の旗指物が無残に散った。



「やれやれ、だから団長職なんてやりたくなかったんだ。」



溜息を吐きながらやって来たレオナールが苦悶する部下を見渡す。



「なあトビタ君。

単騎で才覚を発揮出来る部署があれば私を推薦しておいてくれないか?」



『うーん。

強盗とかどうっすか?』



「それ、士官学校時代に例の教官殿からさんざん言われた。」



『見る目ない人ですね。』



「いーや、あるよ。」



『…。』



「だって現に私は君の同業だから。

あ、そうだ。

西部に行きつけの店があるんだけどね。」



親し気な雑談口調でレオナールは神速の踏み込みで俺に斬撃を放つ。

彼の真後ろ20メートルにワープするも、瞬時に振り向かれた。



「なるほど。

瞬間移動能力か…

何?

それを見せたという事は、ここで私を殺し切る自信があるってこと?」



『いえ、貴方にそう追い込まれただけです。』



俺が答え終わった瞬間、息を吐くタイミングに合わせてレオナールの手元が光る。

危険を感じた俺は更に右後ろにワープ。

物音からして飛刀を放ったのだろうと推測する。



「惜しいなあ。

君に人並みの身体能力があれば無敵の戦士になれたものを…」



鼻で笑いながらレオナールが突っ込んで来る。

フェイントを交えての高速追尾…



『くッ!』



あり得ない。

ワープしている俺よりも先に動いて進路を先回りだと?



「ひょっとして君。

自由自在に瞬間移動出来る人?」



『ハアハア!

自由はないです!』



「そう?

無制限に見えるけど?」



『ハアハア。

女を孕ませちゃったんです!』



「?」



『それも商売女を3人も!!

嫁との子供も生まれるのに!!

おかげで義父に顔が凹むくらい殴られましたよ!』



「はっはっは。

娼婦との子など捨てれば良かろう。」



『生まれて来る子供に罪はないでしょーが!!』



「いーや、私は逆を言われたね!!!」



レオナールが剣を左手に…

双剣?

馬鹿などこに隠し持って…



『うわああ!!』



「能力の持ち腐れだなぁ。」



『おおおお!!!

ワープッ!!!』



堪らず俺は大きく後方に飛ぶ。

どれくらい大きく飛んだかと言うと、これくらい。



『ハアハア!!

村上さん!!』



「飛田!!

オマッ、その傷どうした!?」



  「飛田クン!!!

  私に逢いに来てくれたのね!!!」



『単なる風圧です!!』



「え?

風あ…?」



  「逢いたかった!!

  ずっと逢いたかったの!!」



『5秒後に戦場に戻ります!

後の事は全て村上さんにお任せします!!』



「遺言みたいなこと言うんじゃねーよ!!」



  「戦場!?

  私、役に立てるよ!!!」



『男の仕事に口挟むんじゃねッーーーー!!!』



「飛田ぁ!!!」



  「うはっw

  言われてみたい台詞ベスト5

  頂きましたッ!!」



『ワープッ!!!』



眼前にはレオナール。

まるで俺の再出現位置を知っていたように腕を組んだままこちらを見つめていた。



「おかえり。」



『ただいまです。』



「てっきり真上か真後ろに飛んだと期待していたのだがね。

どこに行っていた?」



『取引先に遺言を。』



「おお、殊勝殊勝ww

商人の鑑だなあ、君は。」



『そしてレオナールさん。』



「ん?」



『宜しければどうぞ。』



村上翁の卓上から拝借した林檎を差し出す。



「あっそ。」



『こっちに毒は入ってません。』



「いや、そんなの君の表情で分かるけどさ。」



『どうぞ。』



「知らなかったのかい?

戦士は奪う事はあっても、施しは受けないものなんだぜ。」



『そうですか。

これから俺は逆の生き方をするとします。』



「それは建設的だなあッ!!」



今度はレオナールもやり方を変えて来た。

ランダムで進行方向をずらしながら、ジグザグと俺に接近する。

背後を取ろうにも動きが変則的過ぎて迂闊に踏み込めない。

一方、レオナールは俺のワープ癖を見抜き始めたのか、出現直後の俺を視界に捉える回数が増えて来た。俺が優っているのはスキルの利便だけであり、ボディスペックや戦闘IQに関しては生涯を費やしたとしてもこの男の足元にすら及ばないのだろう。



「どうした同類!!

私の首を取るんじゃないのか!」



『楽に譲って貰えませんかね?』



「同類と言っただろう!!」



『なるほどです!!』



レオナールは距離を詰めながら軍靴で大地を蹴り上げあちこちに砂埃を巻き上げる。



『ッ!?』



やられた!!

まさかこんなシンプルな手でワープが攻略されるとは思わなかった。

砂が目に入らないよう、僅かに猫背になり、僅かに目を細める。

そうする事で俺の反応速度がコンマ数秒遅れ…



「うおおおッ!!」



もはや理外の現象だったが、ワープで大きく左後方に瞬間移動した俺の出現位置にレオナールが神速で踏み込む。



「チェックメイトだァッ!!」
































それがレオナールの最期の台詞だった。


直前までレオナールだった物体は数十本の矢に射抜かれてブラブラと揺れていた。

俺は同類の死に顔を確認する間もなく急いでワープで元の位置に戻る。

レオナールが撃たれた位置は合衆国陣地の射程内ど真ん中。

普段の彼なら、あんな場所には絶対に踏み込まないだろう。

だが、ワープ使いとの戦闘で距離感が狂った。

最後に砂埃を立てたのも裏目に出た。


そして何より、俺が彼の部下を殺して奪った旗指物を合衆国陣地から見えやすい場所に撒き続けたのも功を奏した。

あの鮮やかな青地白翼は殺風景な荒野にあまりに映え過ぎる。


俺の作戦はシンプル。

レオナールを合衆国陣地の射線上に誘導して射殺する。

毒殺出来るとは最初から期待してなかった。

だって俺なら絶対に俺なんかを信じないもの。


周囲を警戒しながら小刻みのワープで後退するのに合わせるように合衆国の騎兵隊が突撃し、天空騎士団の残存兵を殺害して回る。

フラフラになりながら離脱を図る騎影が2つ見えたのでワープで飛び乗って殺した。

転げ落ちた死体を見ると、その顔はやつれ切っていた。

こんな状態で勇戦し続けた彼らに改めて敬意を抱く。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『ハアハア。

ロキ先生、ただいまです。』



「おかえり、問題児君。」



『まずは申し訳ありません。』



「偉い!

全然反省してない癖に謝れる神経は偉い!」



『若い頃の先生は謝らなかったんですか?』



「だって反省してねーのに、口先だけ謝罪って男として卑劣すぎね?」



『俺は自分では反省しているつもりなんですが。』



「そっかー。

じゃあ、今度から行動に反映させような?」



『あ、はい。

前向きに善処します。』



「じゃあ、ワシも弁護してやるから。

長老会議に出頭するぞ。」



『あ、すみません。

ちょっと大切な商談があるので、また後日。』



「おいおーい。

やらかした報告を後回しにするほどの大商いなのか?」



『いや、孕ませた娼婦の雇い主なんですよ。

最近公私に渡って世話になってて。』



「マジかーw

もうワシの決勝戦はキミでいいじゃろ。」



『あ、ロキ先生。

林檎食べます?』



「うっわ。

物で誤魔化せるとか思ってる若僧発見ww

シャクシャクシャク。

旨ぇ旨ぇ。

()()()()()()()()()()()ww」



『じゃ、そういう事で。』



「どういう事だよ(笑)」



『急いでるんすよ。』



「商談に血塗れで行く馬鹿が居るか(笑)」



ドワーフ式の壺便所に逃げ込んだ俺はロキ爺さんの忠告に従い府中の自宅トイレへ。

レオナールに食わされた酸化マッシュルームはゲロ状になって無事トイレに着水していた。

そりゃあね、精子が子宮にワープするんだから、ゲロだって便所にワープしてくれるよね。

アホらしいので原理は深く考えない。

こんなものはレオナールの神技に比べれば3流の宴会芸である。

その後、俺の気配を察知したらぁら(本名)の追及を巧みに躱しながら血を洗い流し、血の付いてない服に着替えてワープ。

羽田空港のトイレ上ダクトに着地。

そして空いている個室を確認してから滑り込み、左右を確認して用便。

そしてトイレを出て、しばらく歩き何食わぬ顔で…



『どうもー。

犬童社長!!』



「いやー、飛田さん。

わざわざ空港まで迎えに来てくれなくても。」



『いえいえ。

建材の件とか色々動いて下さってるのに…』



  「…飛呂彦様。」



『あ、遠藤さんも来てたんだね。』



  「梢とお呼び下さい。」



『あ、梢さんも来てたんだね。』



  「はい、何かのお役に立てれば思いまして!」



チャコちゃんへ言った事を繰り返そうとも思ったが、1日に2度も同じ台詞を吐く気力は残っていなかった。

この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
100話記念!おめでとうございます!これからも当作品の続きを楽しみにしております! (ここ最近の更新の速さはもしや書籍化が決まった?とか思ってます) 今話は今までのなかで最も恐怖感を感じた話だった …
やることが……やることが多い……っ!
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