捨て台詞のつもりで言った。
ぶっちゃけ異世界などはどうでも良い。
近所のサイゼリアでペペロンチーノをズルズル啜りながら強く再認識する。
オッサン達は如何にサイゼリアのメニューの質が昔に比べて落ちたかを力説するが、味が落ちてこれなら相当な名店だと思う。
盗賊退治の慰労に団長が連れて行ってくれた王都のレストランなどよりもサイゼリアの方が遥かにレベルが高い。
俺も貧乏舌なので偉そうな事は言えないのだが、王国人がドヤ顔で自慢していた王都料理などは、スパイスが効いただけの粗雑な田舎料理にしか思えない。
ドリンクバー、ぐびぐび!
ペペロンチーノ、ずるずる!
ディアボラハンバーグ、がつがつ!
これで1000円掛からないんだぞ?
あの後進的なナーロッパとちゃんと比較したから断言出来る。
いやぁ、実にニッポンは素晴らしい。
ニッポンチャチャチャ!!
『さて、今日はここからが本番。
異世界で取得した貴金属を日本で換金出来るか否か?』
サイゼリヤを出た俺は自宅の便所にワープして、独り呟く。
相談相手が居ない以上、こっそりと言語化して自分に言い聞かせるしかない。
『まず、異世界で貰った金貨。
可能なら日本で換金したい。』
敢えて言葉に出して、自分の思考に穴が無いかを検証する。
『そもそも、異世界人が言う《金》の定義。
日本基準と同一だとは思えない。
彼らが金と呼んでいるだけで、本当はタングステンなのかも知れない。』
映画で見たように、金貨をガリッと噛んでみる。
当然だが今まで金を噛んだ経験がないので、食感からは何も分からなかった。
『表面は王国の紋章。
裏面は王様の肖像画…』
このまま質屋に持ち込むのは危険だ。
万が一、地球に異世界を知る者が居た場合、俺の存在や能力がバレる可能性がある。
『ワープ!』
なので新宿に飛んで質屋を探した。
『すみませーん。』
「…いらっしゃいませ。」
出来るだけフレンドリーに話し掛けたつもりだが、老店員の声色には抑揚が無い。
『ガイジンの友達にカネを貸してたんですけど、返せないって言われて…
代わりにメダルを貰ったんです。
本人は金って言い張ってたんですけど。
売れます?』
「…本物なら。」
『これなんですよ。』
愛想を使うのに飽きたので、こちらも淡々と話す事に決めた。
「どこの国の人?」
探るような目で老店員が尋ねる。
『さぁ、初対面の時に国籍を聞いた気もするのですがね。』
「…。」
無言で睨まれる。
だが、プロの彼が話を打ち切って来ないと言うことは、案外本物なのかもな。
「一般的には質屋では無料鑑定出来るよ。」
『一般的には、ですか…』
「X線分析装置という機械、ほら奥のアレだ。
もしも通せば、10秒掛からないんじゃないかな?」
『通して貰えないんですか?』
「いや、お客様にはいつでも門戸を開いているよ。
このお客様カードに記名して貰うけど。」
成程。
そりゃあ、そうだ。
『店員さんは、このメダルを本物だと思ったんですよね?』
「…さあ、私はまだまだ未熟だから。」
総白髪のジジーがどの面下げて。
『貴方個人と友達になれます?』
捨て台詞のつもりで言った。
「店長とは言え、私はサラリーマンだから。」
返事は想定通り。
俺は老店員に背中を向けようとした。
「もし食事を探してるなら。」
突如、老店員が話題を買える。
聞き間違えかと思って思わず振り返る。
「弟夫婦が巣鴨で居酒屋を営んでる。」
『…えっとそれは。』
「昔から甘えた奴でね。
私が非番の日は必ず手伝いを泣きついて来るんだ。」
『…。』
「明日も休暇は潰されそうだな。」
そう言いながら老店員は居酒屋のショップカードを押し付けてくる。
チラ見すると確かに巣鴨の居酒屋。
「お客様カードに記載して頂けないのであれば、弊社ではお取引は出来かねます。」
マジか?
言ってみるものだな。
やはり日本はいい。
この日本語の幅広さがYesだね。