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ハウス イン ザ ダーク

静かな音が、流れていた。


神秘的で、チープでありながら…深い。


ラリー・ハードのSceneries Not Songs


いわゆるハウス・ミュージックの名盤。


かつて、EW&FやP-FUNK…


ファンクミュージックの全盛期。


あまりにも、大人数で、コスト面もかかるファンクミュージックを低予算で、1人でもやろうとしたのが、


ハウスミュージックといわれている。


ファンクやジャズのような生音ではないが…


これも、紛れもなく


ブラックミュージックだ。


午前3時…。


お客さんもはけたので、店を閉め、


里美は1人....


カウンターで、音楽を聴いていた。


(フゥ…)


深いため息をつくと、タバコに火をつけた。


いつから、タバコを吸うようになったのかは…覚えてない。


多分…


結婚し…離婚する間。


ダブルケイで働く頃には、タバコを吸っていた。


明日香に、怒られた記憶がある。


香里奈がまだ、小さかったから…極力、本数は減らすようにした。


今は、この閉店後しか吸わない。


漂う煙に、


ハウスミュージック…。


チープな音。


本物のミュージシャンになれなかった…


(あたしにぴったりな音)


でも、深い音…。


里美は、タバコを灰皿にねじ込むと、


カウンターから、ステージまで歩いた。


先日、香里奈がライブをやってから、使っていない。


折角ある場所。


音楽を奏でる場所。


里美は、ラリーハードの奏でる音に、身を任せながら、生バンドだけじゃなくて…


DJや、ラッパーを入れてもいいとは思っていた。


だけど…。


お客さんに聴かすというレベルは、なかなかいない。


その辺にあるクラブの音楽をメインにしたイベントも、


お客さんを楽しませることを、第一とした…パフォーマーは、ほとんどいないし、


ただ踊ったり、騒いだりする客も…音楽を楽しんでるという、雰囲気ではなかった。


(音楽は、自己満足…だけど…それで終わってはいけない)


ハウスや、ヒップホップ、ファンク。


次々に、自分達の音楽を作り出してきた


ブラックピープル。


その遥か後方で、形だけを真似る日本人。


機械など…物はいい。


音楽は…CDなどの商品であるけど…


心が必要だ。


ヒップホップやDJになることさえ、教室で習う日本人。


心を教えないと…。


里美が、音楽を教えるのをやめた理由は、


それだった。


(あたしは、恵子ママのように、心を教えられない)


明日香は恵子ママに、心を教えられた。


心が大切なのは、音楽だけじゃない。


ビバ・ホーム。


数年前に、亡くなったジェームス・ブラウンが、ライブ中…


観客に伝えた言葉。


会場が感動に包まれた。


ノッテルかではなく、故郷を、家族を想う。


レゲエは、故郷…アフリカを目指した。


日本人は何を目指し、


何を想う。


日本人が、故郷を想う時は…。


それは…この国が、なくなった時かもしれない。


心を教えられたとき、


日本人は、日本人の音をつかむことができるかもしれない。


それは、まだ…


明日香もつかんではいない。


自分の音はつかめても、


すべての日本人を、代表するような音をつかもうとする人は、いない。





「おばさん…店終わったんだ」


2階から、香里奈が降りてきた。


「まだ起きてたの?」


「ううん。ちょっと目が覚めただけ…」


そう言うと、香里奈は大欠伸をして、


「おやすみなさあい」


また2階に上がっていく。


「おやすみなさい」


里美は、香里奈を見送りながら、


「あの子は…何をつかむのかしら…」


タバコをまた、吸おうとして、里美はやめた。






広い湯船に浸かりながら、里緒菜は、深いため息をついた。


あたしは…心が弱い。


「あんな女に…」


里緒菜は、湯船に顔まで浸かった。


涙は、流さない。


「お嬢様…」


扉の向こうから、声がした。


「奥様がお持ちです」


湯船から、上がると、


「わかりました。すぐ行きます」


泣いてる暇なんて、


里緒菜にはなかった。



「里緒菜さん。あなたを呼んだのは、ほかでもないの…」


ディスクに座る母親。


一日中、売り上げや仕入れ額や人件費の計算に追われている。


それは、まるで病気だった。


「あなたにも、そろそろ現場を見てもらいたの」


渡された現場は、紙切れ数枚。


ただ売り上げが、書いた紙だけだ。


数字で、わかることもあるが、


わからないこともある。


過去と昨日だけを比べ、


未来を見れない経営者。


里緒菜は、書類を受け取ると、部屋を出た。


飲食業…それもファスト・フードなのだから、味や値段。


店の雰囲気など見に行くべきだ。


里緒菜はそう思いながら、廊下を歩いていた。


父親は、飲食業から離れ、他の事業に進出しょうとしていた。


付き合い等で、最近は家を留守になることが多かった。


廊下で立ちすくみ、ふっと窓の外を見た。


遠くで、電車が見えた。


人々の明かり。


里緒菜にはまるで…遠い町の明かりに感じられた。







barのバイトを終え、


2階へと帰った直樹。


和也はまだ、帰ってなかった。


1階の小料理屋は、結構忙しくなってきており、


和也の母、律子だけでは、金曜、土曜の満席になった店を、まわせなくなっていた。


和也や直樹も、手伝っていたけど、常に手伝えるわけでなかった為、


週末だけ、アルバイトを雇っていた。



律子の声と、店の活気は、直樹の心を落ち着かせていた。


たまに、1人でいることが、無償にこわくなることがあった。


無理やり1人になって、強くなったはずが…たまらなく、孤独を感じるときがある。


両親が死んで、


1人になったときの恐怖。


1人では何もできない現実の…恐ろしさ。


その記憶が、直樹を蝕んでいった。


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