彼女といるところ
慌ただしく、営業は続く。
律子の笑い声と、
いらっしゃいませと、
元気な里緒菜の声。
それに、誘われるように次々と、お客さんが入ってくる。
「里緒菜ちゃん。もうバイトの子が来るから、上がってくれていいのよ」
カウンターで、お客さんの相手をしながら、
律子は、ホールで忙しく動き回っている里緒菜に、声をかけた。
「はい。上がらせて頂きます。お母さん」
里緒菜は、エプロンを外すと、ホールの奥へ消えていった。
100人は入る店。
律子の店は、もとの小さな店舗から、町の中心部に移転し、
5階立ての自社ビルを持つに至っていた。
1階&2階は店舗。
3階は、事務所。
4階と5階は、律子と和也。
そして、里緒菜の家になっていた。
里緒菜は裏から、3階に上がる。
「もう店はいいの?」
少し驚いたように、和也は里緒菜を見た。
ディスクの上に、紙を並べ、和也は立ちながら…腕を組んで、悩んでいた。
「どれがいいと思う?」
デザイン画。
「そうね…次の新作?」
里緒菜は、ディスク上を覗き込んだ。
高校の時、時祭光太郎から貰ったお金で、
和也はモデルだけでなく、デザイン事務所をおこした。
それとともに、律子の店(可憐)の営業と宣伝に、力を入れた。
あれから、3年。
和也と里緒菜は、同じ大学に通いながら、
これらの事業を続けた。
同じ大学の方が、授業やレポートなどを分担できた。
それも、もうすぐ卒業である。
「これなんて、いいんじゃない」
一枚のデザイン画を、手に取る里緒菜。
和也は、感嘆していた。
これらの事業をまとめ、仕切ってきたのは、里緒菜だった。
(大したものだ)
和也は、里緒菜を見つめてしまう。
「ねえ?よくない」
里緒菜は、和也を見たけど…和也はデザイン画より、里緒菜に見惚れていた。
「どうしたの?あなた」
里緒菜は、和也の顔を覗き込んだ。
「あっ、ごめん」
和也は、我に返った。
「もお〜ぼおっとしない」
里緒菜は、頬を膨らませた。
2年前。
18歳の時に、2人は結婚していた。
駆け落ちに近かった。
里緒菜の両親には、反対されたが、2人は席を入れた。
「やっと軌道に乗ってきたんだから…慎重に選ばないと」
1枚1枚を、真剣に選ぶ里緒菜を、
頼もしく、愛しく
和也は感じていた。
何も言わない夫に、
「カズくん。真剣にやってちょうだい」
和也は苦笑すると、
里緒菜に近づき、
頬に口づけをした。
「里緒菜」
「何よ」
いきなりで、少し恥ずかしそうに、里緒菜は和也を軽く睨んだ。
「大学卒業したら…母さんと3人で、旅行でも行こうか」
和也の提案に、
「店はどうするのよ」
「ここ3年間、働きぱなしだぜ。少し骨休みしても、罰は当たらないさ」
少し里緒菜は考え込むと、
今度は、里緒菜から和也に軽くキスをした。
「その代わり。卒業したら、全力だからね」
和也は肩をすくめ、
「怖い奥さんを貰ってしまった」
「後悔してる?」
里緒菜は、和也にきいた。
「いや」
和也はまたキスをし、里緒菜を抱きしめた。
「卒業したら…今以上に頑張るから…」
「頑張るから…何?」
里緒菜も抱きしめる。
「お前の子がほしい…」
「あたしもよ」
2人は、ぎゅっと抱き締め合い…深くキスをした。