ジュリア
「今の世界情勢は、わかっている…。勿論、国内の状況も。それに、私の政策に対する批判も…」
エドワードは、ホワイトハウスのプライベートルームで、
ジュリアと2人。
ソファーに腰掛け、
エドワードは、ジュリアを見つめながら、しゃべり続ける。
「しかし…今、この国のやり方を変えたら…世界は、混乱するだけだ」
「この国は…正しいんですか?」
ジュリアは、素直な素朴な質問を投げかける。
「大統領にきいてる?それとも…エドワード・バッシュにきいてる?」
ジュリアも、エドワードを見つめ、少し考えると、
「…あなた自身の言葉で…」
エドワードはフッと笑うと、
静かに話し出す。
「ある者にとっては、正しく…ある者にとっては…正しくないと思われる…この国は、そういう国だ…いや、すべての国がそうだ。国とは…国の為にしかない」
エドワードは言葉を止め、少し考え込む。
「エドワード…」
ジュリアは、エドワードの横顔を見つめた。
そこには、苦悩があった。
「私も何とか…変えようとしているが…この国は…大統領になっても…変えることは難しい…」
そう言って、肩を落とすエドワードの手に、
ジュリアはそっと…手を添えた。
「ありがとう…」
エドワードは、ジュリアに微笑んだ。
「ジュリア…」
エドワードは、ジュリアに身を寄せようとした。
しかし、
ジュリアは、エドワードから離れた。
「エドワード…」
ジュリアは立ち上がり、
ゆっくりと振り返った。
「マネージャーが待っていますので…」
少し悲しげな瞳を、浮かべた。
「ジュリア…」
「今日はこれで…失礼します」
ジュリアは、頭を下げると、
「ただ…あなたは、すばらしい大統領です」
エドワードに微笑むと…部屋を出た。
「ジュリア!」
エドワードの声も無視して…。
「ジュリア…どうしたの…?」
予定より早く…いきなり、部屋に入ってきたジュリアに、ティアは驚いた。
「計画は…」
「お姉様!」
今までにない強い口調と、迫力のジュリアに、
ティアは思わず、気を落とされる。
「はい」
「今日は…帰りましょう」
ジュリアはそう言うと、
ティアの手を取り、強引に部屋を出た。
「ジュリア…。CDの売上は、伸び続けているわ。チャートの一位の記録を、どこまでのばすことかしら」
ティアは、楽しそうに笑った。
少し遅い昼食を、ティアとジュリアは一緒にとっていた。
「プレジデントとのうわさも…シンデレラ・ストーリーとして、話題になっているわ」
本当に、嬉しそうなティア。
「お姉様…」
ジュリアは、出されたスープを飲み干すと、
ティアを、真正面から見据えた。
「もうやめましょう…」
「何をやめると言うの」
ティアも、ジュリアを見た。
ジュリアは視線を外さずに、
「すべてをです」
「ジュリア…」
「エドワードを殺しても…何も変わらない」
「……」
「マルコが、好きだった歌のように…歌うことも、できてないわ…」
「ジュリア!」
ティアは、激しくテーブルを 叩いて、立ち上がった。
それでも、ジュリアは動じない。
「お姉様…もうやめましょう。あたしたちのやってることは…正しくないわ」
「ジュリア!あなた、何を言ってるの!」
「お姉様…もう自由になりましょう」
ジュリアは微笑んだ。
その口元から、
赤い血が流れた。
「ジュリア!」
ティアは驚き、ジュリアに走り寄った。
「あたしがいたら…お姉様は止まらない」
ジュリアの口から、
血が溢れた。
「誰か!誰か!早く!病院に…」
ティアは叫ぶ。
ジュリアは、椅子から倒れた。
ティアは、ジュリアを抱き起こす。
叫び声に気づいたホテルのボーイは、扉を開け、ジュリアの様子に気づき、
慌てて部屋を出た。
「ジュリア…どうして…」
ティアは泣きながら、ジュリアを抱きしめた。
ジュリアはゆっくりと…顔を動かし、
「あの施設から…マルコお兄様とティアお姉様に…助け出され…あたしは、いろんな世界を見ることができた…」
ジュリアは、ティアの顔を覗き込み、微笑むと、ティアの頬に触れた。
「お姉様は…本当は誰よりもやさしい人。だけど…そのやさしさを、あたしだけに向けて…他には、抑えてる。無理やり…」
「ジュリア…」
「自由になって…お姉様…」
部屋に、救急隊員が入ってくる。
ジュリアが、飲み干した皿をチェックした。
毒が盛られていた。
それは…ジュリア自ら、入れたのだ。
「お姉様…」
ジュリアは、ティアの顔にゆっくりと触れていく。
「やっぱり…お姉様は…綺麗」
ジュリアは嬉しそうに、微笑んだ。
「最初に見えたのも…お姉様だった…」
「ジュリア…」
「最後も…」
ジュリアはにこっと笑う。
「お姉様でよかった…」
ティアの腕の中で、
ジュリアは、永遠の眠りについた。
パーフェクト・ボイス。
小さな施設の部屋から、
歌姫は、飛び立ち、
ついに、
永遠の空へ旅立っていった。
「ジュリア!」
ティアは、ジュリアを抱きしめながら、いつまでも泣き続けた。