プロローグ3 見えた世界
「どう?ジュリア…」
顔に巻かれた包帯が、ゆっくりと、外されてくる。
すべてが外れた後…
ジュリアはゆっくりと、
目を開けた。
部屋を照らす…
明かりが眩しすぎる。
思わず、
目をつぶるジュリア。
「痛い?」
ジュリアは、首を横に振り、
「大丈夫…お姉様」
ジュリアは、もう一度…目を開けた。
最初は、焦点が合っていなかったが…。
やがて、
視界は鮮明になる。
瞳が、ティアを映した。
「お姉様…綺麗…」
ジュリアは、ティアの顔を見て、思わず…つぶやいた。
「ジュリア!有り難う…あなたも綺麗よ…」
ティアは、ジュリアを抱きしめると、
手鏡を手に取り、
ジュリアの顔を映した。
「これが…あたし…」
黒い大きな瞳。
それが、最初の印象だった。
この瞳は、提供者のものだった。
「立ってごらんなさい」
体も軽かった。
部屋を歩いてみる。
椅子などを、自分で避けることができる。
ある程度、歩くと、
ジュリアは、胸を押さえた。
心臓も、貰った。
ジュリアは、生まれ変わったのだ。
煌びやかな光の中、
多くの人々が、作り笑いを浮かべている。
パーティー…。
形だけの社交場。
馬鹿らしいと思いながらも…ティアもまた、人混みの中にいた。
そばに、今回のパーティーの主役がいた。
ジュリア・アートウッド。
パーフェクト・ボイス。
すらっとしたしなやか肢体に、
まっすぐな瞳。
彼女は、ここにいる誰よりも、
輝いていた。
さらに、観客がざわめく。
扉の向こうから、
もう1人のメインの主役が、到着したのだ。
時の…世界の最高…権力者。
エドワード・バッシュ。
まだ若い…指導者は、
音楽が大好きだった。
今日は、バッシュの誕生日だった。
到着とともに、
ステージ上にいる楽団が、
演奏を始めた。
エドワードは、ジュリアに気づき、近づいてきた。
「今日は、わざわざお越し頂いて…心から感謝しています」
エドワードの差し出した手を、
ジュリアは握り返した。
「こちらこそ…お招き頂いて、有り難うございます」
ジュリアは握手しながら、
クスッと笑った。
「何か…私の顔についてるかな…」
「いえ…ただ…」
ジュリアはいたずらぽく、
エドワードを見、
「プレジデントには…クリスティーナの方が、よかったのではと…」
「ああ…」
エドワードは驚き、思わず口ごもり、
咳払いをすると、
ジュリアの顔を見、
「彼女は…残念なことになった。お悔やみ申し上げる。だが…」
エドワードは、握手をとくと、
「私は…あの声に、魅力されたんだ…」
エドワードの言葉に、
ジュリアは微笑んだ。
ティアは、2人をじっと見ている。
「プレジデント」
側近らしき人物が、エドワードに耳打ちした。
「わかった」
側近に、頷くと、
ジュリアにまた笑顔を向け、
「あなたの歌。楽しみにしています」
ジュリアはさらに微笑み、
「マリリン・モンローのように、歌います」
それを聞いて、
エドワードは、
「それは、やめてくれ。スキャンダルは困る」
ウィンクした。
そして、エドワードは挨拶の為、ステージに上がった。
エドワードの挨拶の後、
しばらくしてから、
司会にコールされ、
ジュリアは、ステージに上がる。
階段を上がるジュリアの視線が、
ステージの一番前のテーブルにいるエドワードをとらえる。
ジュリアはずっと、エドワードを見つめている。
静かに…演奏が始まり、ジュリアは歌い始める…
運命の歌を。
ティアは、グラスの中のワインを飲み干し、
そして…
口元を緩めた。