プロローグ2 籠の中にずっといたから
音が泣いているのが、わかった。
光も、
鳥たちも泣いている…。
(今日は何かあったかしら…?)
ベットの中から、
少女は身を起こした。
生まれつき、体が弱い…彼女は、
身寄りもなく、
いつ死んでも、おかしくなかった。
施設で暮らす少女は…
目を見えず、
心臓も弱かった。
なぜ、生きてるの…
どうして…生かされてるのか…。
理由は、わからなかった。
両親の意味も知らない。
いつもベットの中、
ただご飯だけを貰っていた。
そして、名前…。
この施設にいる子供は、
アルファベットで呼ばれていた。
少女は、J…。
Jと呼ばれていた。
「お前たちは…欠陥品だけど…使える部分があるから…育てている」
そう管理人に、いわれたことがある。
他のアルファベットの子供たちは、
年が過ぎるにつれ、
何人かいなくなっていた。
ある夜。
5人のアルファベットの少年少女たちが、話し合っていた。
「ここにいたら…殺されるだけだ…」
「逃げよう」
「J…あなたは、連れて行けないの…」
Dで呼ばれる少女は、
Jを抱きしめて、
「あなたは…目が見えないし…早く走ることもできない…」
「D…」
「ごめんなさい…あなたとは姉妹なのに…」
そう言って抱きしめるDには、片手がなかった。
「何してる!いくぞ」
Qと呼ばれている少年は、Dを促す。
「J…さようなら…。できるだけ…長生きしてね…」
少年少女たちは、窓から飛び降りた。
すぐに、大人達の怒声が、響き、
銃声が轟いた。
「ああ…売れなくなっちまった…」
銃声が止んで、しばらくしてから、
廊下から、大人の声がした。
「まあ…次を連れてくりゃいいさ」
「育てるのに、時間がかかるぞ」
「何とか使える部分だけでも、売りゃいいさ」
大人の嫌な会話。
Jにも、その内容が理解できた。
それから、何ヶ月たった…ある日。
Jの周りが、慌ただしくなった。
「ここを感づかれたぞ!」
「急げ!レジスタントだ」
「証拠は殺せ!」
バタン。
激しい音を立てて、
Jのいる部屋のドアが開いた。
銃声が鳴り響いた。
震えるJ…。
誰かが倒れる音がした。
そして、誰かが部屋に入ってきた。
Jに近づき、
Jに触れた。
暖かい手…。
怯えるJに、やさしく言った。
「もう大丈夫だ」
「マルコ!」
他の男が、入ってきた。
「大体、片づいたぞ」
「生存者がいた。保護するぞ」
マルコは、Jをベットから、抱き上げた。
「安心して…もう君は自由だ」
また...それから、少し時は過ぎた。
「ティア!」
マルコは、棚をひっくり返しながら、
「LikeLoveYouのCD、どこにやった!明日香が、新しいやつを送ってきただろ?」
広間で、仲間たちが集まっていた。
「知らないわよ」
ティアは忙しく、料理を運んでいた。
「Jに聴かせたいんだ!この子は、音楽の才能がある」
食べるのも、後回しにして、マルコは、CDを探す。
「あのお…お構いなく…」
Jは、椅子に座りながら、
マルコのいる方向に向かって、話しかける。
「あった!」
マルコは、やっとCDを見つけた。
「J!」
マルコは、嬉しいそうな顔をJに近づけ、
じっとみつめ、
「前から思ってたんだけど…」
「な、何ですか…」
Jは焦る。
「Jって…呼び名。女の子らしくないよな」
マルコはにこっと笑い、
「ティア決めたぞ!Jの名前は、ジュリアだ!」
マルコは、Jの手を取り、
「ジュリア…アートウッド…。ジュリア・アートウッドだ!」
「ジュリア…」
J は呟いた。
「ジュリア・アートウッド!今日から、俺の妹だ!」
マルコは、ジュリアを抱き上げた。
周りが歓声を上げた。
「ティア!ジュリアは…今日から、俺たちの妹だ!」
マルコは、嬉しそうに叫んだ。
だけど、時は早い…。
幸せは、すぐに終わる。
「ティア!ジュリア!」
凄まじい爆音と、
破裂音と、
泣き声と悲鳴…。
人々が死んでいく。
圧倒的な戦力だった…。
「ティア!」
崩れ落ちる瓦礫の中で、
ティアは倒れていた。
服は、脱がされ…
下半身から、
血が流れていた。
「あ…赤ちゃんが…」
ティアは、血まみれになりながら、
マルコにすがりついた。
「ティア…」
マルコは、ティアを抱きしめた。
「マルコ…ジュリアが…」
ティアは、力ない手で…向こうの部屋を指差した。
爆音の中、
すすり泣く声と、
男たちの荒い息使いが、聞こえてきた。
マルコは、ティアをそっと横たえると、
隣の部屋に向かった。
銃を構え、ゆっくりと近寄る。
部屋を開けた…
マルコが見たものは…
「うわああ…てめえらあっ!」
マルコは、群がる男たちに、銃を構えた。
凄まじい銃声が上がった。
バタンと崩れ落ちた。
「お前ら…やるときは、周りに気をつけろ」
銃を構えた軍服を着た男が、言った。
銃口から、煙が出ている。
「ま、マルコ!」
ティアは、倒れたマルコにすがりついた。
後ろから、撃たれて…
即死だった。
マルコを撃った男は、
ティアに銃口を向け、
「使用後か…」
鼻を鳴らし、ティアの様子を見、
「つまらんな…」
男は銃口を下げた。
男の耳から、
シャカシャカと、男がもれる音がした。
男は、ウォークマンを聴いていた。
ティアの唖然をする顔に、
「これ?」
ウォークマンを指差し、
「さっき、殺したやつから、拝借した」
男はウォークマンを外し、
ティアに投げた。
「お前ら…向こうの音楽が好きだったな…」
ウォークマンが、ティアに当たる。
「音楽に、癒やしてもらいな」
男はそう言うと、
大爆笑した。
「ハハハハ…!」
唾を、ティアに向けて吐きかけると、
「帰るぞ…。ほとんど殺したしな」
ジュリアに群がっていた男たちも、
欠伸をしながら、
引き上げていく。
残されたティアは、マルコを抱きしめながら、
周りの惨劇を見、
泣き崩れた。
再び...時が過ぎた。
安ホテルの一室。
男は、タバコを吸いながら、シァワーを浴びている女を待っていた。
今夜は、上玉だった。
あんないい女…
めったに当たらない。
女は、バスタオル一枚で、
出てきた。
男は、タバコを灰皿に押しつぶすと、
すぐに女をベットに促した。
電気を消さず、
バスタオルを取ると、
あまりの美しさに、
見てとれてしまう。
男は、女にしゃぶりついた。
「ねえ…」
女は、夢中になっている男の髪を撫でた。
「今日は…抱けるのね…」
女は耳元で、そう囁いた。
「ああ?」
男が顔を上げた。
額に、冷たいものが当たった。
それは…。
ティアは、引き金を引いた。
銃声が、部屋に轟く。
ティアは、ベットから出た。
服を着ると、
鞄から、あるものを取り出した。
それを、ベットに横たわる男に、投げつけた。
「音楽に、癒やしてもらいな」
それは…
ウォークマンだった。
「お姉様…」
部屋の前で、待っていたジュリア。
ティアは、目が見えないティアの腕を取ると、
「いくわよ。ジュリア…」
ティアは、歩き出した。
「もうこの国に、用はないわ…」
ティアに手を引かれながら、
ジュリアはきいた。
「お姉様…どこにいくんですか?」
「アメリカ」
ティアは無表情で、ぶっきらぼうに言った。
「アメリカ?」
ジュリアは、知らない国だった。
「そう。あたしたちの…敵がいる場所よ」
ティアは、唇を噛み締めた。