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Perfect Voice編 プロローグ

冬のニューヨーク。


いきなりの訃報が、ダブルケイに届けられた。


差出人は、


知らない人物からだった。


サミー・ローチ。


恵子は、封筒を開けた。


その中に、


さらに手紙があった。


手紙の宛名は、


日本語で書かれていた。



速水恵子様。


差出人は、


安藤理恵。


恵子から、


健司を、


歌声を


奪った女…。


封を開けた恵子は、


すぐに、


ニューヨークに向かった。




凍りつくような寒さの中、


恵子は


生涯の最高の


暖かさを得ることになる。




自由の女神が、すぐそばに見える…


海辺の近くで、待ち合わせた。


サミーは、赤ん坊を抱いて歩いていた。


荷物なんてなかった。


健司達がこの…


ニューヨークに残したのは、


一粒種の


たった1人の赤ん坊。





沈む夕陽の輝きの中、


1人の女が立っていた。


わざわざ日本から…自分を捨てた男と


奪った女の


子供を引き取る為に。



もし、恨んでいるようなら、


サミーは、この子を渡すつもりはなかった。


生まれたばかりの子供を、わざわざ不幸にすることはない。



深々と、頭を下げた恵子に、


サミーは子供を見せた。


その時の恵子の顔…。


サミーは、一生忘れないだろう。


あまりにも、優しい笑顔に、


サミーは、赤ん坊を恵子に渡した。


恵子の腕の中に、包まれた赤ん坊は…


泣きもせず、


嬉しそうに笑った。


幸せそうに…


夕陽で、輝いた海がキラキラ光り…


その中で、



幸せそうに、笑い合う…親子。


サミーには、そう見えた。


出会うべき2人…。




あれから、


何十年もの時が過ぎた。


サミーは再び、


自由の女神が見える


あの場所に来ていた。




カモメが、飛び交う夕暮れ。


サミーは歩いていた。


海辺近く…


佇む1人の男のそばまで…。



「明日香はどうした?」


サミーの問いかけに、


啓介は、振り返らずに、


こたえた。


「部屋で、曲を書いてる」


「珍しいな…」


サミーは、啓介の隣に立った。


「影響されてるんだろう…」


2人の目の前が、だんだん暗くなっていく。


「perfect voiceか…」


サミーの呟きに、


「ああ」


啓介は頷いた。





「啓介…」


サミーは、啓介を見た。


「何だ」


啓介は、サミーを見ない。


「もうお前には…関係ないことだ…」


啓介は、フッと笑った。






数ヶ月前。


全米を襲った…音のドラッグは、


突然現れた…


歌声により、一掃された。


perfect voice。


1人の少女によって…。


彼女の名は、


クリスティーナ・ジョーンズ。


舞い降りた天使は、


その…この世の声とは思えない歌声によって


人々を癒やし、


瞬く間に、


全米一位。


大統領さえも、ファンと公言する…。


すべての話題を、独占していた。



「音のドラッグは…パーフェクト・ヴォイスの為の、布石に過ぎない…」



啓介は、唇を噛み締め、拳を握りしめた。


「しかし…こんな…早く完成していたなんて…」


夜が訪れたニューヨーク。


自由の女神の向こうから、


巨大な飛行船が、飛んできた。


夜よりも暗い影を、


啓介とサミーの頭上に落として、ニューヨークの空を飛ぶ。


飛行船から、流される


パーフェクト・ヴォイスの新曲を聴くために、


普段、騒がし過ぎるニューヨークの街並みが、


静まり返り、


行き交う人々が、空を見上げる。


飛行船は、その先にある…光り輝くベースボール・スタジアムを、目指していた。


その飛行船には、クリスティーナが乗っているのだ。


金髪で、美しく、


セクシーな歌姫。


アメリカの美しさ…そのものだった。




頭上を通り過ぎた飛行船を見上げながら、


目で追うサミー。


啓介は、歩き出す。


「しかし…どんなに、すばらい歌でも…子供の頃にきいた…母さんの歌声にはかなわない…」


「ママの子守歌か…」


「特別な歌だ…」


啓介は、微笑んだ。


「母親が、子供の為に、愛情だけで歌う歌…」


サミーはにやっと笑い、


「男は誰も…」


啓介は足を止め、


振り返り、


「マザコンだ」


そう言うと、


2人は笑い合った。






飛行船は、スタジアムの上で止まり、


そこから、


歌姫が、降りてくるはずだった。



飛行船から、一気に落ちてきたものは、


自由落下で、


普通に、地面に激突した。


マウンド上に、


鈍い音と、砂埃。


そして、


血が


飛び散った。



何万人もの歓声が消え、


悲鳴に変わる。


多くの人々の目の前で、


死んだのだ。


パラシュートも何もつけず、


歌姫は、その命を散らした。


スタジアムは、パニック状態になった。


歌姫の突然の死。


それは、呆気なく、


儚く、


おそろしく、


トラウマになるほどの


ショックを、全米に与えた。


しかし、


本当のショックは、


まだ訪れていなかった。




飛行船から、


真っ逆さまに落ちていく映像は、


ライブで全米中に流された。


その衝撃は、


さらなる衝撃…


真実を浮き彫りにした。



クリスティーナではなかったのだ。


この歌声は…。


クリスティーナは、替え玉を使っていた。


本当は、歌えない彼女の為、


レコード会社が用意した替え玉が、


吹き替えを担当していた。



白いブロンドの美女ではなく、


黒髪に、


とても凛々しい女。


彼女は、純粋な白人ではなかった。


典型的アメリカン美女ではなかったけど、


スパニッシュ系のハーフ…


彼女も、十分魅力的だった。


レコード会社によって、


替え玉にされていた


不幸な歌手。


悲惨な事件に、不幸な歌手…。


これは、物凄い話題となった。


真の歌姫は、他にいた。


悲惨な事件を、かき消すほど…


その話題は、大きく取り上げられた。


その歌手の名は、


ジュリア・アートウッド。





「さあ…行きましょうか」


ステージの袖にいる女の言葉に、


ジュリアは笑顔で、頷いた。


「はい…ティアお姉様」


ジュリアは、ステージに上がる。


その様子を、


ティア・アートウッドは、優しく見送っていた。



今…


新たな歌姫の伝説が、はじまる。


きらびやかな光を切り裂いて、歓声を浴びながら。




パーフェクト・ヴァイス編…開幕。



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