Karina
リズムが跳ねる。
独特のスウィグ感を持って、ドラムセットの中で、
里美が叩いていた。
ペパーミント。
里美のバンドが、リハーサルをしていた。
女の子バンド。
ギターが、激しくカッティングを繰り返し、
甘ったるいボーカルが吠える。
ダブルケイのステージ上。
ジャズ専門と思われているが、そうではない。
いろんな音楽を聴かせてくれる。
ただし、
恵子が気に入れば…だったけど…
今のママである明日香は、恵子より、情にもろかった。
だけど、お客さんの前で、演奏させるかの判定は、厳しかった。
例え、里美のバンドでも…。
「ちょっとずれてる」
さっきまで、ステージにかじりついてた香里奈が、
カウンターの中にいた明日香のそばまで、走ってきた。
絶対音感。
香里奈が、生まれながらに持ってるものだった。
明日香は、香里奈の頭を撫でた。
「あれは…いいのよ」
まだ4歳の香里奈には、わからない。
啓介が喜びながらも、心配していた。
「絶対音感を持ってることは、すばらしいけど…」
少しため息をつき、
「ズレていて、いいときもある。特に、今のメインミュージックは…。クラシックなら、いいだろうけど…ズレた感覚を気持ち悪いと感じるようなら…」
啓介は、心配気に香里奈を見て、
「音楽を、嫌いになるかもしれない…」
微妙な感覚を、教えてあげたいけど、
小さな香里奈には、無理だった。
せめて…楽しさを思って、ノリがよいロックや、ダンスミュージックを聴かせたけど、
香里奈は気持ち悪がった。
だけど、明日香のミュートの音や、啓介のサックスは、あまりいやがらなかった。
パパとママの声に聴こえるらしかった。
「ママのトランペット」
吹いてほしいらしい。
でも、今は里美たちの練習中だ。
明日香が困っていると、店の扉が開いた。
お客ではない。
天城百合子ともう一人。
天城志乃だ。
「志乃ちゃん!」
香里奈が走っていく。
香里奈より、3つ上の7歳の志乃は、
お姉さんのように、香里奈の相手を、よくしてくれていた。
「先生、おはようございます」
志乃の本当の姉である百合子は、今年20歳である。
結構、年の離れた兄弟だった。
高校1年の春に、
LikeLoveYouのCDを持って、ダブルケイを訪ねてきたのだ。
彼女は、残念ながら…音楽の才能を、見いだせなかったけど、
今は、大学の演劇部で…女優をしていた。
ここで得たボーカルレッスンが、役立っているらしい。
百合子には、才能がなかったが、
たまに、いっしょに遊びに来ていた志乃に、
才能があることを、啓介や阿部たちは見抜いていた。
今は、週に何回か、ボーカルレッスンを受けにきていた。
妹は、天才かもしれない。
明日香は…
仲良く遊ぶ志乃と、香里奈を見守っていた。
天才と絶対音感。
2人は仲良く、楽しく、音楽を学べたら、いいんだけど…
明日香は、2人の子供の幸せを願った。