二人
手術は無事に終わり、ベットに横たわる和也のそばに、
直樹はいた。
「お前も帰れ…」
意識が戻った和也が、言った。
美奈子は、一旦店に帰り、の予約があった為、
それだけすますと、夜には病院に戻ってくる。
「和也…」
夕日が沈み、
夜がやって来る空を、直樹は窓から眺めていた。
「何だ…?」
和也は、直樹の方を見た。
直樹は、自嘲気味に笑い、窓ガラスに頭をつけた。
「俺は、何やってんだろ…」
「直樹…」
「お前は…好きな人をちゃんと守ったのに…」
直樹は、拳を握りしめた。
「情けないよ…」
和也は、直樹から視線を外し、
「だから…逃げるのか?」
直樹は、和也を見た。
「守れなかったから…あいつと釣り合わないから…逃げるのか?」
和也もゆっくりと視線を、直樹に戻した。
2人は、お互いを見つめ合う。
和也は問いかけ、直樹は答えを探す。
直樹はやがて…フッと笑うと、和也から、視線を外した。
「直樹!」
「和也…」
もう答えなんか、とっくに出ていた。
直樹は、和也に近づき、ベットの端に、手を置いた。
「俺が…」
そして、和也に顔を近づける。
「逃げるような男に、見えるか?」
「直樹…」
和也は、直樹の真剣でまっすぐな瞳に、驚いた。
「俺は逃げないよ」
直樹は、きっぱりそう言うと、ベットから離れ、
「今回のことで…俺は思ったんだ…」
直樹は、窓に近づく。
「何を、調子に乗ってるんだと!釣り合うだの、釣り合わないだの…そんなこと言う前に!」
直樹は、窓の横の壁を叩いた。
「愛する人を、守れるようじゃないと…だめなんだと!」
「直樹…」
直樹は、和也を見、
「それを教えてくれたのは…お前だよ。和也」
直樹は、そう言うと
照れくさそうに、
「怪我…早く治ったらいいな」
「ああ…もう大丈夫だ」
和也は微笑んだ。
直樹は、和也に頭を下げ、
「な、直樹!?」
「ありがとう」
頭を上げると、直樹も微笑み、
「じゃあ、帰るわ」
「おお…気をつけて」
ゆっくりとドアに近づくと、ノブをしっかりと掴み、直樹は振り返った。
「如月さんに…告白しろよ」
和也は、目を丸くした。
「好きなんだろ?」
「ああ」
和也は頷いた。
「いずれ…するよ。急いでないから」
「頑張れよ」
「ありがとう」
和也は微笑んだ。
病院を出た直樹は、携帯を取り出し、電話をかけた。
すぐにつながった。
「香里奈さん。ちょっと話がある…いつもの公園で…」
携帯を切ると、直樹は走り出した。
駅まで。
まだ時間は早いが、もう真っ暗だ。
でも、直樹には、外のすべてが、清々しかった。
直樹が帰った後、
しばらくして、病室のドアが開いた。
「母さん…?早かったな………!?」
「こんな時間に…ごめんなさい」
入ってきたのは、里緒菜だった…。
「如月…」
和也は驚き、
「どうしたんだ…」
「非常識だと思ったんだけど…。一言…お礼が言いたくて」
里緒菜は深々と、頭を下げ、
「ありがとう。あたしのせいで…こんな怪我をして…」
里緒菜が、泣いていることに、和也は気づき、
「やめてくれ!」
思わず、身を起こそうとして、
「痛っ!」
痛みに、体をのけぞらした。
「藤木くん!」
里緒菜は、走り寄った。
「大丈夫?」
顔をしかめながらも、
「大丈夫だよ」
そして、
泣いている里緒菜の涙を、和也は指で拭った。
「お前を…泣かす為に、やったんじゃないんだけどな…」
和也は、微笑みかけた。
「あたしのせいで…」
「如月のせいじゃないよ…」
和也は、里緒菜を見つめ、
「それに…如月が怪我する方が…俺は…こんな傷より、痛いんだ…」
和也は、何とか動く左手で、里緒菜を抱き寄せた。
「無事で…本当によかった」
香里奈が公園に着くと、もう直樹はいた。
「ナオくん」
香里奈が、駆け寄ろうとするのを、直樹は手で制し、途中で止めた。
「そこで…聞いてほしい」
「ナオくん…」
香里奈は、足を止めた。
「今日は、ごめん」
直樹は、頭を下げた。
「俺は、きみを守れなかった…」
「ナオくん…でも、あれは…」
直樹は首を横に振り、
「俺は、何があっても…きみを、守らなければならなかったんだ。だから!」
直樹は、香里奈を見た。
「俺は、もっと強くなる!きみを守る為、もっと強くなる!もう二度と、今日みたいなことには、ならないから!」
直樹の強い意志を感じ、
香里奈も、胸をぎゅっと抱きしめると、
「あたしも誓ったの!今回のことは、この前の事件が絡んでるかもしれない!だから、あたしは!」
香里奈は叫ぶ。
「もう二度と…あたしの周りの人々を、傷つけさしたりしない」
香里奈は、拳を握りしめ、
「例え…相手が、アメリカの有名な歌手でも…あたしは戦う!」
「じゃあ、俺は…香里奈を守る!絶対にそいつらから…守る」
「ナオくん....」
「香里奈!」
直樹は、初めて呼び捨てにしていた。
もう変な遠慮はしない。
「大好きだ。ずっと、ずっと、大好きだ!」
直樹は心の底から、
叫んだ。
「ナオくん…」
香里奈は、前に出た。
「あたしも、ナオくんが大好き!」
香里奈は初めて、
気持ちを口にした。
そして、
香里奈は駆け出した。
直樹の腕の中に、飛び込んだ。
「香里奈…」
「大好きだよ」
2人は抱き合い、
そして、
自然と、
はじめてのキスを交わした。
それは、不器用なキス。
だけど、
ただ一回の
永遠に記憶に残る口づけ。