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刻の魔術師  作者: 山木 拓
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第1話


 一人の男が書庫を漁っていた。夜中、手元の懐中電灯を頼りに、黙々と。男が探しているのは、未来を見通す力についての本だった。男はその本が簡単に見つかるとは思っていなかった。過去に何度もその書庫に入ったことはあるのだが、それらしきモノを見かけたことがないからだ。なのでそれを探すために、棚に並べられたもの、机に積まれたもの、床に落ちているもの、隅から隅まで全てに目を通そうとしていた。


 男は考えた。「どこか見落としは無かったか? 全ての表紙に目を通したか?」しかし以前と同じように探して見つかるはずもなかった。「もう一度最初から全ての表紙に目を通すべきか?」この案を採用仕掛けたが、それは踏みとどまった。いくら探しても無いものは無い。男は冷静になって書庫全体を見渡した。目立たないように並べられた本も無ければ、鍵の付いた本も無かった。ましてや隠し扉も無い。であれば、そもそも探している本は書庫で取り扱っていないのではないか、この結論に男はやっと辿り付いた。


 男は書庫を出て、足音が響かないよう気を付けながら危険物の保管庫へ向かった。書庫のある階の下の下の、ずっと下の階に降りていった。保管庫の扉は当然ながら鍵がかかっている。しかし男は気にも止めなかった。鍵穴を覗き込み、そして左手の人差し指を鍵の形に変形させた。その指を鍵穴に突っ込んで少し待つと、鍵が回った。

「案外ちょろいもんだな」

 扉を開くと中には刀や槍、巻物、人形が置いてあったのだが、どれもこれも見るからに妖しい何かを纏っているように思えた。そういうのには出来るだけ触れないように、例の本を探した。一通り見渡して本一冊すら見つからなかったのでアテが外れたのかと帰ろうとした際、甲冑が着せられた人形の後ろに本棚が隠れているのが目に入った。恐る恐るそれをどけると、またしても妖しい本がいくつか並んでいた。その中の一冊に、探し求めていた本があった。男の口角はほんの少しだけ上がっていた。


「さて、次の問題は帰り道か」

 心の中で呟くと、建物の裏口に向かった。暗い廊下を静かに歩いていると、後ろから誰かが声をかけてきた。

「あんなモノが集められている倉庫にしては、随分簡単に開いてしまう鍵だなとは思わなかったのかね?」

 その声には覚えがあった。かつて同じ釜の飯を食べた仲の一人、法華津。昔の知り合いを相手にせずに、すぐさま駆け出して逃げる選択肢もあったのだが、それはやめた。

「いやいや、いくらなんでも簡単すぎると思っていたよ。何かがおかしいって気づいていたよ」

「強がりはよしたまへ。頭領と林桜がいない時分を狙ってきている時点でお前は負けを認めているんだ」

 男は法華津の言い草に少しだけ腹が立った。なので振り返ると同時に、掌から光の矢を幾つも放った。決して狭くはない通路だったが、それだけで視界が埋まるほどの量だった。しかし法華津はそれを一本一本確実に避けて、躱しきれないものは拳や脚で弾いた。全ての矢を回避すると、今度は光の弾を作り出して男に投げ込んだ。

「あんな小さな攻撃を重ねても無意味なのだよ。必要なのは、一発ごとに相手を退けようとする強い意志だ」

 先程の光の矢よりも圧倒的な速度だった。光の弾は男の腹に直撃した、のだが簡単に消え去ってしまった。

「お前、まだ俺と互角だと思っていたのか?」

 男が手をかざすと、法華津が避けた矢が戻ってきて、その背中に次々と刺さった。

「避けるんじゃなくて、弾けばよかったのに」


 意識が無くなっているのを察すると、また出口に向かって歩き出した。しかしその時、通路の灯りが全てついた。そして建物全体が騒がしくなっている空気を察知した。男は他の者と戦いになってもそう簡単に負けるはずもなかったが、さすがに大人数を相手してはいられない。この状況でコソコソと隠れながら逃げ出すのも面倒に感じたので、今度は掌で光の回転刃を作り出し、壁に放った。こうして通路の側面を大きな音と共に四角くくり抜いてしまった。「おい、下の階だ」「あっちで何か音がしたぞ」人が集まってくるのがわかった。男は穴を何度か作り、中庭に出た。そこには頭領の下で修行する者たちが走り回っており、その全員が男を発見した。取り押さえようと向かってきたのだが、一人の血相の悪い女が目の前に現れた。

「例の本は見つかりましたか、竜鬼様」

「ああ、ようやくだよ。じゃあ頼む、君じゃないと結界を抜けられないからね」


 血相の悪い女が空間に手をかざすと、黒い霧のようなものが現れた。二人はそこに消えていった。



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