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間の話①


 たくさんの生徒に紛れて新太は校門をくぐった。二日間の停学のあと土日を挟み、四日ぶりに新太は学校に登校してきた。


 下駄箱で中履きに履き替えて階段を上る。

 教室の前までやってくると、新太は浅く深呼吸をした。教室の中からは喧噪が聞こえてくる。

 教室の扉を開くと、ガラッ、と音がなった。

 扉の近くにいた生徒が新太の顔を見た瞬間、わかりやすく青ざめて、口を閉じる。次はその周辺にいた生徒が。そして、次第に静寂は電波していき、それまでうるさかった教室内が一瞬にして静かになった。


(やっぱり)


 新太はため息をつきそうになるのを押しとどめて、いつもの仏頂面のまま、自分の席に向かった。

 廊下から四列目の一番後ろの席に腰かけると、張り詰めていた静寂を打ち破るような、高い声が廊下から聞こえてきた。


「あっちゃん!」


 自分をこう呼ぶ人間はひとりしかいない。幼馴染の瀬田つらら。

 新太は顔を上げた。本当ならいつもの仏頂面のまま適当にあしらうのだが、いまばかりはそのような心持ではいられなかった。

 思わず、窺うようにつららの顔を見る。


「あっちゃん、おはよう!」

「……あ、ああ、おはよう」


 いつも通りのつららの顔を見た瞬間、それまで新太の心の内にあった杞憂が、一瞬で消え去った。

 その感情が顔に出てしまったのかもしれない。

 新太の顔を見たつららが、にへらと笑い、新太の顔を覗きこんでくる。


「あっちゃん笑ってる」

「るっせぇ」


 新太は机に視線を下ろした。

 同時に、教室内の張りつめた空気が、少しずつ和らいで喧噪を取り戻していく。

 その喧噪に飲み込まれることなく響くつららの声に、新太は適当に受け答えをする。


 ふと、新太は四日前のことを思い出した。

 四日前。停学一日目の夕方。新太は部屋に引きこもり、うとうとと微睡の中にいた。

 その時、この部屋にいるはずのない幼馴染の語りかけるような声が聞こえてきた気がしたのだが――きっとそれは気のせいだろう。あの日、つららは新太の部屋に来ていないのだから。母になんとなしに確認してみたが、つららは訪ねてこなかったという。


 だから夢だ。

 ――けれど。

 新太はふと昨日のことを思い出す。


 日曜日の午後、家に思いもよらない人物が訪ねてきた。数日前まで誰にでも人懐っこい笑みを浮かべていた彼は、表情を消し、だからと言って恨み言を口にするわけでもなく――佐貝静人はただ一言。


『謝らねぇからな。おまえとは、絶交だ』


 そう言って、帰ってしまった。静人はサッカー部を辞めて、五日間の停学になったらしい。

 その背中を見て、新太は不思議に思った。何もも思わない自分に。いや実際には、「なんでわざわざそんなことを言うために俺んちにきたんだ」とは思ったものの、それだけだった。

 数日前までわだかまっていたはずのモヤモヤが、全く湧き上がってこない。脳を焦がすような怒りも感じなかった。まるでいままでの怒りがなかったかのように、新太は鼻を鳴らすだけで済んだ。

 だからと言って、前みたいに乗っ取られるように怒りを爆発させることがないとは限らない。これからも用心するに越したことはないだろう。


 新太の適当な相槌に、なぜか幼馴染は嬉しそうな顔をしている。

 それを不思議に思いながら話を聞いていると、教室の扉が音を立てて開いた。


「おはよー、九十九くん」

「おはよう」


 化野九十九が、驚くほど整った顔に、笑みを浮かべる。キュッと細くなる瞳を見て、新太はなんとなく狐に似ていると思った。

 そんな九十九と目が合う。

 じっと彼の目を見つめると、新太はフンと鼻を鳴らして視線を明後日の方向にやった。


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