第6話『使徒、解放!』
兎にも角にも、無事『神杖』を手に入れた俺達はとある洞窟の最奥にある“封印の魔法陣”の前に来ていた。
何故“とある洞窟”という表現なのかというと、この洞窟に名前など無かったのでそれ相応に適当な呼び方が“とある洞窟”しか浮かばなかったからである。
普通に、封印の洞窟…とかで良くね?
とも思ったがベルに、
「今後も封印されている場所が洞窟だったら、そこは封印の洞窟2とかなの?」
「そもそも、名前、いるの?」
と、本気のきょとん顔でごもっともな事を指摘された為ボツとなった。
「さぁレーヴァン様、この魔法陣の真ん中あたりにさっきの剣を突き刺しちゃって下さい」
「おぅ、わかった」
動体視力が上がってあるからか、発せられる光には赤い細かな電流の様なモノが視える。
なんか触れたらビリビリしそうな魔法陣だなぁ。
やだなぁー、怖いなぁー。
俺が若干眼を泳がせながらヒヨっていると、リノ助が急かし出してきた。
「さぁ!ひとおもいにっ、やっちゃって下さい!」
グサグサグサグサグサグサグサッ!
「ん?」
聞こえ慣れた音がしたが?
「はわわわわわわわわわ」
「リノン、うるさいの」
半泣きのリノ助の周りには、まるで型を取られているかの様に身体をギリギリで縫わない程度にナイフが刺さっていた。
ベルさん器用ですね。
「ベル、ほどほどにな」
さて、気を取り直して、
「とりあえず、やるぞ〜」
こういうのはパッとやって終わり!それに限る。
俺は剣を魔法陣に突き立てる様に差し込んだ。
すると剣が粒子に分解されて光を帯びた魔法陣へ溶けていく。
瞬間ーー魔法陣からは大量の光の粒子が溢れ出す。
粒子は次第に形を成していき、光が落ち着いた時、そこには全身が鎧に包まれた騎士…なのだろうか?
見るからに中身の無い幽霊が浮いていた。
これ、解いてはいけない封印の間違いだったんじゃね…。
「封印されてた味方の使徒であってる?」
「ん、そう」
「おはようございまーす。お久しぶりですね」
俺の不安を他所に、リノ助は手を振りながらフランクに鎧に呼びかける。
すると、宙に浮いている鎧が流暢に喋り出した。
「む、リノン殿か?久しいな。そちらは…閻魔大王の使いの方かな?」
「ん、そう。初めまして。ベルって呼んで欲しいの」
「うむ、了解した。そしてなにより、まずは感謝しようルシファー殿…いや今は違う呼び方があるんだったな」
俺の事かな?
「レーヴァンっていう、めっちゃ人間辞めてる魔王っぽい名前をつけてもらったぞ」
「私がレーヴァン様の名付け親兼保護者ですからね!」
はいはい。
「確かに魔王というか、もっと高位の香りがするな!そうかレーヴァン殿。感謝しよう、ありがとう」
なんだ気の良い人じゃないか。
あっ、人では無いか。
「私の名はサリヴァーン。仲間達からは『劍王サリヴァーン』と呼ばれていたが、気軽に、呼び捨てで構わない」
“劍”の文字が古いのには理由があるのだろうか?それともただのオサレポイント?
「わかった。仲間でいいんだよな?」
確証の為に再確認は大事だよね。
「うむ。実態は持たぬ為、霊体での召喚か私の『神杖』の力を貸す位しか出来ないが、申し訳ない」
「いやいや充分だ、頼りにさせてもらうよ」
なんかもうアレだね。俺には今後も闘いがあるような口ぶりだよね。
「さてレーヴァン殿。封印から解いて頂いた証として、私の『色』を授けよう」
出た!また知らないワード!
誰でもわかるカラーリングとはまた違う意味のようだけど。
「『色』?」
「そうだ。使徒はそれぞれ、各々の『色』を持つ。それを全て集める事が出来た場合、レーヴァン殿の持つ杖に力が戻り、その真価が発揮されよう」
そういうとサリヴァーンから赤い光が発せられた。
するとそれに呼応しているかの様に白の杖が反応し、指輪から勝手に出てきた。
「うぉっ」
反射的に身体が反応する。
そしてあっという間に赤い光は杖に宿った。
うぉっとか、間抜け晒しちゃったよ。
『色』というものが杖に宿ったからであろうか?小さな赤い宝石の様な装飾が付いている。
「私からは『光の赤』を授ける」
「今はまだこれでも不完全なのか?」
「うむ。ルシファー殿や閻魔大王が魂になられた際に、どちらも『神杖』を破壊した。その際に『神杖』に宿っていた我々の力も含めて失われたのだ。だがまた使徒達から『色』を授かれば力を取り戻す事が出来る」
俺は益々強くなるらしい。
「今でも充分使えるけどな」
「それでもまだ両方とも『神杖』の力の半分も出せていない状態だ。だが『色』を集めて行くうちにレーヴァン殿も成長し、いずれ力を取り戻すであろう」
取り敢えず『色』を集めれば集める程、仲間が増えれば増える程、俺はバケモノになっていくわけね!
きっと近いうちに、泣く子も黙る異形の怪物になるんだ…。だから最初、ベルがツノがあればもっとカッコいいって言ってたのか?あれ伏線だったのか!?
「そっか。あとお願いなんだけど、サリヴァーンからも色々なんでこうなったかとか情報を知りたいから帰りながら聞かせてもらえると助かる」
「そうか。勿論、了解した」
因みにいつもの『どこでもいけるドア』(レーヴァンが命名)は残念ながらドアとドアでしか繋がっていない。
加えて俺達はテレポートなんて大それた技使えないのでテケテケ歩きながら、浮かんでる幽霊に質問や世間話しをした。
ふと考えてしまうが、戦闘した後に歩いて帰るって実際やるとイメージでは計り知れない程にシュールだ。次のページでは帰宅しているなんて漫画の様な事実際には無い。
「先ずは封印の事が聞きたいんだけど」
「そうか。ではイチから話すとしようか」
「あぁ、頼む」
「事の発端は昔、どれ程の昔かは忘れてしまったが、それ程まで過去へと遡る。天界からはこことは違う世界線…レーヴァン殿が元いた世界やその他の世界などが見通せてな、それを何となく眺めていた対となるニ柱の神の気変わりから始まったのだよ。」
「気変わり?」
神は人間なんかでは計り知れないほど偉大であるからして、気変わりで一つで途轍もない事態を引き起こすらしい。
「あぁ。少し話しが広がるが、何千年も昔から天界と獄界はこの世界線、ルミナディアを挟んで戦争を続けていたのだ。その筆頭だったのが、天界最上級の熾天使ルシファーと、獄界そのものとも言ってもよい、裁きの王、閻魔」
ルシファーと閻魔。天国や地獄。神話に登場する様な神様はやはり人智を超えた存在という訳だ。
「だがある時、ニ柱はその戦いの意味、世界のあり様に疑問を持ち、そのすぐ後、力の塊である魂だけの存在になった。そしてその強大な力を失った天界、獄界の使徒達は皆、同じ魂だけの存在となり、ニ柱の想いであった『それぞれの世界、そしてこの世界の平和』を願い、このルミナディアで眠りについた。それが封印だ。」
「なるほどね。反対意見は出なかったのか?」
「勿論出てきたとも。だが『己の力の使い方は自らで見極めよ』という言葉を最後にルシファー殿は消えてしまった。一部からは全く無礼な事だが『堕ちた熾天使』と呼ぶ声もあった。だがルシファー殿の、その言葉に聞いた者達は皆、最後は自らの意志で己を封印したのだ」
すると、サリヴァーンの話しを聞いたベルが真っ直ぐに俺を見つめてこう言った。
「因みにお父様は『末端の下界で意外な奴を見た、またとはない、面白そうだ。行ってくる』だったの」
お…父さま?
「ベル?お父様って?」
「閻魔大王は、私のお父さん」
「そうだったのか」
という事は、俺の中にはベルの父親がいるという事になるのだろう。
「俺にはベルのお父さん、閻魔の魂も同化しているんだっけ」
「ん、でも寂しくないの。それにレーヴァン様はレーヴァン様、別に私に気を使わなくてもいいの。最後のお父様のお姿はカッコ良かったし、レーヴァン様の助けとなるようにって言付けも預かってるの。私はとっても誇らしいの」
あぁ!これは泣ける話だぁ!俺はもう泣いてる!
「うぐぅっ…だらだらしたりやる気なさすぎてごめんなぁ」
「んーん、そんなレーヴァン様も私は好き。人には自分のペースがある。自分に正直に生きなさいってお父様もいってた」
うそぉ!やばい!良い子すぎる!もうこの子の事を育てた親御さんはとても素晴らしい!
「ありがとう…ベルありがとう!」
「ん、それでいいの」
優しい女神の様に満面の笑みを浮かべたベルはとても可愛らしかった。
ん?
何やら袖を引っ張られている感覚がある。
「レーヴァン様、だらだらするなら私の膝の上はどうですか?」
ブレない!リノ助はブレない!
決まったぜと言わんばかりの顔やめろ。良い気分が台無しじゃねーか。
「リノ助のそんなとこが俺は良いと思うぞ。因みに褒めてないからな」
話が逸れてしまった。
「ベル、獄界では閻魔の決定に反対意見は無かったのか?」
「お父様の意志は獄界みんなの意志。反対などなかったの。寧ろお父様が楽しそうな顔をしてて、みんな嬉しがっていたの」
「いい仲間じゃないか」
「うむ、そうだな!私もそう思うぞ!話を戻すが、それと恐らく時を同じくして、天界と獄界の戦争も徐々になくなっていった。だがしかし、この地上ルミナディアではその力を狙う輩も居た。それが『ブルーブラッド』と呼ばれる秘密結社集団だ」
絶対やばいじゃん。
「奴らは天使信仰の一際強い集団であってな、封印された後も、使徒の力に頼ろうとした。その結果いくつかの『神杖』を持ち出し暴走させたのだが、その暴走による失敗を失敗と捉えず、力ならなんでも良かったのだろう獄界の使徒の『神杖』にも手を出し過ちを繰り返した」
「なるほどね、完全に理解した(してない)てかなんで『神杖』を一緒に封印しなかったんだよ?」
そう、一番の疑問はこれに尽きる。
それか別の何処かに保管して、封印を施してから自らを封印すればよかったのではないか?
「あぁ、『神杖』は物なのでな。封印の対象外だったのだ」
おい!封印めっちゃアバウトだな。
「因みにルシファー殿が消えた時、自らの『神杖』を粉々に破壊した後、魂になりどこかへ行ってしまったのだが、まさか『神杖』の力共々、レーヴァン殿に溶け合うとは」
「この杖と俺の中の魔術の記憶とかがその証拠なんだよな?」
「左様。『神杖』の方はちと形状が変わって他の力と混ざっているが。恐らくそれは、閻魔大王の力に加えレーヴァン殿の元々持っていた力が関係しているのだろう」
「俺の元々の力?」
「そうだ。推測ではあるが、それは『調和』の力だと思われる」
「それって強いの?」
えっ!恥ずかしい!
言ってから驚いてしまったけれど、自分でも驚くほど小学生みたいな質問をしてしまった。
「強さで表現するのは難しいな。本来、天界側の“白の力”と獄界側の“黒の力”は相反する力でな、混ざり合う事はないのだ。だがこうしてルシファー殿と閻魔大王の魂は完全にレーヴァン殿に溶け合っている。実際に見た事は無いが恐らくコレは『調和』の力であると考える他無い。もしかたらニ柱はレーヴァン殿のその力を発端を見て、自らをレーヴァン殿に託したのかも知れないな」
「…………」
とてもじゃないが、俺にそんな力が有るとは思えない。
それに、この世界に来てから二人と融合したわけじゃない。俺にそんな力があるのなら、元いた前の世界からその特殊な力が存在していた事になるのではないだろうか?
だとするならば、もしかしたら全ての人間にはそれぞれ誰にも気付かれない程、本当は個々に眠っている力があるのかもしれない。
「俺、リーダーに向いてないって言われことあるけど大丈夫か?」
「何を言うか。現に今まで、天界側の者と獄界側の者が馴れ合うなど一度たりとも無かったのだからな。しかしリノン殿とベル殿は仲がとても良く見える。それもレーヴァン殿の資質の一つであろう」
いや、この子達が自分でやってる事なので、それとは関係ない気がしますけどね!
「仲良しぃ〜?聞き捨てなりませんねぇ〜。レーヴァン様、ベルなんてほっといてリノンと結婚しませんか?さすればレーヴァン様がいつも仰っているまったり異世界ライフが確約されてますよぉ!まったり異世界ライフの意味は全く分かりませんがっ!」
「リノンこそ邪魔、レーヴァン様は私が護る」
「あ?」「ん?」
おい?じゃあこの面倒の数々は俺の資質のせいなのか!
「はっはっはっ!面白いな!レーヴァン殿!モテモテであるな!」
「はぁ」
この鎧オバケはベルのナイフが掠った事ないからそんな事が言えるのだ。
普通に痛いし血が出るんだぞ!何が無敵の身体だよ!
「えーっと。じゃあ当分、これ以上の暴走を防ぐ為にも、封印を解くことの出来る俺が『神杖』を集めるのと、災害級の魔物を倒さなきゃいけないんだな?」
「そうなるであるな」
そうなってあって欲しくは無いんだけどな。
気が重い。
「今後の方針は帰ってから決めるか」
「はい!」
「ん」
「うむ!それがいい!」
こうして、一つ目の封印を解いた俺達は…
…ってまて?
ベルが閻魔大王の娘ならば、リノ助はどうなる?
まさかルシファーの子供だったり?
「さぁ!早く帰ってレーヴァン様との仲を深めなければなりませんからね!こう…イチャイチャと♡」
絶対に違うな。100%無いなぁ。1ミクロンもなかったなぁ…。
次回予告!!!
「順調にこのまま、何事も無く帰れたらいいんですけどね〜」
「おい……それ絶対言っちゃいけないんだぞ。下手すれば死ぬぞ。これからは気を付けろよ」
「はーい!」
「ん、リノン気をつけるの。私は帰ったら新しいナイフの手入れをするの。楽しみなの」
「………投げるなよ?絶対に投げるなよ?」
「フリっていうやつなの?」
「さぁ早く帰りましょ〜。次回『モブの名はキャスバル』モブなのに次回だけじゃなくて今後も出そうな名前ですね?」
「………うん、取り敢えずこいつだけは今後の為に殺しとこうな」