第3話『こんにちは異世界?」
今回の冒頭に省略されたエピソードが出てきますが、シナリオ進行上メインストーリーの立ち位置が分かりづらいと思いR18版から省略という形にしました。
その部分にわかりやすく区切りを入れますので、そこまで読み流して頂いても構いません。
お待たせしました、それではお楽しみ下さい。
「にしてもあの扉から街まで直通とは便利だな」
俺達は杖を作る為に街まで来ている。のだが、実はつい先程、手違いで違う街に居た。
しかも何故か街で洪水がおき、そこに巻き込まれた。思いっきり溺れかけながらも命かながら何とか逃れる事が出来た。
なので、いわば“異世界の街Take2"なのである。
「さっきのはなんだったんだよ」
「魔法の世界なのでよくありますよ!」
そうここは魔法の世界でありファンタジーそのもの。何があってもおかしくはない。そう、おかしくないのである。
いや納得できるか!
『ファンタジー』と言う単語はなんでもできる最強の魔法そのものなのかも知れない。
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気を取り直して、今は町の北に向かって歩いている。
そこに杖が作れる場所があるらしい。
「そっか俺が来るまで、リノ助はあそこから扉で行き来して物資を調達しながら暮らしてたのか?」
「はい、これでも寂しかったんですよぉ〜。早くこないかなーって思ってました」
そっか、123歳のおばあちゃんを待たせてたのか、労らねば。
リノ助はこう見えて自称123歳のお婆ちゃん。
『年齢詐称』とは元いた世界では有名な言葉であり、ある業界では“サバを読む”と言われよく耳にする言葉なのだが、その殆どが実年齢よりも若く見積もる事であった。でもリノ助は何処からどう見てもキッズ…。齢123には到底見えない。良くて12歳の間違いなのでは無いだろうか?
この審議は一体、誰に委ねられるのだろう。
「でももうこれからはレーヴァン様と一緒なので寂しくないですよ!えへへ〜↑」
えへへ〜↑って………ゾクってしたわ。
「お!リノンちゃん!今日もお使いかい?」
「あ、果物屋のおじさんこんにちは!」
まぁどう見てもお使いを頼まれた子供にしか見えないもんな。その勘違いは正しい。
「レーヴァン様、見てて下さい!私は買い物をする上で“かけ引き”を体得したのです。本領発揮です!」
「は?」
スタスタと果物屋に駆け寄るリノ助の姿は、やっぱりお使い少女にしか見えない。
「おじさん、このリンゴとパパイヤ2つずつで400ファリスでどうでしょう!」
二本の指を堂々と突き立てて、腕を前に突き出すリノ助、超やる気顔だ。
元が幾らなのか分からないが、どうやら値切っているらしい。
値段を表示してないのは異世界だからなのか、それとも客から値段を聞いてくるのを意図的に待っているのだろうか。口達者な売り手ならば、ある種、値段を開示せず会話に持ち込む事も営業戦略の一つなのだろう。
果物屋のおじさんは呼びかけに対して、間髪入れずにニカッと笑いながら瑞々しいフルーツを手に取ると、リノ助の様にその腕をビシッと前に突き出して答えた。
「いつも偉いね〜リノンちゃん。いいよ、ひいきにしてくれてる分、オレンジもおまけでつけよう!」
「ありがとうございます!やったー!」
買い物を終えたリノ助が嬉しそうに駆け寄って来る。
どう見てもやっぱり、ちゃんとお使いをしている少女に快くおまけしてあげた感じだったな。
これはかけ引き…なのか?
「どうでしたか?褒めてくれても良いんですよ?」
そんなキラキラした目で見てくるリノ助は絶対123歳では無い。
「えらいえらい」
俺の中では子供認定したリノ助の頭を撫でてみる。
「えへへ〜↑」
なんか保護者になった気分だ。
123歳ねぇ。嘘は言ってないと思うけど。
いや、もしかして…………そうか。そういう事か。
俺を待ってる時間が長過ぎたのかもしれない。
だって召喚されるタイミングはいつなのか分からない。
となると、いつでも俺を向かい入れても良い様に何年も前からあの場所で待機していたのだと考えられるのではないか?
その寂しさの分、今が嬉しいのかも。
「なぁ、リノ助」
「何ですか?もっと褒めてくれるんですか⁈」
「リノ助は何年くらい、あの小屋で俺を待って過ごしてたんだ?」
「えーっと、いち、にー、さん…」
何故…指を折って数える?
そうか!年単位だもんな。
そりゃ思い出す為にわかりやすく数える必要があるよな。
でもしかし、その「ほえっ?」とした表情は一体どうして…
「ん〜……三日です!」
数える必要あるか!少しでも配慮しようとした俺が馬鹿だったわ!
「ほら突っ立ってないで早く行くぞリノ助」
「ほえ?」
さてと、目をパチクリさせているリノ助を連れて俺達は町の北を目指すのだった。
ってことで今、礼拝堂の様な場所に来ている。
なんかもう、早く帰りたい。
「これか?」
まるで中世の大聖堂を彷彿とさせる様式美となっている空間の中心には、手型が彫られている銀色の置物があるのみ。広い空間にこれだけとは、なんとも神秘的な構造である。
「そうです。この台座に手を当てて、暫くすれば下の引き出しからほかほかの杖が出てきますよ」
「なんだそれ」
パーキングエリアの自販機かよ。
「魔法の世界なので!」
ほんとに焼きおにぎりとか、たこ焼きが出てくるんじゃないだろうな!
「そういえば、さっきの門番さん以外誰もいない様だけど勝手にやっていいのか?」
「そんなもんですよ。儀式の時なんて行列ができるんですから、司祭さんがいても一人一人に応対しきれませんって事で、礼拝堂は基本出入り自由なのです」
「なるほどなぁー」
「えっへん♪」
腰に手を当ててドヤ顔のリノ助。
「さぁ、ひとおもいにやっちゃって下さい!」
「そうだな」
リノ助のほっぺたをつねる。
「いだい!何するんですかぁー!じんじんするぅ〜」
だってひとおもいにやれって。
「はいはい、怒った顔も可愛いぞ」
「えへへー↑」
チョロくて甘いチョロ甘リノ助。
そう言いつつ、自分の頬を撫でるリノ助の手からホワッとした暖かい光が出ている事に気付いた。
「ん?その光は魔法か?」
「私は癒しの魔法を使えるのですよ」
「おぉ、凄いじゃないか」
まるでヒロインみたいだぁ。
「他にも使えるのか?」
「癒し系統の魔法であれば応用でどんなものでも使えますが、攻撃魔法は全く出来ません」
「なるほどな、向き不向きがあるんだな」
「まぁレーヴァン様に使えない魔法なんてありませんけどね。ささっ、台座にお手を♪」
不用意なネタバレやめろ!
それと、その発言は盛大なフラグだ。
これで魔法の才能が無かった時、俺はやはり捨てられるのだろうか?
総じて、今の発言は聞かなかったことにしとく。
「じゃー、こう?」
軽い気持ちで台座に手を乗せた。
フォォォオンーーー
「ん?」
効果音と共に、景色がーーー周囲の色が変わる。それと同時に全身が金色に光り始めた。
「うぉ!何だこれ!」
周囲の建物や空間の色が、白と黒、交互に入れ替わる。
段々と色の変わる速度が増し、凄まじい勢いで白の力と黒の力の奔流が混ざり合う。
「リノ助!これ大丈夫なのか!?」
「あわわわわわわかりませんが、そのままでいてください!」
ビュゥゥゥオオオオオオーーー。
そして白と黒その2つが混じり合った瞬間、光が手を乗せた球体の台座に一瞬で吸い込まれた。
……………ガコンッ!
その音を最後に、身体の光も周りの色も急に元に戻った。
「……なんだったんだ今のは?」
俺、光ってたぞ?
「ほえー、すっごい力の奔流でしたね。でもでも、杖ができた様ですよ!どんな杖ですか?」
「あぁ、コレとコレか」
出てきた杖は2本。
ほぼ黒い杖とほぼ白い杖だ。
何故“ほぼ”かと言うと、所々に金色の紋様や装飾が施されている。売ったら良い値がつきそうな程に高そうではあるな。
両方とも35〜40センチ位の長さはありそうだ。
「杖って言ってもゲームでよくある、背丈位長いやつとかじゃなくて、木の棒位の長さなのな」
思ってたのとはだいぶ違うが、めっちゃクールで綺麗だ。
「すっごい気に入ったんだけど。2本出てくるものなのか?」
「なるほど」
さっきまでドヤ顔とぽわっとした表情しかしてなかったリノ助が見た事ない真面目な顔になっている。
「何が?」
「いえ、2本あってお得じゃ無いですかー!」
「確かに………いやそうだけれども!」
「まぁ何にせよ2本あって損はないと思いますよ、魔法で二刀流!カッコいいじゃ無いですか!」
「んー。確かに、めっちゃカッコいいな!」
そんなことで浮かれている俺であった。
「よかったですね〜!」
「早く魔法を使ってみたいな」
典型的な魔法の代表格であるファイヤーボールとか出るのだろうか?
「魔法の前に、お試しで杖に魔力を流してみてはどうですか?形状が変わるものもあるらしいですよ」
「へー、面白そうだな」
だがいかんせん魔力を流す方法を知らない。
ん?あれ?知らないはずなのに、薄らと記憶がある様な気がする。
「こうか?」
なんとなく、そうかなって感じでやってみる。
俺にはなんか凄い人達の感覚?があるらしい。これは異世界物によくある“特典”に当たるのだろうか。
キュインーーー。
魔力を流した途端、右手に持った白い杖の形状が変わり、縦に伸びて青白く光る細剣の様になった。
おぉ、まるでライト◯ーバーみたいだ。
フ⚪︎ースの様な力も使あるのだろうか?これは夢が広がる!
シンプルにカッコいい。
「ありですね」
「レーヴァン様に相応しい美しい形状ですね!」
もう片方、左手に持った黒い杖の方はなんともまぁ不思議。
持ちやすいハンドガンの様な形に変化した。しかも銃口が4つある。
銃の事は詳しくは無いが、これが所謂“イカす”というのだろうか。なんとも硬派な感じでカッコいい。
それに白い杖と黒い杖のそれぞれこんな魔法が使えそう?的な、詳細なイメージが頭に沢山入ってきた。
「うぉぉ、脳がぶち回る」
どうやら、恒常的に使える魔法、剣の方でしか使えない魔法、銃の方でしか使えない魔法がある様だ。
ほうほう。こりゃ凄い。
……………ってまて!これ、杖である意味なくね?
最初から剣と銃でいいじゃん。
まぁ、とやかく言うのはやめよう。
「なんかベタな厨二武器だけど、カッコいいな」
あれ?カッコいいしか言ってない気がする。
どうやら漢たるもの、幻想的な力を前にすると語彙力の欠落が激しい様である。検証終了。
「そうですね、とってもお似合いですよ!あと魔力を流さなければ元に戻ると思います」
そうなんか。あ、元に戻った。
ふと疑問に思ったが、何故形状の変化なんてあるのだろう?魔法を使うだけなら杖のままでもいいのに。
どうしてわざわざ剣や銃になるんだ?
そんな俺の思考を全て無に還す発言が聞こえるなんて、この時の俺は考えもしなかったんだ…
「せっかくなんで、それぞれの杖に名前をつけてみてはどうでしょう?」
「え?」
なんか今、とんでもない発言が聞こえた気がするけど。恐らく気のせいだろう。
「よし、帰るか」
「ふぇ?レーヴァン様?」
これで街での用事は全て片付いた。今日は色々な事があったな。実に濃厚な一日だった。帰ったら一度落ち合いて、ゆっくり頭の整理でもするとしよ…
「レーヴァン様!」
「なんだリノ助。用事はもう済んだんだから、もう帰るぞ。帰ってゆっくり…」
「せっかくなんで、それぞれの杖に名前をつけてみてはどうでしょう?」
「帰ってゆっくり…」
「名前!つけましょう!」
「もうわかった!わかったよ」
恥ずかしすぎる!
童心にかえってカッコいい名前を付けろってか!?
最初の試練じゃねーか。難所。まるで負けイベ。杖を手にしたら最後、これは詰み…。
おい!こういう時は俺と合体(意味深)した2人の助言を頂きたいものだなぁ〜。
………………はいはい、何も反応なしと。
わかりましたわかりました。
「じゃあ、黒の杖を『ゼオン』。白の杖を『リベリオン』にしよう!」
おぉ。勢いで名付けたが、割と良いのではなかろうか?しっくり来ている自分に驚いた。異世界っぽい。
「あとこんな事もあろうかとコレを2つ持ってきましたよ」
あっ、名前については何の反応もなしですか。
「ん?指輪か」
とてもシンプルな指輪だ。
ただのシルバーリングって感じ。
「両手の指につけてみて下さい」
リングを指にはめた途端、杖が指輪に吸い込まれた。
「お、なるほど」
どうやら指輪に杖が収納される魔道具らしい。
「ちゃんと機能した様ですね、ミスティックリングって言うんです。色も変わって黒と白…ではなく2つとも金色ですか。ともかくこれで持ち運びしやすいですね」
「おー、ありがとな」
「…………」
何故こちらをじっと見る。
「レーヴァン様にはリノンを誉める権利があります!」
つまり撫でて欲しいと。
「これでいいか?」
「えへへー↑この世界では普段杖をその魔道具で持ち運びするのが基本なんです」
ファンタジーっぽい。こうやって少しずつこの世界に馴染んでいくのだろう。
「私も持っているので、お揃いですねムフフ」
「はいはい」
一つ分かった事がある。
どうやらこの世界は俺に退屈を与えてはくれないらしい。子供のお世話や異世界イベントの数々。
そしてこれから俺を待ち受けて居るであろう沢山の出会いを想像すると…
全部めんどくさい!
俺はこの世界でゆっくりのんびりスローライフを送りたい!
そう、俺は自由でぬくぬくとした生活を送る為に、自分に降り掛かる火の粉を極力避けて、この世界を生き抜くんだ。
こうして、俺は異世界での初アイテムを手に入れたのだった。
次回予告!!!
「てかリノ助はあの小屋で一人で暮らしてたのか?」
「え?そっ、そうですね。一人でしたよっ。だからこれからは二人っきりです!誰にも邪魔されませんよっ」
「なんでそんなに歯切れが悪いんだ?」
「もうそんな事はどうでもいいじゃないですか?これからずっとレーヴァン様はリノンの成長を近くで実感出来るんですよ?なんならレーヴァン様の手で直接性長させてくれても。むふふふふっ♪」
「そんな事したら犯罪だろ!」
「この世界にはそんな法律ないですよ♡」
「お前は俺の保護者じゃねぇーのかよ………といった感じで、次回『もう一人の少女』やっぱり一人じゃなかったんだな」
「ギクッ!」