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薄暗くセピアな美しい笑み

作者: 二杭弐糸

僕は自殺未遂を繰り返し、周りに迷惑をかけていた。

『 拝啓、桜田菜の花さんへ


  今はもう2029年の4月。中学1年生の時に付き合ってから早くも12年経とうとしてるね。当時はみんな、大人への憧れとかからカップルの誕生、破局が多かった。そんな中僕たちはダラダラと通常の交際のペースとはだいぶ違った速度ですごしてたね。お似合いなカップルと茶化されたよ。中学時代はなんて楽しかったんだろうか、当時から身体を壊しがちだった君が早退、欠席する度に勝手ながらめちゃくちゃ心配してた。初めて僕の家に来た時、中1の秋だったな、後ろから君を抱き締めてソファに寝転がった。2人して眠くなってすぐ寝ちゃった。思い出に補正がかかってなければ正確な記憶だと思う。思い出の切なさに涙がでてくる。君を抱き締めた時、手を繋いだとき、一緒に過ごす時、共にする時間帯、今の記憶の中では全てにおいて灰色がかった瞬間になって、音もこもり、感触だって触るまで思い出せない。君の存在が、瞬間が、贈り物が、記憶が、何もかも切ない。色が失くなっていく。この辛さが僕を蝕む。でも君の笑顔が大好きでありがたい。褪せていくものだとわかっていてもその笑顔を愛していたい。今までありがとう。ずっと好きです。


 敬具 園江花竜(かりゅう)  』



 「よし、これでいいか」


 手紙を書き終えた僕は背後に気配を感じた。


 「本人を目の前になーーーーにをキモいこと書いてんだか」


 「…んで勝手に入ってきてんだよ」


 「その大量の錠剤は何…?」


 「うるさい」


 「私より先に死のうとしてんのかよ!!」


 「…っ」


 「色々大変だった同棲の許可もなんとかもらえて、結婚とかも視野にいれて今からお金を貯めてもろもろ準備してんのにさぁ?!」


 菜の花は泣きそうな剣幕でドンっ!!と机を叩いた。


 「あなたの辛さはあなたの2番目ぐらいにわかってるつもり、でもあなたの小説家の夢を私は誰よりも応援してきた。」


 「そうだよね…ありがとうね」


 尽くしてくれるありがたさに押し潰される辛さ。


 自分への尽力に辛さを感じてしまう辛さ。


 これからの未来への辛さ。


 他人と生きていく責任の重さ。


 逃げるような死を望む理由にはなると思う。


 いつからそうやって思う脳を持ってしまったのだろうか。


 「寝たら、忘れると思うから…一緒に寝よう」


 菜の花と一緒がいい。


 「…わかった、お風呂入ってからね」


 その夜は夕食も取らずに8時間の睡眠を取った。


 ザーッザーッと外から響く薄暗い轟音。


 今朝から大雨だって。


 朝なのに暗くて、照明が丁度良い。


 鬱屈だ…


 死んだら悲しんでくれるかな…


 悲しむと仮定して、僕はその罪に耐えられるかな。


 死んで悲しまれるのは嫌だな。


 死ねないな…。


 なんで、


 なんで、こんな


 バグった脳を洗って根本からやり直したい。


 「おはよう」


 むにゃむにゃした菜の花はいつ見ても可愛い。


 簡単なことだった。


 明後日まで生きてみようか。


 菜の花の寝顔の左ほほをつついて、朝の支度を始めた。


 今日は大雨のち晴れ。


 気分はまぁいい。

花竜はなんて自分勝手なやつなんだろう

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