第75話 虎鮫VS魔王!!!
『……』
『この不可視の力……貴様は“D”か!? “D”なのか!?』
魔王が恐れ戦いている。
何やら“D”なるものを恐れているようだ。
『魔王は“D”を最後の1匹になるまで滅ぼした』、『“D”は魔王を封じる力を持つ』というのが分かっている情報だ。
……その情報があっても何も分からないが。
しかし、キズナに対して言っているので、彼の何かが“D”なのだろう。
その実、キズナは重苦しい声を発した。
『……我は“D”、調停者なり』
『――やはり“D”か!!! この死にぞこないめ、地球人の身体を乗っ取ったか!?』
マジドラゴンが、ぎこちない動きで立ち上がり、アンドロマリウスに殴りかかる。
倍以上は体格が離れているからか、アンドロマリウスは軽々と避けた。だが、それは普段のキズナの動きではない。まるで、別人が動かしているようだった。
「Dって何だよ!」
「アタシ達の分かるように説明しなさい!」
『“D”……それは世界最強の生命体、ドラゴン。かつて私が、マジック・モンス宇宙に存在する8割の生命、そして9割の銀河と7割以上の宇宙エネルギーを消費してようやく仕留めた』
「……?」
急に話が壮大になってきた。
Dとやらを倒すのにそれだけ労力をかけていたら、マジック・モンスは既に滅茶苦茶なのではないだろうか。
『マジック・モンスは、そこに住む住民以外は私の幻覚魔法によって成り立っている。最早、建材すらも満足に使えんのだ』
「それで? 地球に移住させるために侵略ってわ――」
『馬鹿をいうなッッッ!!!』
アルルカンの言葉は、魔王の怒りによって遮られた。
『マジック・モンスの奴らは、最初から最後まで魔法至上主義の差別主義者しかいなかった!!! そんな奴らは、さっき私が滅ぼしてきた!!!』
「えぇ……」
「戦争終結したじゃん」
『だが!!! “D”はもっと気に入らんッッッ!!! あの調停者気取りがいる限り、人類に真なる幸福は訪れんのだッッッ!!!』
魔王が叫ぶと、マジドラゴンの腕に変化が起きた。
腕を覆う刺々しい装甲がボロボロと剥がれ、シンプルな腕が露出する。
何度も何度も錬鉄し、鍛え抜いた金属のような腕だ。
『悪魔たる怪物よ、傲岸不遜に嘲笑うがいい!!! はーっ“D”よ死ねッッッ!!! 【傲岸不遜に嗤う龍ッッッ!!!】』
燃える呪いの腕が、超高速でアンドロマリウスに襲いかかる。
まるで、武術の達人のような無駄も隙もない一撃。例えスーパーロボットだとしても、耐えられるものではないだろう。
だが、俺達はあえてその中に割って入った。
総オリハルコン超合金製のシャークウェポンのボディが、いとも容易く、それこそ紙切れのように貫かれる。
だが、実はちょっとだけ力むことのできるシャークウェポンによって、腕が捕らえられた。
『何故邪魔をする!?』
「中身はDとやらでも、肉体はかわいい後輩さ。戻す方法もあるはずだ」
「あら? 戻す方法なんてあるのかしら」
「あるさ。もう1人、同じような力を使える奴がいる」
『何っ!? “D”と同じ力だと!? “D”の全てを統べる力、超強力な現実改変能力と同じ力を持つ者がいるというのか!?』
「え、現実改変? そんな物騒な力なのか……まあいるよ。そうだろ? グリット!!!」
そんなヤバい力だとは思わなかった、精々超強い魔法くらいにしか……
俺の呼び声に応えたかのように、空間が揺らぎ、そこからグリットが現れた。
『ご名答。よく分かったね……どうやって?』
「キズナがアンドロマリウスを動かす時と、お前が魔法使う時。どっちも同じ匂いがしたもんでな……いや、シャークウェポンに備えられた計器も同じ波動を記録してんだよ」
そう、サメと化した俺も、機械も同じ反応をしていた。
ならば、それは同じものである。
『なるほどね。その通り、ボクの力は魔法じゃなくて現実改変。キズナも同じものを持っている』
「やっぱりな」
「そんな凄い力なら、何で最初から使わなかったのよ? 魔怪獣だってけちょんけちょんでしょ?」
それは俺も気になっていたことだ。
『キズナは自分の能力に気づいていない、垂れ流しだ。そのおかげでボクも能力を使い続けざるを得なかった。ま、おかげで拮抗してバランスは取れてるんだけどね』
「はーん」
要約すると、お互いの力がぶつかり合って相殺してたんだな。
『ええい、同じ現実改変を持っていようが、“D”の呪縛からは逃れられ――』
『――呼んだか?』
『えっ』
それは確かに、キズナの声だった。
先程の重苦しい声などではなく、キズナ本人のものだ。
『な、何故!?』
『“D”の魂とやらは、オレが吸収しちまった!!!』
『ば、馬鹿な!? “D”が人間の器に収まるはずがない!!!』
どうやらDはキズナが吸収したようだ。
魂を吸収? 一体どうやって? まあいいか。とにかく今は、魔王を倒すことが先決なのだから。
「キズナ! グリット! シャークウェポンごと動きを止めろぉ!!!」
『おう!!!』
『了解』
シャークウェポンに重圧がかかる。
これが2人の現実改変、世界を書き換える力を丸々封印に使った、最も高価な拘束具。
取っ組み合った2体のスーパーロボット。
完全に互角の睨み合いを破ったのは、魔王マジナだった。
『動けん! ならば私が出るのみ!』
「はぁ!?」
魔王は、コックピットらしき場所を強引にけ破り、中から飛び出した。
しかし、マジドラゴンの強さは健在。恐らく人工知能か何かを搭載しているのだろう。
「ヤバいわね! アンタ、外出て戦いなさい!」
「えぇ!? 俺!?」
アルルカンがとんでもないことを言いだした。
あんな単体でも恐ろしい力を持つ魔王に、生身で戦えと。
「こっちはアタシが何とか持たせるから! アンタは魔王をグチャグチャにして!!!」
「……あぁ! 分かったよ!!! クソ、自分だけ比較的安全圏にいやがって」
「それでこそアタシの相棒ね!」
「それでこそ俺の相棒だよっ!」
俺はコックピットの出入り口を開け、外に出た。
「必ず勝ちなさい! 勝利するのよ!!!」
◇
「逃げずに来たか、狂人よ」
「誰が狂人だ。格好ならそっちのが狂ってるぞ」
破壊され、瓦礫に満ちた街。
山のようなロボットや魔怪獣が殺し合う、地獄のような場所。
その中心で、俺と魔王は向かい合っていた。
「もう何の目的で侵略に来たかは知らんし、実力差もえげつないくらいに開いてるが……ブッ殺してやるよ」
「できるものなら……なっ」
「うあっ!?」
離れた場所から、魔王が拳を突き出す。
すると、俺は後方へと吹き飛ばされた。
「この技は……魔法か!?」
「いいや、今のは富士見無敵流、波羅空打。」
「富士見無敵流……? それ、俺ん家のじいちゃんが教えてるやつじゃん」
「なに?」
確か、江戸時代らへんから続く古武術の流派だった気がする。
まあ、俺は全く、それこそ基礎すら学んでないので、詳しくは知らないが。
しかし、こんなとこまで縁があるとは。
「お前は富士見家の者だったのか。だが、それにしては身長が低いな?」
「何とでも言いやがれ、デカいのに囲まれるのは嫌いじゃないんだ。で、そっちこそ魔法使わなくてもいいのかよ?」
魔王は肩をすくめた。
「ふん! 魔王など所詮は他称に過ぎぬ! 魔法などいらぬわ!!!」
「魔法使わなくて何が魔王だよ!」
「高度に洗練された技術は魔法と見分けがつかない……私にはそれで充分だ!!!」
「ならその技術ごと叩き潰してやるよ!!! これでも兄弟喧嘩じゃ負けなしなんだ、体格差も技量差も無意味だってことを教えてやる!!!」
魔王……いや、マジナと俺の決戦が始まる。
片やサメの暴力性、片や魔法と見紛う武術。
死闘の果てに何があるか……




