第73話 超魔王城ハイパーキャッスルの死闘!!! 魔王の正体!!!
――Side シャークウェポン――
「奴は月を破壊した化け物だ、気を引き締めろよ」
「んなこと言われなくても分かってるわよ。当たらなきゃどうとでもなるわ!」
俺達はハイパーキャッスルとかいう城を殴りつけ、外壁を引っ剥がす。
流石の魔王城だ、とてつもなく頑丈な造りになっているが、シャークウェポンの馬力なら対抗できていた。
『ハッハッハ、流石だなシャークウェポン。ハイパーキャッスルの外壁を力のみで剥がすとは……城がかわいそうだな、こうしてやろう』
「うわっ! そこ開くのか」
「やっぱり何かギミックあるのね!」
外壁や装飾を剥がしては魔王に向かって投げつけていると、突如として足元が開いた。
よく見ると歯や歯茎がズラリと並んでおり、微妙に気持ち悪い。
『ハイパーキャッスルは魔王城だが、生きた城なのだよ。並の超魔獣を凌ぐ戦闘力のみならず、内部に大量の魔怪獣を飼っている』
『ギシャアアアア!!!』
『ハイパーキャッスルよ、ロボット軍団にコドモドラゴンを放てっ』
その口から出てきたのは、いつぞやのトカゲ……ビッグリザード、つまりコドモドラゴンだった。
しかも、とんでもない量がドタバタと走ってくる。
「チィッ、何だって城の中にコドモドラゴンなんて飼ってんのよ!」
アルルカンがロボット用の使い捨て投げナイフを投擲し、何とか数を減らそうとする。
しかし、頭を貫通した奴以外はこっちに向かってきた。何てタフな奴らだ。俺、最初よくこいつを殺せたもんだな。
「キリがない……避けて城か魔王だけ狙うか?」
「そうね! 雑魚狩りは別の奴らに任せるわ!」
もうやってられんとばかりに、俺達は城の上の方へ跳躍した。
コドモドラゴン共もトカゲらしく四足で素早く上って来るが、シャークウェポンの方が速い。
「うわ、飼ってるのトカゲだけじゃないのね。鬱陶しいったらありゃしないわ」
「どうせ魔王には効かなさそうだからミサイルでやっちまおうぜ」
「あら、何か言ったかしら?」
俺の意図したダジャレではない。それを分かってるだろうアルルカンはニヤニヤとした笑いを浮かべながら、ミサイルのボタンを押した。
各部から展開するミサイルポッドが火を噴き、歯をガチガチと噛み鳴らすジョーズミサイルが発射される。
サメの凶暴性を備えたAI操作のミサイルは、1匹残らず獲物に食らいつき、爆散した。
もちろん狙われたのは魔怪獣だけではない。余ったミサイル達は、ハイパーキャッスルの外壁に特攻していた。なお、超魔王城の口はすでに閉じていたので、入ることはできなかった。
やがて10キロ以上もあるハイパーキャッスルを上りきると、魔王とのご対面である。
闇みたいな靄を纏っている。滅茶苦茶弱そうなので、恐らくは第2形態とかあるのだろうが、本体がどんな見た目かは分からない。
「へっへっへ、その闇の衣モドキを引っぺがしてやるよ。この光の球でな!!!」
「そのまま太陽をぶん投げられるような衝撃で消し飛ばしてやるわ!!!」
シャークウェポンの手の中にあるのは、指先から出る怪光線を一点に凝縮して作った光球である。
日本に飛んでくる前から作っていたので、かなりの密度なはずだ。魔王も手傷を負うくらいはするんじゃないか?
「死ね――」
『ほう、面白い。では私もあの大魔王に倣って姿を変えねばならんな』
「――は?」
魔王がそう言うと、投げられた怪光球が直撃する。
問題は、その直前に魔王が言っていたことだ。何で、『異世界の魔王』が『地球のゲームのネタ』を知っているんだ!?
『ふむ……清々しい気分だ。夜の気分じゃない。言うなれば、晴れ渡る朝のような』
「はっ……」
煙の中から声がする。先程の重厚な声ではなく、どこか合成音声じみた女性らしき声だ。
そして、夜空が晴れ渡り、朝日が昇る。時計はまだ夜中を示している。それなのに、夜が明けた!!!
間違いなく、魔王の仕業。
奴は月を破壊するのみならず、地球の昼夜すら操作する力を備えていやがった。
おおよそ人知の及ぶ相手ではない。今までロボットの力で倒せる相手だったが、こいつは格が違う。
魔怪獣の跋扈するマジック・モンスで世界を統一する国家を作り上げたのもうなずける実力だ。今、俺達は世界そのものを相手にしているのかもしれない。
サメと化して久しく感じなかった恐怖のようなものが、背筋を伝う気がした……
『攻撃をされたのは久しぶりだな。今日は特別に、私の真の姿をお見せしよう』
「真の姿だぁ……?」
「どうせ第2形態でお茶を濁すんでしょ? まだ変身残しているとか言って」
『なぁに、心配することはない。私はいつでも最終形態さ』
ブワリと煙が晴れる。ただ、手で払っただけで。
「……! あんたは……見たことがある。爺さんの道場で」
『ああ、富士見無敵流柔術は異世界でも役に立った』
「……根性のある弟子だったって褒めてたぞ」
『それは嬉しいな、今まで研鑽した甲斐があったよ』
まるで武術の道着と巫女装束を合体させたような、それでいて動きやすそうな衣装。
その背には、漢字で『魔』の文字が。
「博士の部屋でも見たことあるわ」
「ああ……写真に仲良く一緒に写ってた」
『本間餓智蔵……長らく聞いてない名前だったな。懐かしい……』
病的なまでに青白い肌に、毒々しい刺青のようなもの。
幽鬼のような雰囲気とは裏腹に、その全身は覇気に溢れ、力強い意思を感じる。
「本間博士がオカルトを嫌う原因、それがあんた……」
『そうとも。かつて魔術師の集団に誘拐され、この世の一切の負を凝縮させた責め苦を味わい、闇に葬られた……だが、私は気づけば異世界にいたんだ。異世界転生だか転移だか……』
「あんたの名は――」
『おおっと、それは私の口からだな。では名乗らせていただこう』
魔王が、尊大に両手を広げた。
『我が名は本間本気奈。マジック・モンスの魔王マジナだ』
地球侵略の首謀者は、地球人だった。
本間博士、魔王……何がどうつながっているのかは分からない。
だが俺達にできるのは、目の前の少女をブッ殺して地球を救うことだけだ。




