第72話 矢倍高校連合軍VSマジック・モンス軍団その5 『ネくロマンスドゴーレム』
闇の秘術、ダークネス・アンデッドによって強化されたダルガングは、それはもう無敵だった。
その一撃ごとに、高層ビルが消滅し、地盤がひっくり返されるほどの攻撃力を手にした……いや、全盛期に近づいたのだ。
『グハハハハ!!!』
『ギィィィィン!!!』
『やはり強いな……』
高速で迫りくるハルバードと戦鎚を、ヴィクセントは紙一重で回避する。
彼女の本体は、この九尾の狐。人間態でいるよりも、精密な動きができるのだ。
(ダルガングを倒すには……攻めて、攻めて、攻めまくるしかない。反撃を許さない猛攻撃あるのみだ! しかし……)
シャークウェポンがダルガングに勝てたのは、とにかく攻めたことによるものが大きい。
とにかく反撃の余地をなくすことで、攻撃させないことが重要なのである。
(防御を覚えていてほしいが……楽観的すぎるな。それでもやるしかないが)
ただし、このダルガングはアンデッド。防御の必要がないために、この戦法がどこまで有効かはっきりしなかった。
だが、ダルガングの戦法が身体に染みついていたのを見たヴィクセントにとっては、分の悪いかけではない。
『避けるだけか女狐ぇぇぇぇ!!! やはり獣の分際では英雄様には勝てんようだなぁぁぁぁ!?』
『抜かせ、下郎が』
煽るイスゲにたった一言だけ吐き捨てると、ヴィクセントはついに攻勢に回った。
『フンッ!!!』
『オオッ!!!』
口に咥えた竜の槍を器用に振り回し、ダルガングの武器を妨害する。
更に、9本もある金色の尾が、絶え間なくダルガングと隕鉄号を襲い、身動きを取れなくしていた。
『オオォォォォヴィクセントォ……』
『なにっ!?』
『ヒャハハハハァァァァ!!! こいつは傑作だぁぁぁぁ!!! アンデッドと化してまだ記憶があったとはなぁぁぁぁ!!! 見上げた精神力だぁぁぁぁ!!!』
わずかに生前の記憶が残っていたダルガングに、動揺を見せるヴィクセント。
しかし、彼女はこの程度で手を緩めるほど甘くはない。それどころか、攻撃は激化した。
ダルガングと隕鉄号に、明らかな傷が増える。
血こそ出てはいないが、並の魔怪獣や巨人ならば致命傷になりうるものもあった。
ヴィクセントとて無傷ではない。美しい身体には、無数の血や打撲の後ができている。
『だ、ダルガングぅぅぅぅ!!! はやく仕留めろぉぉぉぉ!!!』
強化された英雄が押されているという事実に焦ったイスゲが、いつもの癖で命令を下す。
だが、それが彼らの勝敗を分けた。
『オオオオォォォォッッッ――』
『――隙ありッッッ!!!』
アンデッドへの命令と、それを行動に移すまでにはわずかなタイムラグがある。実力者であるイスゲは、それを極限まで解消することができた。
だが、やはり完全に解消できるわけではなかった……故に、その刹那の瞬間が仇となったのだ。
竜の槍がダルガングの心臓を貫き、9本の尾が隕鉄号の喉を抉り取る。
それは奇しくも、シャークウェポンによって死んだ時と、同じ場所だった。
『見事なり、ヴィクセント。そしてレブリガー……』
『ギッィィィィン……』
彼らはそれだけを残し、動きを停止した。
『な、何だと――』
『次は貴様だ』
戦いはまだ終わっていない。
まだ、イスゲという頭が残っているのだ。
『こっちは終わったぜ!』
『我ガ雑魚狩リヲヤラサレルトハナ』
『しかし、そのおかげでダルガングは眠りました』
大量のアンデッド魔怪獣を殺し尽くした、3人と戦国アーマード侍軍団。
その濃密な殺気が向けられる先は、やはりイスゲだった。
そんな恐ろしい殺気を受けても、誰よりも死と隣り合わせだったイスゲはどこ吹く顔。
『どうする? 命乞いでもするか? それとも敵前逃亡か?』
ヴィクセントは、ここでイスゲは命乞いか逃亡を選ぶと考えた。
平気で他者を踏みにじり、死すらも冒涜するイスゲなら、卑劣な選択をしてもおかしくはない――
『だ、誰が命乞いなんぞするかぁぁぁぁ!!! 無礼るのも大概にしろノータリンのクソアバズレ女狐がぁぁぁぁッッッ!!!』
『何?』
その予想に反し、イスゲは飛び上がり……フラッシュゴーレムの上まできた。
『ククク……フハハハハ……ウワァァァァッッッハッハッハッハぁぁぁぁ!!!』
『何がおかしい!?』
『オレとて四天王!!! 貴様のような敵に与する女狐とは違い、戦って死んでやるぞぉぉぉぉ!!!』
イスゲが、フラッシュゴーレムの無くなった頭部と融合する。
彼が何百年も研究を続けた集大成、『ネクロマンスドゴーレム』の誕生である。
『このまま消し去ってやるぞぉぉぉぉ!!! この“闇”でなぁぁぁぁッッッ!!!』
ネクロマンスドゴーレムの手に、光すら永遠に黒く染める闇が収束する。
これが放たれたら、矢場谷園どころか日本は闇に呑み込まれるだろう。
『これは合体技の出番か!?』
『いや、それには及ばんよ』
エネルギーのチャージを開始しようとするキズナを制し、ヴィクセントが前に出る。
そして、竜の槍に魔力を注いだ。
『死ねええええぇぇぇぇッッッ!!!』
『はっ!!!』
放たれた闇と、魔力を帯びた槍。
両者は一瞬たりとも拮抗することなく――竜の槍がネクロマンスドゴーレムの胸に突き刺さり、内部から燃やし尽くした。
『うああああぁぁぁぁッッッ!!! 炎だああああぁぁぁぁッッッ!!!』
『地獄に落ちろ、イスゲ』
弱体化が極まったとはいえ、竜神武装。
アンデッドを焼き尽くすなど、造作も無いことだった。
『が……じ……地獄で待ってるぞおおおおぉぉぉぉ……』
イスゲは、灰すら残らず荼毘に付した。
その光景を見た彼らは、油断なく辺りを見回し残心。
敵はいないと確認してから、一息ついた。
『終わったぁー』
『厄介ダッタナ』
『『不死の怪物』イスゲ……恐ろしい相手だった』
『よし、一旦帰って――ッ!?』
その時、恐ろしい……イスゲがまるで足元にも及ばないような、強烈な気配がした。
それと同時に、光の粒子が現れる。新手の魔怪獣だ。
『あ、あれは……あの城は……!!!』
やがて姿を現したのは、城。
荘厳な装飾と、地球に存在するいずれにも属さない独特な建築様式は、それだけで見る者を畏怖させる。
そして、その大きさは実に10キロメートルを超えるほどに大きかった。
『魔王城……』
『えっ?』
『あれは魔王の住む城、『超魔王城ハイパーキャッスル』だ!!!』
『その通り、地球の諸君』
『!?』
ハイパーキャッスルの先端に、誰かがいた。
深い闇を纏ったような、影のような姿のそれは――
『ま、マジック・モンス魔王……!!!』
『ご紹介どうも、ヴィクセント。諸君、私が魔王だ』
魔王は、指先から光線を放った。
何よりも眩しく、見たことも無いようなそれは、空をぐんぐんと進んでいき……月を木っ端みじんにした。
『……これは、ヤバいな?』
『イカレタ火力ダ……』
『わ、我々は勝てるのか、魔王に!?』
『ククク……む?』
流石の彼らも、あまりの力の差に戦慄したその時。
夜空から、一条の流星がこちらに向かって落ちてきた。
その流星の正体は――
『うおおおおぉぉぉぉッッッ!!!』
『死にやがれええええぇぇぇぇッッッ!!!』
紛れも無く、シャークウェポンを駆る虎鮫とアルルカンだった。
シャークウェポンの鉄拳が、容赦なく世界遺産級の城を破壊せんと迫る。
『待て、待ちやがれクソッタレ共め!!!』
『タキオンシステム全開で何とか日本まで来れたな、数秒で』
『凄いお城ですわ。私の家よりも大きい』
『観光してみたいね、魔王城じゃなければだけど!』
『ブルルルル』
彼らは、ラピス・ラズリに搭載されたタキオンシステムによって、大急ぎで駆け付けたのだ。
それを見た魔王は、気をよくしたように笑っていた。
『ハハハハ。元気なのはいいことだ』
『笑ってられんのも今の内よ!!!』
『あの世に送ってやるよ!!!』
『ウム。実に善き哉……御託は必要ないようだな、お互いこれが最終決戦になる。さあ、かかってこい!!!』
かくして、魔王との最終決戦が始まった。
地球、マジック・モンス……最終的に勝つのは誰だ!?




