第71話 矢倍高校連合軍VSマジック・モンス軍団その4 『ヴィクセント&レブリガー』
時は遡り、少し前。
「行くのか」
「ああ、ドクター・ホンマ」
本間研究所にて、本間博士とヴィクセントが話していた。
彼らの周りでは、職員が慌ただしく行き来している。
「イスゲ・ミゴソクが来たということは、虫一匹に至るまでアンデッドにされ、永久に不浄の地へと変えるということ……我々もアンデッドになるのはゴメンだ。それに……」
モニターに映し出された映像。
そこには、アンデッドと化したダルガングと隕鉄号が、ゾンビ魔怪獣と共に大暴れする光景が映し出されていた。
「ダルガングと隕鉄号に世話になった身としては、彼らに申し訳が立たん」
「なるほどな、介錯してやりたいということか」
本間博士はマジック・モンスを死ぬほど嫌悪っているが、ヴィクセントの考えには一定の理解を示していた。
死してなお操られるという辱めを受けているのなら、戦士として一思いに終わらせてやろうという気持ちは、彼が若かりし頃には持っていた想いだったからだ。
「……正直に言って、わしはお前達を信用しておらん。が、ここまで来たらもうお前達が裏切ろうとどうでもいいことじゃ。好きにせい」
「それはいいのか……? ま、まあそれならば、ありがたく好きにさせてもらおうか」
ヴィクセントは、改めて空を仰ぐ。
研究所のハッチはすでに開かれており、いつでも飛び出せる状態だ。
そんな彼女に、近づいてくる人物がいた。
「ヴィクセント、槍がいるんだろう?」
「レブリガー殿……私にはこれがある。本当は魔力の籠っているものが良かったが……」
レブリガー・ヘルカイト。
彼は竜を名乗る、リザードマンに偽装した竜人だ。
ヴィクセントは、彼に持っている槍を見せつけた。
総オリハルコン製の長槍で、この世にまたとない逸品であることは、ヴィクセントから見ても間違いない。
しかし、何よりも魔力が存在せず、手に馴染まないことが不満だった。
「いや、私が槍になろうと思ってね」
「何を言って……ふうん、そういうことか」
レブリガーが何を言っているのかを理解したヴィクセントは、もはや無用とばかりに、その場に槍を突き立てた。
「では行くぞ!」
「君なら上手く扱えると信じている!」
2人は、空へと飛び立った。
その瞬間、2人の身体は変貌を遂げる!
『カ……ガァァァァッッッ!!!』
ヴィクセントの身体が、肥大化していく。
更に、全身に黄金とも白銀とも取れない色の毛が生え、最終的に巨大な獣へと姿を変えた。
それはまさに、九尾の狐と言うべき巨獣だった。
『グワァァァァォォォォァァッッッ!!!』
角の生えたリザードマンのような姿のレブリガーは、ほとんど巨大化だけにとどまった。
その姿は巨大化し、竜人だった頃の面影を残した赤い竜。マジック・モンスでは暴威を振るい、魔王との死闘によって絶滅させられた最強生物、まさにドラゴンである。
しかし、それだけではなかった。
レブリガーはドラゴンから更に変化し、その身を細長い物体に変えたのだ。
それは、『竜の槍』とも言うべき武器だった。
『なるほど……竜の槍の名に相応しい槍だ。マジック・モンスですらお目にかかれない、竜神武装……それが貴方の真の姿か』
『その通り。私は生まれながらの竜神武装、竜の槍。灼熱地獄に鍛え上げられた竜の槍!!!』
古代のマジック・モンスは、驚異的な異能を持つ魔怪獣が跋扈する今と比べても、地獄のような環境だった。
その中で最強の種族と謳割れたのが竜/龍である。
レブリガーは、世にも珍しい生きた竜神武装だった。
かつての力はほんの砂粒ほどしか残っていないが……今の時代なら、それで充分。
ヴィクセントは、鋭い牙の生えた大口でレブリガーを咥えた。
『では行くか! 目標は……ダルガング!!!』
ヴィクセントの巨体が、風のおゆに空を駆けた。
◇
『女狐ぇぇぇぇ!!! ちょこまかと逃げてるだけかぁぁぁぁ!?』
『貴様に戦士の立ち合いが分かるのか? 随分と勉強したのだなぁ』
『抜かせぇぇぇぇ!!! おいフラッシュゴーレムゥゥゥゥ!!! そっちのスカした石ころ野郎を砕いてやれぇぇぇぇ!!!』
『ブラッシィィィィ!!!』
戦場は、混戦を極めていた。
地球のロボット軍団及びヴィクセント。そして、イスゲ率いるアンデッド軍団。
質と数、中々決着がつかないのだ。
しかし、最初に崩れた均衡があった。
それは、ゴーレム同士の戦いである。
『オオオオォォォォ……』
『ブラッシブラッシ!!!』
イスゲによって作り出された、フラッシュゴーレム。
幾多もの魔怪獣を繋ぎ合わせたそれは、まさに動く肉塊のような様相であった。
そして、肉体を構成する魔怪獣のどれもが、国を滅ぼしてなお有り余るほどの活力を持った強力な者達。
イスゲが邪法によってリッチーと化してから、何百年もの研究を積み重ねてきた最高傑作である。
その身体から噴き出る『闇』は、触れた生物をアンデッドに変えてしまう恐ろしい瘴気だった。
かつては、これによって敵対する国々を滅ぼしてきた。中には、マジック・モンスよりも巨大な国や超魔獣の群れすら存在したが、フラッシュゴーレムの敵ではなかった。
「凄いパワーだねぇ……じゃあこうしようか」
『オオオオォォォォ!!!』
だが、ここにいるのは並の敵ではない。
超魔獣たるロンズデーライトゴーレムと、それをたった1人で操る魔女グリットのコンビなのである。
ロンズデーライトゴーレムは、グリットの指示によりわずかな隙をつき、空に拳を振り上げた。
曇天が雲1つなく晴れ渡り、空には夕焼けが広がる……
『しまったぁぁぁぁ!? フラッシュゴーレムゥゥゥゥ!!! ロンズデーライトゴーレムに光を与えるなぁぁぁぁッッッ!!!』
『ブ、ブラッシィィィィ!!!』
イスゲの目が、他へ向いたわずかな時間に、空が晴れたのだ。
直接的な戦いに慣れていないイスゲのミスだった。
フラッシュゴーレムは指示を受け、すぐさまロンズデーライトゴーレムを闇で覆った。
闇で日を隠すまでの応急処置であり、グリットを殺すためである。
『瘴気の闇に呑み込まれたんだ、これで奴らは――』
「輝く巨星は墜ちて尚――」
『あ?』
「光を放つのさ」
凝縮されたがゆえに巨大な質量を持った闇から、輝く拳が現れた。そして、フラッシュゴーレムの頭部をいともたやすく打ち砕く。
そのあまりのあっけなさに、イスゲは何が起こったのか理解できなかった。
『な、フラッシュゴーレ……うぉぉぉぉ!?』
『よそ見か?』
『よそ見が悪いかぁぁぁぁ!? 奴が動けんならこっちに集中するまでよぉぉぉぉ!!!』
復帰したイスゲは、ダルガングの操作に専念した。そして、ロンズデーライトゴーレムが動けないことを看破した。
ロンズデーライトゴーレムは、しばらく動けない。今のグリットでは、あまり無理に動かせないのだ。
伊達に長年生きていないイスゲには、そういった観察眼が備わっていた。
だが、今は動かなくてもいい。
グリットには、信頼できる仲間がいるからだ。
『うぉぉぉぉ!!! トキシックビィィィィム!!!』
『雷電磁大光球!!!』
『キャノン・ボール!!!』
『キェェェェッッッ!!!』
『チェェェェストォォォォッッッ!!!』
野に放たれたアンデッド魔怪獣はほとんど殲滅されている。まさに死屍累々、魔怪獣の屍山血河が作り出された。
残るは、ダルガングとイスゲだけになったのだ。
『おのれぇぇぇぇ!!!』
『ふん、ずっと研究室に引きこもっていれば良いものを……わざわざ出てきてしまったのだからなぁ』
『黙れクソアバズレ女狐がぁぁぁぁ!!!』
『誰がアバズレだ……まあいい。お前には興味はないが、ダルガングとなら1対1で勝負してやろう』
『何ぃぃぃぃ!?』
イスゲは困惑した。
わざわざ有利な状況を捨て、タイマンで勝負など考えられなかったからだ。
『無礼てんのかぁぁぁぁ!!! それとも梅毒が頭まで回ったか淫売がぁぁぁぁ!? ならお望み通りタイイチにしてやるよぉぉぉぉ!!! ダァァァァクネス・アンデッドォォォォッッッ!!!』
イスゲは杖を振り、ダルガングと隕鉄号に魔法をかけた。
アンデッドを強化するこの魔法は、『ダークネス・アンデッド』。神聖魔法である『ターン・アンデッド』に対抗するためにイスゲが生み出した、アンデッドのための魔法だ。
闇に包まれたダルガング達は、更なる力を得た。
『やっちまえぇぇぇぇ!!! 『流星群の』ダルガング・ボラックレスと隕鉄号ぉぉぉぉ!!!』
『『急所突きの』ヴィクセント、灼熱地獄の竜の槍。いざ参る!!!』
マジック・モンスでも有数の実力者が3人……地球上で、世紀の戦いが始まる……ッッッ!!!




