第67話 超魔獣『宇薙ぎし八ツ目の怪魚』
――Side:ロボットチーム・マック――
「大丈夫かい!?」
『ええ、大丈夫ですわ』
『クッソ! 何だこの気色悪ぃウナギは!?』
マック達は、新たに現れた超魔獣に苦戦していた。
ウーパールーパーが消滅し、スライムを消し飛ばした直後にこれである。
「マジック・モンスの捕虜に聞いたことがある。あれは『ヤツメ』という超魔獣だ!」
『ヤツメェ? そいつはまた安直でふざけた名前だな!』
敵は空を舞う巨大なヤツメウナギといった風貌で、文字通り8つの目を有していた。
名を『ヤツメ』。マジック・モンスでも恐れられる、強力な超魔獣の1体だ。
「ゴホッ、ゴホッ! ……明らかにおかしい、吐血なんて訓練以来だよ」
ヤツメの目が怪しく輝く度に異変が起こっており、パイロット達は苦しんでいる。
その異変は様々であるが、どれもが先頭に支障をきたすものだった。
身体が極端に重くなり、動くのも億劫になる。
コックピット内や機体の外に、幻覚のようなものが見える。
全身が痛み、ドス黒い血を吐いてしまう。
身体に切り傷が出現する。
黒い炎に焼かれる。
ヤツメウナギについて行きたくなる。
突然、恐怖に支配される。
そして――
『バイタル低下! ……心肺停止!?』
『……』
「ジャァンプ!!! ラリマァ!!! 応答しろ、目を覚ませ!!!」
パイロットの状況を表すバイタル・シグナル。
ジャンプとラリマーのそれが、心肺停止を表していた。
「ベティ、オブリビオン、僕が2人に電気ショックを与える!」
『分かりましたわ!』
『まァた時間稼ぎかよ!』
パイロットを失った2機は今、AIの自動操縦で動いている状態だ。
彼らを復活させるためには、傲岸不遜に宙を舞うヤツメの攻撃ををかいくぐり、2人に電気ショックを与えなければならない。
だが、このヒュージ・ジャンク改め『マウント・ジャンク』には、近づく必要などない。
時間を稼いでくれるだけでよかったのだ。
「プラズマエンジン起動!!!」
マックの掛け声と共に、マウント・ジャンクを電撃の光が包み込んだ。
これは、機体に内蔵された第2エンジンを攻撃に転用するという荒業。しかし、頑丈に作られたマウント・ジャンクはその程度で潰れない。
『オォ!! 死ねやウナギィ!!!』
『その目! 潰させていただきますわ!!!』
『ウギョギョォォォォ~ッッッ!!!』
8つの目を的確に狙った攻撃は、見事にヤツメを妨害している。
時間にすると10秒ほど。わずかな時間であったが、マックにとっては十分すぎた。
「生き返ってくれ! Jサンダァァァァッッッ!!!」
空中に、黄金の雷撃が迸る。
稲妻はジグザグに突き進み、ヤツメへとぶつかる……のみならず、2人の操るラピス・ラズリとメガロポリスに直撃した。
『ッ! ゴホッ!! ゴホッ!!!』
『感謝する、マック!』
「よしっ!! 奴の目を狙うぞ!!」
Jサンダーで麻痺しているヤツメに、彼らは総攻撃を仕かけた。
ステルスBEとラピス・ラズリのコンビが収束レーザーで、閉じられた右側の2つの目を焼く。
ブラストウェーブMk‐2が神がかったエイムで、右側に残る2つの目を潰す。
メガロポリスがバケットを横にし、左側にある3つの目を破壊する。
最後に残っていたのは……全てを即死させる目だった。
しかし、それが開かれる前にマックが動く。
「これで最後だ! ブースト・ロケットパァンチッッッ!!!」
『ギョギョエェェェェッッッ!?』
麻痺から回復したヤツメが危機を感じ、身をよじって回避しようとするが、ほんの少し遅かった。
射出されたロケットパンチは、開かれる直前に最後の目を破壊したのだ。
『よし、気色悪い目を全部潰してやったぜ。これでウナギ野郎も終わりだ』
『だが待て、様子がおかしい』
『あれは……口を開いて……?』
全ての目を失ったヤツメは、悪あがきとばかりに、元々開いていた口を更に大きく開いた。
血反吐混じりの体液が口からこぼれ、周囲に悪臭と腐食をまき散らす。
中からは、白いものが見え隠れしていた。
『あれは……何かが出てこようとしています!』
『させるかよ!』
何かを始めようとするヤツメに対し、攻撃を仕かけるが、機敏に動く巨体が直撃を許さなかった。
その姿に、マックは嫌なものを感じた。何故ならそれは、前に会ったマジック・モンスの捕虜が言っていた、『ヤツメ』の切り札に関する情報と一致していたからだ。
「確か、彼はこう言っていた」
その時の会話を思い出す。
魔法の使えない人間を見下すマジック・モンスには珍しく、差別意識の薄い彼は面白い話を聞かせてくれた。
上等な酒を飲みながら語ってくれた話の内容、その一部が――
『ヤツメは“九つの魔眼”と呼ばれてるんだ』
“第9の魔眼、超高威力レーザービーム『破壊光線』”
「奴の魔眼は9つあった!!!」
全員の驚愕をよそに、姿を現した悍ましい魔眼から破壊光線が放たれた。
それはカリフォルニアの地表をひっぺ返しながら突き進み、文字通り目に映るもの全てを破壊する。
「シャークウェポンが!!!」
『アイツらまだ動けてなかったのかよ!?』
光線がシャークウェポンに向かう。
しかし、その時だった。
『GHOOOOOOOO!!!』
「動き出したッ!」
『光線を受け止めたのか!?』
サメギューンに侵食されていたシャークウェポンが、突如として動き出し、片手で光線を受け止めた。
その光線はシャークウェポンを傷つけることなく、手に吸収され……
『オカエシダッ!』
『ギョッ……ギョギョォェ~……』
更に強い光線となり、押し返された。
極太のレーザーで弱点中の弱点である第9の魔眼を破壊されたヤツメは、全ての魔力と生命力を失い、力尽きて死んだ。
「虎鮫! オーギュスト! 大丈夫かい!?」
『ええ、大丈夫です』
『アタシも無事よ~』
マックは安堵で胸をなでおろした。
先程、彼らは明らかにコックピットを貫かれていたからである。
安心し、一息つこうとしたその直後、通信が入った。
『お前達! 日本へ向かえ!!!』
「ドクター・ホンマ!?」
本間博士だった。
『最終決戦じゃ! 最強の超魔獣が現れた!!!』
「最強の超魔獣!?」
最強という言葉に、全員が息をのんだ。
今まで戦ってきた魔怪獣や超魔獣も、強敵ばかりだった。それらを差し置いて最強など、悪夢でしかない。
『アレを見ろ!!!』
「アレ? ……何だあの光は!?」
本間博士の指差す方向を見る。
するとそこには、光の柱が空に向かってるところだった。
その光の柱は夜空へ一直線に突き進み……月を粉々に破壊した。
「はっ……」
『奴を倒せば、魔王が出てくる!!!』
狂気を宿す本間博士の声には、絶対的な確信の色があった。
何故、あの光柱の主が最強の超魔獣なのか、魔王が現れると言い切ったのか。
「……よし! 行こう!!!」
『どんな奴でも仕留めてやるぜ』
『まさしく地球の危機だな。倒さなければならない』
『火薬は足りるかしら……』
『壊す、直す』
『クッソ何で日本に来るんだ。ああ、家族が心配だ』
『月を壊した奴を殺したってことは、月より強いってことになるんじゃないかしら』
『ブルルルル!』
皆、気合は十分だった。
思惑はともかく、超魔獣を倒して地球を守るという意志は共通している。
「いざ、決戦のバトルフィールドへ!」
『GO!!!』
『ヒヒィィィィン!!!』
彼らは、超魔獣の現れた日本へと向かった。
魔王との最終決戦は近い……!!!
【エネギューン】体型:不定形 身長:50メートル 分類:不明
・全身に無数のトゲが生えている以外は不定形の生物。
触れた生物の生命エネルギーなどを根こそぎ持ってく。雑食だが、特にスライムが大好物で、スライムを含むいくつかの魔獣を含む生物が絶滅したのはこいつのせい。
無性生殖かつ単為生殖な上、食欲旺盛という全生物の敵。餌となるものが減ると共食いもする、まさに悪夢のような生物である。
その凶暴さと被害から、超魔獣でないにもかかわらず、超魔獣級生物に指定されている。
――実は生命力を奪い取っていたのではなく、全てを取り込んで融合していた。その方法とは、触れた相手の精神世界へ入り込み、そこで勝利するというものである。
強固な精神か、深い狂気を持っていなければ、たちまちエネギューンの餌食となるだろう。
この個体は大量のサメを取り込むことで、サメのような生命体へと変異した。
『奴に襲われて生き残った人間はいない』
『凶悪……』
【超究極腐食性スライム】体型:不定形 身長:40メートル 分類:単細胞生物
・巨大なスライム。
想像を絶する超酸性の身体によって、瞬時に獲物を溶かし尽くす。その酸は、自分でも制御できないほど。
全スライムの99.99パーセントを喰い殺し、数多の魔獣を絶滅させてきた最強の天敵である『エネギューン』に対抗するために、このような歪な進化をとげたとされる。
また、巨体の割には驚くほど素早く移動できる。
割と硬い対エネギューンに特化しているため、大概の生物や物質は溶かせるが、一部の金属は溶かせなくなった。
その希少性と危険性から、絶滅危惧種及び超魔獣級生物に指定されている。
『絶滅危惧種を戦場に出してもいいんですか?』
『ああ。死んでも生き残っても、生態系には何の影響もないからな』
【ウー・ハー】体型:四足歩行 身長:1キロメートル 分類:両生類
・四第元素を身に纏う、巨大なウーパールーパー。
不死身の再生力や耐性を持つ。殺すには、細胞の一片まで消滅させる必要がある。
属性適正(※)は原則として『1個体につき1つ』というのが常識であるが、ウー・ハーは『火・水・風・土』の4つに対して最高の適正を持つ。
このことから、『サラマンダー(火)』と呼ばれる精霊が自身をベースに、『ウィンディーネ(水)』、『ノーム(土)』、『シルフ(風)』と融合した結果生まれたのではないかと考えられている。
『ウー!!!』
『ハー!!!』
※マジック・モンスでは、魔法の適正は『1人1種類』である。
本人にとっては、適正の属性が一番使いやすくて強いし、魔力消費も少ない。
ただし、適正が無い属性の魔法であっても、普通に使えはする。
【ヤツメ】体型:ウナギ型 身長:2キロメートル 分類:脊椎動物
・八つの魔眼を持つ、空を飛行するヤツメウナギ。
【即死】、【石化】、【魅了】、【狂気(幻覚)】、【呪毒】、【恐怖】、【切断】、【黒炎】の8つを一斉に使ってくる理不尽極まりないな生物。
弱点は勿論、目である。そのため、勝敗はいかに迅速に目潰しを食らわせることができるかにかかっている。もし目を潰せなければ、逃れられない魔眼が待っているだろう。
――8つの目を全て潰すと、第9の魔眼【破壊光線】が現れる。
この魔眼は非常に魔力効率が良く、体外に露出している間は無尽蔵にレーザービームを放出し、周囲に破壊をもたらす。
『こいつ視力もいいから50キロ以上先から即死させてくんのクソすぎる』
『やっぱ怖いスね即死能力は』
【ステルスゴーレム】体型:人型 身長:50メートル 分類:ゴーレム
・その名の通りステルス特化のゴーレム。
豪快な暗殺者として知られ、音も匂いも無く獲物に近づき、仕留める。
ただし、勘のいい魔獣には居場所がバレてしまい、返り討ちにあうことも。
暗殺型のゴーレムなので、基本的なスペックは低いのだ。
バトルマスキュラーに破壊された。
『あの、この大きさで貴族の暗殺に使われたって記録があるんスけど』
『もちろんバレた』




