第62話 超魔獣『大雪山おろし』
「見えたぞ、ロンドンだ!」
ユーラシア大陸上空を横断し、イギリスに突入した。
偽装は本間博士及び各組織からの要望により、レーダーを誤魔化す以外はしていない。なので人々からは巨人と巨大馬が空を駆けているように見てたことだろう。神話かな?
「様子がおかしいわ」
「ああ……気温が氷点下を下回ってる。もう6月だぞ?」
温度計が氷点下を示す通り、ロンドンには吹雪が吹いていた。
あまりの寒さに、時計塔も海も凍り付いている。これは寒波の領域にはおさまらない、氷河期だ。
「爆発音……イギリスってことは、ベアトリックスさんのブラストウェーブか」
「ド派手ね。実弾兵器しか積んでないのかしら?」
「そうだぜ、ブラストウェーブには実弾兵器しかない」
ブラストウェーブという機体には、ミサイルや爆弾、銃弾などがみっちりと積まれている。
レーザーやビームなどの光学兵器は存在しないし、動力も蒸気機関やタービンという、とてつもなくスチームパンクな機体となっている。
物理無効や反射とか持った魔怪獣が現れたら死にそうだな。
『ブラストウェーブ』という名の必殺技も、機体内部で極限にまで高められた熱気と風圧を飛ばし、おまけに全弾発射するというものだ。
全てはスチームパンクに満ちている。
「ほら、見えてきたわよ……でっかいマンモスね!?」
「な、何メートルあるんだぁ!?」
前に戦ったロンズデーライトゴーレムが小人に見えるほど、規格外の大きさをしたマンモス。
計測器によるとその全長は……約4キロメートル!?
メートル法に換算すると約4000メートルの超巨体。
エベレストの約半分、富士山よりも大きい山嶺が意思を持って動いていると言っても過言ではない。
事実、上空からは山が動いていると錯覚したほどだ。
「正直、俺らが行っても焼け石に水だと思われるが……」
「ゾウと虫みたいなサイズ差だしね」
だが、行くしかない。
マンモスの歩みがナメクジみたいに遅いのでロンドンだけで済んでいるが、このままではイギリス国外どころか、海を凍らせて世界旅行なんてこともあり得る。
もし地球に再び氷河期が訪れたら、人類は衰退を余儀なくされることだろう。そこにマジック・モンスが攻めてきたら……人類は敗北する!
それは何としてでも阻止しなければならない。
「っしゃあ! 気合い入れて行くかぁ!」
「マンガ肉みたいにしてやりましょう!」
バトルマスキュラーが空を駆け、マンモスへと迫る。
回転鋸『ヘリコプリオン』を構えると、まるで突撃槍のようだ。
「死ぃぃぃぃねぇぇぇぇッッッ!!!」
『パオオオオオオオオォォォォッッッ!?』
アルルカンの気合いと共に、シャークウェポンが縦に回転し、そのままヘリコプリオンが振るわれる。その矛先は、冷気を吹き出すマンモスの長い鼻。
分厚い氷に覆われた鼻が、スパっと半ばから切断された。
血しぶきを上げる鼻。
斬り飛ばされた部分はトカゲの尻尾のようにのたうち回り、マンモスは血の混じった息を吐く。
爆炎に包まれてもまるで意に介していなかったマンモスは、俺達の方を向いた。
『パオオオオォォォォッッッ!!!』
マンモスが大地を揺るがすほどの大音量で吠えると、猛吹雪が発生する。
氷の嵐を身に纏い、シャークウェポンに向かって突進した。
「見た目通りの凄いパワーだが……受け止める程度ならできるんだよ!」
『パオッ!?』
巨大な氷の牙を受け止める。
それ1本で高層ビルを余裕で超える大きさの牙だが、シャークウェポンにとってはちょうどいい持ち手に過ぎない。
しかし、動きを止められたマンモスは後退した。俺達は止めているだけだというのに。
『パオ!?』
マンモスの目が背後を向いた。
そこには、マンモスの尻に魔法の鎖を引っかけ、逆方向引っ張っているバトルマスキュラーが。
ミオスタチン関連筋肉肥大の他に、多量の栄養素と魔法によって鍛え上げられた戦闘筋肉が、単なる魔怪獣に過ぎなかったバトルマスキュラーに、超魔獣にも匹敵する筋肉を授けたのだ。
それこそ、霊峰を一つ丸ごと引きずって動かせるほどのパワーを。
「あの子、パワーだけならシャークウェポンより上じゃない?」
「だなぁ、ほんとは馬らしくスピードが欲しかったけど……まあ島田さんに任せてよかった。でも消耗も激しいだろうし、皆で早めに決着つけようじゃないか」
周りには、体勢を立て直したロボット達が。
彼らから、通信が入って来る。
『援護、助かりましたわ』
ベアトリックスさんのブラストウェーブ。
前よりもはるかに巨大になっており、脚部には大きな車輪がついているが、どうやら本物の脚ではない様子。どうも四脚と化した脚で、車輪付きの何かに組み付いているようだ。
その姿はまさにロボット武器庫。
無数の弾薬を爆薬を背負い、一気に撃ち出し続けていた。
『我々もいるぞ』
『チッ! 一撃でこの有様かよ』
空を飛ぶ、ラリマーさんのラピスラズリと、オブリビオンのステルスBE。
この2機には、大きくなった以外は特に変わりは無かった。
彼らは先程からビームやミサイルによって攻撃しており、マンモスに積もる雪や氷が融けている。
しかし、分厚い雪や氷で威力が減衰してしまい、どうにも効果が薄いようだ。いや、そもそも富士山クラスの相手に巨大戦闘機では分が悪いのかもしれない。
「皆でやれば、早く片が付きそうだな」
「鼻も切れたし、殺せない相手じゃない」
暴れ狂うマンモス。
その目は、俺達を真っ直ぐに見据えていた。
恨み、憎悪、憤怒……あらゆる敵意の込められた視線は、常人ならば心停止してしまうだろう。
「何だその目は? ブッ殺してやるよ!」
「親でも分かんないくらいグチャグチャにしてやるわ!」
だが、ここに真の意味での常人など存在しない。
ロンドンが凍るのが先か、マンモスの死か。
火薬マシマシの大決戦が始まる……!




