第61話 外国へGO!
「突然じゃが、お主らにはイギリスに行ってもらいたい」
「何ですか突然?」
唐突な指令だった。
「またロサンゼルスですか?」
「話が速いな。今回は、レイジアンガーの資料によって超魔獣の出現地が特定できた。最初がイギリスというわけだ」
「なるほど……でもマジック・モンス側が作戦を変更するとかは無いんですか?」
「レイジアンガーによると、上層部はクソアホなので問題ない。まあ、変えたところでどうにかなるわけでもないしな」
敵も味方も雑過ぎないか?
戦争というより、何か誰かの掌で踊らされてる気分だ。
「イギリスだってよ」
「観光にはちょうどいいいんじゃない?」
「かもなぁ……博士、今日も瞬間移動装置使うんですか?」
あの装置、正直怖いのであんまり使いたくないんだが。
「いいや、今回はシャークウェポンで直接イギリスに行ってもらう」
「えっ!? レーダーとかは……誤魔化せましたね」
「うむ。シャークウェポンのステルス性能は、その見た目に反して高い」
そういう訳で、俺達はイギリスに行くことになった。
しかし、高校生にやらせる任務じゃないな、相変わらず。
◇
『準備は良いな?』
「オッケーです。だろぉ? バト筋」
『ヒヒィィン』
バトルマスキュラーが嘶いた。
イギリスへは、バト筋に乗って行く。理由は、推進機の燃料がそこまで多くないからだ。
その点、ミオスタチン関連筋肉肥大なのに脂肪をため込めるという超性能な魔怪獣であるバト筋なら、エサさえあればいくらでも頑張れるのだ。
エサの生産機は、シャークウェポンのコックピットに備え付けられている。ブロック状の超高カロリー特殊栄養食餌が、シャークウェポンのエネルギーを消費して無限に生産できるのだ。博士って凄い。
連れて行くのは、バト筋とダオランのみ。
リキッドとメカトパスは置いて行く。キズナのサポートをしてもらいたいからな。
『では良い旅を……と言いたいところじゃが』
「魔怪獣めぇ~!!!」
現れた、大量の光の粒子。
その中から、次々に魔怪獣が出現した。
ズシンと地面に着地したのは、皆が想像するようなトロールと、木でできた馬、トロ(切り身)みたいな何かだった。
そいつら以外は、メイガス・ナイト数体でといくらかの魔怪獣。それ以外はあまり目新しい魔怪獣もいない。今までの使い回しだろう。
『ギャボボボボボ!!!』
「いきなり襲いかかって来るのかっ」
前にも見た魔怪獣と同種。
いつにも増して、理性の欠片も無い目をしている。
白く濁っており、まるで死人のような……
「邪魔よっ!!!」
『ギャバァッ!!!』
フカヒレザーの一振りで真っ二つになる。
だが、血は出なかった。それどころか、完全に仕留めたというのに、モゾモゾと動いている。
『ボグダヂボヴガゴデンジバグラブ~』
「ぬあああああのカニィィィィッッッ!!!」
だが、考える間もなく、奇妙な鳴き声と共にシャークウェポンの制御が効かなくなった。
あのカニだ。赤と青のハサミを持つカニの仕業だ。
『ヒィィィィンッ!!!』
「バト筋!!!」
バト筋も囲まれているし、シャークウェポンは魔怪獣の群れに突っ込まれそう。
こんな所で無駄な消耗はしたくない。後の超魔獣戦に響くからな……
「おっと? これはヤバいんじゃないか?」
「いかにも野蛮そうな奴が何て物持ってんのよ!?」
デカいトロールが持っているのは、超巨大な戦鎚だった。
どれくらいデカいかというと、ダルガングの持ってた物より大きいし、形も凶悪だ。しかも以外と文明の利器っぽい。
その上、あのトロール自体がダルガングよりはるかに大きいのだ。
あれで殴られたら、絶対にどこかがブッ壊れるに違いない。
超魔獣戦にも支障が出るだろうし、頭部をやられたら俺達も危ないかもしれない。
絶対に殴られる訳にはいかないと思いつつも、眼前には振りかぶられた戦鎚が迫る――
『ぐうぅぅおおぉぉ!?』
『お、弟者!?』
「何だ!?」
「援軍?」
突如として爆発が連続で巻き起こり、魔怪獣を殲滅し続けた。
カニが無惨に爆発四散したことで、機体に自由が戻る。
「一体誰が……」
『無事か?』
こ、この脳内に響く声は……!?
「ギャル! 生きていたのか!?」
シャークウェポンの手に降り立ったのは、あの日俺を庇って瀕死になり、統一言語をよこしたギャルだった。
「あーん? ギャルじゃないの。あの怪我じゃ死んだって思ってたけど」
「確かに大怪我だった。だが今は五体満足……どういうことだ?」
『それはこういうことだ』
ギャルが再び宙に浮かび上がる。
腕を組んだままフワッと浮くのは、何か恐ろしい力強さを感じさせるものだった。
「何!?」
宙を舞うギャルの身体が、ガシャリと音を立てた。
「あ、あれは!?」
腕、脚、背……身体の各部から展開された、ギャルの倍ほどもあるミサイルポッド。
その発射装置から無数のミサイルが、光の線となって発射され、魔怪獣を貫いた。
『鋼の肉体を授かり、冥府より蘇った……科学狂人牧島嶺緒の手によって』
「サイボーグだと!?」
「完成していたのね!?」
明らかに質量保存の法則を無視した変形。
間違いなく、SFに出てくるヤバいタイプのサイボーグだった。
何でそんなものを学生が作って、しかもその技術を死にかけの先輩に使ってるんだ。
「強い……だが」
「あの3匹は殺せてないし、まだまだおかわりが来てるわね」
レイジアンガーが裏切った影響なのか、マジック・モンスから続々と魔怪獣が送り込まれている。
この数は……流石に俺達も加勢した方がいいかもしれない。消耗はしたくないのだが……
『虎鮫よ、心配は無用だ』
「何? どういうことだ?」
『この程度なら、我々だけで十分』
ギャルが指を鳴らす。
すると、矢倍高校から何十人もの生徒と、多数のタフボーイが走って来た。
彼らは一糸乱れぬ動きで空中へ飛びあがると、その身を変形させた。
そして、空を飛び、ギャルの元へと集まった。
「これは!?」
合体した彼らは足元から徐々に組み上がり、怪力な魔怪獣を踏みつけにした。
やがて胴体、肩、頭部と合体し、その全貌が明らかとなる。
機械でできた、筋骨隆々の屈強なボディ。
まるで巨大なタワーシールドを取り付けたような、攻撃的な手足。
天を貫く塔を思わせる頭部。
無数の生徒とタフボーイによって作られた、巨神が降臨した。
「こ、このロボットは!? お前は一体!?」
ギャルが巨神の頭部へ入り込む……直前に、こちらを振り向いた。
『我が名は『ギャラルホルン』、バベルの守護者なり。そして――』
最後のパーツが入った時、巨神の目に光が灯る。
そして、踏みつけにしていた魔怪獣を一瞬で引き裂くと、大地を揺るがす雄叫びを上げた。
『我ガ名ハ『魔皇我』!!! 遍ク魔ヲ統ベル『鬼』デアル!!!』
巨神……マオーガは、単身魔怪獣の群れへと躍りかかった。
数多の魔怪獣が爪を、牙を、魔法を突き立てるが、まるで堪えた様子は無い。
逆に増え続ける魔怪獣を粉砕し、俺達に近づくのを食い止めているのだ。
「強いわね……さ、アタシ達も行きましょ」
「そうだな……オラァ! 邪魔だクソゴミ共!!!」
元々シャークウェポンやバト筋の周りにいた魔怪獣を処理し、屈強過ぎて安定感しか感じないバト筋に乗る。
「ハイヨー、バトルマスキュラー!!!」
『ヒヒィィィィンッッッ!!!』
力強い蹄の音を立て、バト筋が空を駆ける。
目指すはイギリス。最短距離でかっ飛ばす!




