第56話 逆転
「まずは雲を呼び寄せてやる。シャークトルネード!!!」
シャークウェポンが大口を開け、竜巻を放つ。
すると風向きが変わり、空に暗雲が立ち込めた。
「こんな使い方もあるのねぇ」
「風のちょっとした応用だ」
これで太陽光を吸収される心配はない。
ロンズデーライトゴーレムの方を見ると、アンドロマリウスが上に乗っており、槍で小突いたりしていた。
「あんまり効果はなさそうだな」
傷一つついていない。
しかし、顔辺りを攻撃されると、鬱陶しそうに顔を払いのける動作をしていた。
恐らく、鬱陶しいなどの感情ではなく、目やセンサーの機能がそこにあるのかもしれない。
「よーし、ロケットブースター改め、ストロンゲストミサイル……の下に隠されたこの推進機があるからな。今日は空が飛び放題だ」
「そんなのついてたの? いつの間に」
「俺はお前と違ってシャークウェポンの研究を惜しまないからな。いつもシャークウェポンに乗ってるんだよ」
「ちょっと、アンタそれって……アタシが天才だから努力は無い……ってコト!?」
「嫌味か、貴様ッッッ」
アルルカンの才能は認めよう。だが、血と殺戮を好む性格破綻者だ。
そんな風に言い合いながら、空を飛ぶ。ゴーレムが拳を振るうが、こっちのほうが速いのでかすりもしない。
「何か拍子抜けね? あのパンチも打ってこないし」
「そうだなぁ」
恐ろしい風圧だが、バランスを失うという程でもない。
あのパンチはコケ脅しの演出だったとでもいうのだろうか。
「よし、ビーム系の武装……はちょっと怖いので、取りあえずミサイルを試してみよう」
「アンタにしては賢明な判断ね」
俺はどこかのレバーを引く。すると、背中のストロンゲストミサイルが発射され、着弾。
爆炎と無数の破片が飛び散った後には、黒焦げのゴーレムがいた。
「おっ、効いてるぞ!!」
「ミサイルは有効みたいね!!」
光明を見つけた俺達は、とにかくミサイルを撃ちまくった。
それを見たキズナは、メカトパスに乗って離脱していた。巻き込まれちゃダメだもんな。
「はは、全身真っ黒だな」
「あれじゃあ吸収もできなさそうね」
露骨に動きも鈍ってきたようだ。
超魔獣と恐れられているようだが……その中でも弱い部類だったのだろうか。だとしたら、強い奴は……
「まあいいか。シャークウェポン、出力最大! このまま突っ込んでバラバラにしてやるぜ」
「ロンズデーライトゴーレムに体当りを放てッ!!!」
シャークウェポンが光に包まれる。
その姿はさながらシャインスパークのようで、一段と力強さが漲っていた。
「楽しみね!?」
「ああ! さあ行こ――」
俺達の目に飛び込んだのは、黒く変色したゴーレムの頭部などではなく……超高速で迫る、黄金に輝く拳だった。
◇
キズナは、その瞬間を目撃した。
鈍い動きだったはずのゴーレムが、とてつもない速度でシャークウェポンを迎撃する様を。
真正面から拳を受けたシャークウェポンは、全身を拉げながら墜落。
無慈悲に追撃を加えるゴーレムの拳からは、殴打の度に眩い閃光が放たれていた。
「何てこった! シャークウェポンがぺしゃんこに!?」
あの頑丈なシャークウェポンが、見るも無残な姿になっている。
辛うじて原型はとどめているものの、戦闘どころか、動かすことすらままならないことは明白だった。
恐らくは、中の先輩2人も無事ではない。
サメになることで驚異の身体能力を手に入れた虎鮫と、元から高水準の強さを持つアルルカン。
そんな2人でも、あの威力を受け続けては、無事では済まないだろう。
助けたいが、アンドロマリウスの装備では相性が悪いどころではない。
全身余すところなく硬いロンズデーライトゴーレムに効く武装が無いのだ。
ビーム兵器はあるが、吸収されてシャークウェポンと同じ末路をたどるかもしれない。
「だが、引き離すことくらいはできる!!!」
キズナの意志に沿って、AI操作のメカトパスが動き出した。
その8本のメカ・フットが、ゴーレムの頭部に絡みついた。
「トキシックビーム逆噴射!!!」
そして、メカトパスの上に乗るアンドロマリウスが、虚空に向かってビームを放つ。
逆噴射による推力によって、全身が『超メタル・サイバー・マッスル』で作られ、反重力装置まで組み込まれたメカトパスが更なる怪力を得た。
何とか大破したシャークウェポンからゴーレムを引き離すことに成功したのだ。
「狙うならこっちにしろってな!!!」
ターゲットをキズナへと変えたゴーレム。
黒く変色した場所は、いつしか透き通る黄金に戻り、鈍い動きで剛腕を振り回す。
そして、残った黒焦げ部分が超エネルギーの衝撃波と化し、町を破壊し尽くした。
「当たるかってんだ!!!」
しかし、メカトパスUFO形態の機動力は目を見張るものがある。
例え上にアンドロマリウスを乗せていたとしても、元々シャークウェポンを乗せることを想定した作りなので、何も問題はない。
空を縦横無尽に飛び回るメカトパスには、ゆっくりとした動きのゴーレムの攻撃は、一撃たりとも当たらなかった。
だからこそ、感情の無いはずのゴーレムも、ついにしびれを切らしたのだ。
「ヤッベあの構えは……!!!」
その構えは、つい先程、町に巨大なクレーターを作り出したものだった。
焦げた部分は、恐らくエネルギーを蓄積した場所。そのエネルギーを消費し、再びあの爆発を引き起こそうというのだろう。
「しくじったな! せめて一泡……お!?」
いよいよ破壊の光が臨界点に達したその瞬間だった。
ダイヤモンドよりも硬いその胴体が、真っ二つに砕けた。
『オオオオォォォォ……』
ロンズデーライトゴーレムが、初めてうめき声のような、空洞を通る風の音のようなものを発する。
半分に分かたれた500メートルもの巨体が、地面に倒れ伏す……その前に。まるで逆再生のように修復され、元通りになった。
「自己修復まですんのか!? それに、あのシャークウェポンは……」
シャークウェポンだった。だが、キズナの知っているそれではない。
拉げて歪んだ装甲の隙間からは、極彩色のエネルギーが噴き出ていた。
右脚は骨組みだけになり、コックピットがあるはずの頭部は吹き抜け状態。
半分が砕けたとしても、以前にも増して凶暴性を隠しもせず、目につくもの全てを喰らわんとするサメの顔。
その姿はまさに海の覇者、サメであった。
「とんでもねぇ力だ……あの金ピカゴーレムよりも!!!」
キズナは感じ取った。
この虫の息ともいうべきシャークウェポンが、破壊の限りを尽くしたゴーレムより、はるか高みの次元に存在することを。
『GHOOOOAAAAAAAA!!!』
怒り狂うシャークウェポンが、牙を剥く!!!




