第54話 魔怪獣を超えた魔怪獣『オーバー・ダイヤモンド』
「また魔怪獣かよ、性懲りもなく一々戦力の逐次投入しやがってよ」
「何匹来ても無駄だってのにねー」
俺とアルルカンは、シャークウェポンに乗っていた。
『今回の魔力反応は大物じゃ、気をつけろ!!!』
「それってダルガングより?」
『ダルガングの魔力はほぼ無かった。じゃが、今までの魔怪獣とは一線を画す存在であることは間違いない!!!』
そういや、ダルガングは魔法を使わなかったな。隕鉄号もだが。
まあ、実際に戦ってみれば分かるか。もう魔怪獣が出てきそうな感じだし。
「何かデカくない?」
「あ、ああ、そうだな……」
魔怪獣が出現する直前である光の粒子が、とんでもない大きさだった。
シャークウェポンが約50メートルだとすると、粒子は500メートルくらいはある。
マジック・モンスめ、どんな化け物を送って来やがった。
そして、そいつはついに姿を現した!
「金色の水晶でできたゴーレム?」
現れたのは、500メートル以上もある黄金の水晶っぽい何かでできたゴーレムだった。
更に、その周りには無色透明に輝く50メートル級のゴーレムが無数に待機していた。奴らは、例外なく宝飾品のようにカットされているような見た目だった。
「水晶か? あれ。水晶の輝きかな……」
「あれは……ダイヤモンドよッッッ!!!」
「ええええぇぇぇぇ総ダイヤモンド製品」
あのゴーレム達は水晶ではなく、ダイヤモンドだったらしい。確かに、よく見るとダイヤモンドっぽい。
じゃあ、あのデカい金色の奴は……?
「あのデカブツは……ロンズデーライトよ」
「えぇ……」
ロンズデーライト。
それは、ダイヤモンドよりも硬いとされる物質だ。ウィキ見た感じだと、1.5倍くらい硬いのか? よく分かんね。
そんなのが500メートルもあるってことは、並大抵の攻撃では倒せないだろう。
「見るからに硬そうだな。どうする?」
「いつも通り叩き割ったらいいわ……何て言いたいとこだけど。まずは周りから潰すことね。ああ、もったいない!」
「欠片でも1000カラット以上ありそうだから大丈夫だろ」
「そうね!!! 後で全部拾いましょ!!!」
◇
「まずは掃除といきますか」
俺は初手に選んだのは、ジョーズミサイルだった。
全身からミサイルポッドが展開され、ガチガチと牙を打ち鳴らすサメ型のミサイルが、無数に発射された。
ダイヤモンドゴーレムに命中したミサイルは爆炎を上げ、炭素でできた宝石であるダイヤを黒々と焼き尽くした。
その光景を見たアルルカンは、一瞬だけ固まった後、俺に掴みかかって来た。
瞳の中に一文字の横線が入ってるヤギみたいな気色悪い目が、俺を非難する。
「このお馬鹿!!! ダイヤモンドを燃やしてどうすんのよ!?」
「す、すまん。でも数は減ったぞ?」
「欠片も無く燃えてるなら世話ないわよ!!!」
「しかしねぇ……どうせ金なら持ってるんだから」
「金の問題じゃねぇんだよアホンダラぁ!!! 両手で抱えても足りない大きさのダイヤにどんだけの価値があると思ってやがる!!! 脳ミソまでサメんなったかぁ!?」
酷い言われようだな。半分は当たっている、耳が痛い。
アルルカンはダイヤモンドが欲しかったのだろう。その気持ちは十分に分かる。しかし、まだロンズデーライトが残ってるじゃないか。
「確かに俺の知能が劣化してきてるのは否定しないがな……今は奴を倒すことが先決だ。もう魔術師の結界も無いって話だから、ほら、報道ヘリが飛んでる。あんな奴らでもできるだけ守る義務があるんだよ俺達には」
「アンタ……いえ、アタシも言い過ぎたわ、ごめんなさい。でもアンタ、そんな殊勝な心掛けなんて持ってたの? アタシなら放っておくけど」
「一応最低限は持ってるんだなこれが」
あれやこれやと言い合いながらも、攻撃の手は緩まない。
拳で刃でミサイルでと攻め込む。しかし、ロンズデーライトのゴーレムには全く効いていない。
「硬ぇ……魔力か何かで硬度を底上げしてんのか?」
「そうらしいわね。今までの魔怪獣を足しても半分にも満たない程の魔力が渦巻いてるわ」
「えっ」
それはヤバいのでは?
俺がそう思った時だった。今まで棒立ちのまま微動だにしなかったゴーレムが、ついに動き出したのだ。
腰を深く落とし、正拳突きのような姿勢を取る。そして、右拳を曇り空に向かって突き出した。
「何やって……は?」
「あ?」
酷く緩慢な動きだった。
だが、それにもかかわらず、空を覆っていた雲は全て吹き飛び、輝く太陽が姿を現した。
その直後、パンチの衝撃であろう風が吹き荒れた。
「天候が……」
「変わっちまったぁ!?」
たった一発の拳で天候を変えるなど、今のシャークウェポンには不可能だ。
しかし、あのロンズデーライトの巨神はそれをやってのけた。
「いや、確かに凄いのは認めるけど、この行動の意味は……?」
「見なさい。あいつ、太陽光を吸収してるわ」
「太陽光?」
ゴーレムが、降り注ぐ太陽光を全身に吸収していた。
エネルギーでも溜めているのだろうか。しかし、黙ってみている俺達ではない。
「こうなったら直接殴り砕いてやるわ!」
「よし! 行け――」
いざ、シャークウェポンのパワーで粉々にしてやろうとしたその瞬間。
俺達の目の前を、触れる者全てを灼き尽くしてしまうと感じるほどの光が包み込んだ……
「眩しっ!? 何だ! 目が見えない!!!」
「落ち着きなさい!!! アンタは網膜が焼かれただけよ! 意識を集中して再生しなさい……」
「再生……? あ、できた」
急に目が見えるようになった。
幸い、俺にはサメとしての再生力が備わっていたので、再生できたのだろう。アルルカンは素で耐えたっぽいが。
そして、何が起こったのかと辺りを見回した。
「……あれ? 町は?」
「町がどうしたって……消えてるぅぅぅぅ!?」
俺は驚愕した。
何故なら、シャークウェポンから見える建造物が、ゴーレムを中心に消滅していたからだ。
少なくとも、半径10キロ弱は、クレーターのようになり消え去っていた。
「う、嘘だろ……こんな破壊力が許されていいのか!?」
「冗談でしょ!? 数秒太陽光を吸収しただけでこれだなんて……アンタ!!!」
「おう!!」
俺はジョーズミサイルを地面に放ち、土煙を巻き上げた。
その隙に、シャークウェポンよりもはるかにデカい脚に組み付いた。
「今だ! 行けー!!!」
「はぁぁぁぁッッッ!!!」
アルルカンが動くと、ゴーレムが爆発のような轟音を立てながら転んだ。
武術のちょっとした応用とのことで、いつの間にか合気道か何かをラーニングしていたアルルカンだからこそできることだった。
「転ばせたはいいが、どうするんだ?」
「ちょっと待ちなさい。通信が入ってるわ」
「通信?」
俺は、通信機をオンにした。
パイロットの集中を保つため、通信するかどうかはこっちにゆだねられている。
『苦戦しているようだな』
「ヴィクセント!」
通信相手は、『急所突き』の異名を持つマジック・モンスの戦士、ヴィクセントだった。
彼女なら、あの魔怪獣について何かを知っているかもしれない。
「あの魔怪獣は何なんだ?」
『奴は魔獣を超えた魔獣、超魔獣の1体! ロンズデーライトゴーレムだ!』
「そのまんまね」
アルルカンの通りだった。
比較的小さいゴーレム達は、さしづめダイヤモンドゴーレムと言ったところか。
『奴はわずかな光でも体内で反射、増幅し、純然たる破壊のエネルギーに変えてしまう』
「なるほど。土煙は正解だったわけね」
『その通りだ』
「でも、どうやって倒すんだ?」
硬い上に力も強い。武装抜きのスペックだけなら、シャークウェポンの上位互換みたいなものだろう。
『奴を破壊することは不可能だ』
「えっ」
「じゃあどうやって倒すんだよー!?」
ロンズデーライトってそんな理不尽な性能じゃねぇだろ絶対。
基本ダイヤモンドと同じで、強い衝撃で砕けたりしないのか。
『落ち着け。奴を倒す方法はただ1つだ』
「それは……?」
『うむ。奴の魔力を全て、一滴たりとも残さずに消し去ることだ』
「なるほど……?」
……どうやって?
『本間はそのための武装はついていると言っていたし、キズナもいるだろう』
「武装ねぇ……」
「やるしかないわね」
フロントガラスの外を見る。
そこでは、ゴーレムがゆっくりと起き上がっていた……が、同時にUFO形態のメカトパスに乗ったアンドロマリウスがやってくるところだった。
「やるか!!!」
「気合い入れてきましょ!!!」
俺達は仕切り直し、ゴーレムに向かった。




