第53話 神秘が露見した矢場谷園のいつも通りな滅茶苦茶ヤバい日常
「あらあらぁ~、何か凄いことになってるわねぇ」
「うーん。いきなり巨大ロボットが出てくるなんてなぁ」
俺は今、家で朝食を食べている。
隣には弟妹達、前には親父とお袋。どこにでもある、一家団欒だ。
そして、テレビでは、シャークウェポンなどに関する特番が流れている。
胡散臭い専門家や芸能人が好き勝手に喋っているのは、当事者からすると滑稽だった。
政府が極秘に作り出した兵器ってのは的を得ている。
実際は民間企業や組織が出資し、天才博士が作り上げた兵器なのだが。
しかし、流す映像がメイガス・ナイトをなぶり殺しにしている残虐ファイトシーンというのはどうにかならないだろうか。
いや、戦い方を知っている俺だからそう思うのであって、知らない人からすると普通に見えるのかもしれない。
「兄貴はどう思ってる?」
「ああ……そうなぁ……」
話しかけてきたのは、俺の妹で長女の『情鯱』。
中3という年の割には……いや、日本人の割にはかなり背が高い。190センチ以上か。
おまけに、祖父が運営する道場で古武術を習っており、しなやかかつ力強い筋肉がついている。
俺の周り、こんな人間ばっかだな。
俺より背が低い奴は数える程しかいない。取り立てて小さいってわけでもないのに。
ちなみに、他の弟妹も同じような背丈だ。俺が家族で一番小さいのだ。コンプレックスとかは特にないが。
「まあ、作った人はきっとガオ〇イガーでも見たんだろうよ」
「それだけ?」
「何も分からんし……」
知ってるけどそれを言うわけには絶対いかないのだ。
「おっともうこんな時間だ。今日は生徒会の仕事があるんだ、早く出ないと」
「いってらっしゃい」
「気を付けてなぁ」
「行ってきまーす」
気を付ける必要も無いのだが……まあ、これがいつも通りの日常だ。
◇
スーパーロボットの存在が露見したというのに、矢場谷園の人々は不気味なほどにいつも通りだった。
精々が、ロボットや魔怪獣について話しているだけである。そこまでの興味もなさそうだ。
しかし、そんな中で、目立つ者達もいた。明らかに矢場谷園民ではない。
カメラや中継車が多く見られる。他の街から来たマスコミだ。道行く人に取材をしている。
「例のロボットについて何かご存じありませんか?」
「さあ……ここは矢場谷園ですから、そんなこともあるんじゃないですかね?」
答えになってないんだが。矢場谷園を何だと思ってんだ。
こんな場所、何の変哲もないただの町……いや、猿の格好の殺人鬼集団やら魔術師、超能力者その他諸々が跋扈する治安カスの町だったわ。
最近は悪の組織、民間ブラック企業の要人などが次々と殺されており、毎日のように死人が出ている。最低10人くらい。これでもニュースで報道される範囲だ。
新聞ではモザイク加工もしてない死体の写真がドーンとでっかく載ってることもある。
警察も現行犯を見かけたら即射殺する。
射殺されないのは軽犯罪……万引きとかだ。それでも、その時の警官の気分次第で射殺されることもある。
なので刑務所も安心ではない。常にサディストの看守がいて、受刑者を甚振っているらしい。
……はーっ、治安クソ! ゴミ!
日本のゴッサムシティとは矢場谷園のことだ。
土地そのものが呪われてるんじゃないか。
よくこんな場所で生活できるな、頭おかしいんじゃないか。
……いや、おかしいのは世界も一緒か。まともなのは俺だけ……俺もまともじゃないわ。
まあ、治安が悪いのは矢場谷園の、矢倍高校などがある矢場区であり、三羽侘仁学園とかのある谷園区はすこぶる治安のいい場所なのだが。
『反対! ロボット反対!』
「ん?」
そんな、ちょっと騒がしいくらいの町に、一際目立つ者達がいた。
『ロボットを許すなー!』
『憲法違反だー!』
『ロボット反対!』
プラカードや横断幕を手にした団体が、道路を練り歩いていた。
矢場谷園人は全く興味なさそうでだったが、テレビ局はデモ隊の方にカメラを向けた。
「いやぁ朝から賑やかですねぇ」
「あ、猿会長」
矢倍高校の生徒会長である、猿渡猩奈が、いつの間にか俺の隣に立っていた。
見た目は清楚だが、中身は猿をこよなく愛する異常性愛者だ。肩には服を着たニホンザルを乗せている。
……このニホンザルは、猿会長の『恋人』であるともっぱらの噂である。
同じ生徒会で、知っている身からすれば真実なのだが。
「あれは?」
「ロボットに対する抗議団体らしいですよ。兵器が憲法にどうのこうのとか」
「あー、確かに思いっきりシャークウェポンだもんなぁ。まあどうでもいいけど」
露見した次の日にこんな大勢集まってくるの怖すぎだろ。
しかも猿会長によると、全員が矢場谷園外から来ている人々だそうだ。一文の得にもならないのによくやるよ。
『俺達は警察だァ!!! デモ隊は皆殺しだァ!!!』
『うああああああああ!!! 助けてくれええええええええ!!!』
「あ、鎮圧部隊だ」
「実際は警察の装備を奪い取った市民ですけどね」
「世紀末か?」
デモ隊は一瞬で偽機動隊に囲まれ、警棒やシールドでボコボコにされた。
しかし、それらを更に鎮圧すべくやってきた本物の警察に敗れ、偽機動隊は即座に全員射殺された。
『矢場谷園じゃ警察が絶対正義なんだよ死ねええええええええ!!!』
『ぎゃああああああああ!?』
「警察は優秀だなぁ」
血の海と化した道路を、まるで気にも留めずや歩行者が車が往来する。
それらに怯えるのは、生き残ったデモ隊と外から来たテレビ局だった。
「さて、もう行きましょう。生徒会の仕事が待ってますよ」
「うっス」
俺達は道路を後にし、学校へと向かった。
【矢場谷園】
・魔境。
矢場区と谷園区に分かれており、クソ治安なのは矢場区の方。
【矢場谷園警察】
・実は汚職は全くない。何故なら、汚職した瞬間に署長であろうが殺されるから。
勿論のことだが、特に犯罪者とかではない一般人は絶対に射殺しない。
【虎鮫】
・実は生徒会副会長。
しかし、他の委員会がめちゃくちゃ有能なので、生徒会の仕事はほとんどない。
【猿渡猩奈】
・矢倍高校の生徒会長。
よく猿と○。○○をする。




