第52話 縦横無尽蛇腹剣
キズナが蝶の相手を申し出たのは、巨大な魔怪獣を恐れたからではない。
キズナは熱血な男であるが、冷静な判断力を持ち合わせている。故に、小さな魔怪獣は、小回りの利くアンドロマリウスの方が向いていると判断したからである。
『モルフォオオオオォォォォ……』
「はぁッ!!!」
巨大な蝶が、鞭のようなもので両断された。
これこそ、アンドロマリウスの持つ毒蛇の槍『フェルドランス』に代わる武装、蛇腹剣『ヴァイパー』である。
まるで蛇の形をしたそれは、剣の状態ではフランベルジュのように見える。
しかし、切り離せば、蛇の頭部を模した剣先も相まって、獲物を求め暴れ回る凶悪な毒蛇と化すのだ。
『フォオオオオ』
「蝶々は逃げたか……後回しだな!!!」
『キョイッ! キョイッ!』
『ヂュゥゥゥゥ!!!』
キズナは優先順位を間違えない。
1匹に気を取られていては、他の魔怪獣の餌食となるからだ。
武器をフェルドランスに持ち替えたキズナは、襲い来る魔怪獣を迎撃した。
『キョイィィィィッ!!!』
「遅いぜッ!!!」
『キョッ!?』
『ヂュッ!?』
低空姿勢で迫る、巨大なイモリの頭を踏み砕きながらジャンプし、巨大なヌートリアを串刺しにした。
しかし、その後ろからも、群れと化した魔怪獣達が迫る。
『ドッドッドッド!!!』
「ヤドカリかぁ!? イカした家持ってんじゃねぇか!!!」
文字通り、『宿』そのものを背負ったヤドカリ。
その見た目に反して、機敏な動きでアンドロマリウスを狙う。
「はっはぁ!!! こっちだぜ!!!」
『ドッドッドッド!?』
ヤドカリが恐ろしい速度でジャンプした隙を狙い、『宿』の隙間から弱点と思わしき部分を突き刺した。
予想外の攻撃を弱点に受けたヤドカリは、即死した。
『ザリザリザリ!!!』
『シュリィィィィ!!!』
『ヂュウウウウ!!!』
『シュッ! シュッ!!』
「いつになく多いなぁ!!!」
沼地に住む、巨大な甲殻類や哺乳類、両生類の群れが、絶え間なくアンドロマリウスに向かう。
元々凶暴極まりない魔怪獣が、知らない場所に連れてこられたのだ。ならば、天敵同士で手を組み、目先の敵を殺そうとすることは何も間違いではない。
奴を殺せば、後はお互いで殺し合う。ただ、それだけだ。
しかし……アンドロマリウスには、それらを跳ね除ける性能と、それを最大限に引き出すパイロットが存在した。
「トキシックビーム……ありゃ?」
『ヂュッ!!!』
「出ねぇなら仕方ねぇか!!!」
キズナは、背中の赤いマントを掴む。
そして、身体ごと回転させるように引っ張った。
「クローク・オブ・デスクリムゾン!!!」
『ギュエッッッ――』
ナノマシンの効果により、ただでさえ硬い超合金繊維で編み込まれたマントがさらに硬度を増した。刃と化したマントが、襲い来る魔怪獣を、触れた瞬間に両断する。
飛びかかってきた魔怪獣は、己が死んだことにも気づかず、地に落ちた。
「イカしたマントだぜ。後はあの蝶……トキシックビーム!!! ……出ねぇか。よし! 切り替えてこう!!!」
先程、試しても出なかったトキシックビームは、やはり出なかった。
だが、驚異の切り替えの早さにより、キズナは別の手段を使うことにした。
『ブゥゥゥゥン……』
「! この音……トンボか!?」
だがその時。キズナが異音を聞き取る。
それは、巨大なトンボの羽ばたきだった。
「おっ!? 危ねぇ!!!」
文字通り、目にも留まらぬ速さで飛来する複数のトンボを、キズナは避けた。
その直後、キズナを見えない衝撃波が襲った。音速にまで達したトンボが引き起こした、ソニックブームである。
『ブゥゥゥゥン……』
「おお! 群れで来たか! それなら!!!」
キズナはフェルドランスを手放し、ヴァイパーに持ち替える。
そして、刃を切り離し、鞭状の形態へと変化させた。
「お前らが突っ込んでくるってことは、鴨がネギごとやってくるようなモンだぜぇ!!!」
アンドロマリウスが天高く跳び、空中で回転する。すると、巨大なトンボたちが、一瞬でバラバラになった。
ヴァイパーを新体操のリボンのごとく、アンドロマリウスの周りで回すことで、トンボを全て斬り裂いたのである。
さらに、そのトンボ達の鋭利な残骸が飛び散り、高みの見物をする蝶を巻き込んだ。
不意打ちを食らった蝶は膾切りにされ、地に落ちた。
見事な着地を決めたアンドロマリウス。
周りに動く者がいないか残心を忘れない。キズナは、念入りに死体確認を済ませた。
「……よし!!! オレんとこは終わったぜ! 先輩達は……」
キズナがシャークウェポンの方を見ると、最後に残ったメイガス・ナイトを、無惨に破壊しているところだった。
「終わったみてぇだな……お?」
帰ろうとしたキズナは、あることに気づいた。
それは、空を飛ぶヘリコプターだった。そして、それが軍用ではなく、民間の報道ヘリであることも分かった。
キズナの視力は3.0。はるか遠くもお見通しなのだ。
「こいつは面白くなってきたぜ!!! 帰ったら早速、皆と作戦会議だ!!!」
世界を揺るがす、歴史の転換点においてもこの感想。
キズナは陽気で熱い男なのだ。
【メカトパス】
・シャークウェポンの支援メカ。
見た目はアダムスキー型の赤いUFOである。
全身に『超メタル・サイバー・マッスル』が使用されており、反重力装置によって飛行する。
シャークウェポンと合体することで、【オクトパスモード】へと移行し、更なる戦闘力を得る。
一応、アンドロマリウスとの連携なども想定されているようで……
【スキルキラー・バタフライ】体型:蝶 身長:10メートル 分類:昆虫類
・魔法や異能力の効果を消し去ってしまう、悪夢の蝶々。
魔法の強さが尊ばれるマジック・モンスにおいて、忌み嫌われる存在である。
その鱗粉は科学の産物である光学兵器すら無効化し、徹底的な肉弾戦を相手に強いる。
他の魔獣への優位性を確保するための進化であるとされるが、一説には魔王が生み出した人工生命体であるなどという、トンデモ説がある。
『綺麗な花には毒があるように、綺麗な蝶も危険な存在なんだ』
『その理屈はおかしくないっスか?』
【ザリザリ】体型:ザリガニ 身長:30メートル 分類:甲殻類
・巨大なザリガニ。
環境の破壊者としても有名で、1匹放てば生態系が滅茶苦茶になる。その理由は、1匹であろうとも繁殖でき、爆発的に増えるからである。
ただし、より強大な魔獣にとってはおやつのようなものだ。
『 “ザリザリ”。1匹放てば、生態系を消し飛ばすと聞く……』
『ちゃんと処理して食ったら美味しいんですから』
【イモリン】体型:四足歩行 身長:25メートル 分類:両生類
・巨大なイモリ。
わずかに毒を持っていて、誤って触れると苦しむことになる。
再生力が高いので、炎の魔法で傷口を焼きながら倒すのがセオリー。
『川などで遊んでたら気づかずに……何てことがあるんだなこれが』
『強い魔導士なら倒せるんですけどね』
【スーメソマ】体型:四足歩行 身長:15メートル 分類:哺乳類
・巨大なヌートリア。
繁殖力の強いネズミで、すぐに増える。
農場を荒らしまわったりするので、人々の間の認識は害獣。
しかし、昔は質の高い毛皮が取れると評判で、人々からありがたがられていた。
『昔はありがたかったんだがなぁ……』
『何事も程々にってことっスね』
【宿狩り】体型:ヤドカリ 身長:20メートル 分類:
・巨大なヤドカリ……なのだが、建物らしきものを背負っている。
人間の建造物を見ると執拗に攻撃する習性を持つが、何故なのかは解明されていない。
昔はよく、村や旅の宿屋が破壊される被害が多発していたので、『宿狩り』と呼ばれるようになった。
『昔は大迷惑だったんだがなぁ……』
『マジック・モンスよりはるか前は、いくつ村が滅んだか分からないとか』
【ミドリサギ】体型:鳥 身長:35メートル 分類:鳥類
・巨大な緑色のサギ。
その色は、沼地や森に擬態するためであるとされる。
しかし、それ以上のステルス迷彩能力を持ち、気配を消して獲物を仕留める。
『見つけるのに苦労したよ』
『探知魔法をかいくぐるのはヤバくないっスか?』
※出す予定がミスって描写し忘れたので透明のまま死んだことになりました
【ドラゴニューロ】体型:トンボ 身長:15メートル 分類:昆虫類
・巨大なトンボ。
とても早く、マッハで空を飛び回る。
翅はとてつもなく頑丈で、それそのものが巨大な刃である。
集団で獲物を切断し、斬り飛ばされた部位をキャッチして食べる。
『前に、コイツらに襲われた大型魔獣の、無惨な死体を見たよ』
『肉が切り取られて、内臓が……うああああ思い出したくない』




