第49話 半壊!!! 矢倍高校!!!
矢倍高校の、休み時間。
俺は何をするでもなく、ただボーっとしていた。
頭の包帯はいまだ取れず。
何故なら、まだ殴打男にやられた傷は完治していない……どころか、開きっぱなしなのだ。
数週間と経っているのに、である。おかげで、そろそろ家族にも誤魔化しが効かなくなってきた。
「ねえアンタ」
「何だ?」
話しかけてきたのは、アルルカン。
俺がシャークウェポンに乗ってなければ、話すことは無かっただろう高嶺の花だ。まあ、悪の華でもあるが。
「嫌な予感がするわ」
「マジか」
「この場所から離れた方が――」
ブルルルル……
すると、俺のスマホが鳴った。本間博士からだ。
急いで電話に出る。
「はい、もしも――」
『今すぐそこから離れろおおおお!!!』
本間博士の絶叫じみた声が響くと同時に、俺は服を掴まれて引っ張られた。
それはアルルカンの仕業だったが、かなり焦ったような顔をしていた。
「何が……」
「窓の外!!!」
窓の外を見た。
そこには、長距離からこちらに巨大な砲身を向ける多数のメイガス・ナイトらしきロボットが、今まさに火を吹いて――
「あっ」
アハトアハトすらも超えるほどの巨大な弾が窓に近づいた瞬間、俺の前に誰かが庇うように立ちふさがる。
「ギャル……」
ドワァァァァ!!!
轟音とともに、教室が破壊される。さらに、衝撃で矢倍高校全体が揺れた。
無数こ瓦礫が俺にも飛んでくるが、庇われた俺は無事だった。
そしてその瞬間、警報と放送が響きわたる。
『全校生徒に告ぐ。マジック・モンスの攻撃で北校舎2階から3階の一部が破壊された。緊急事態につき、厳戒態勢を取れ』
その放送を受け、部屋にいた生徒は素早く作業や移動を始めた。
怒号と足音で騒がしいことこの上ないが、彼らは的確に自分のできること、やるべきことをしている。
そんな彼らに目を向けることはなく、俺は1人の生徒にすがりついていた。
「おいっ、ギャルッ!!! 大丈夫か……!?」
金髪をポニーテールにした、ギャルっぽい生徒。
皆からは、『ギャル』と呼ばれていた生徒だ。何でもそつなくこなすので、皆から頼りにされていた存在だった。
ただ、一度も喋った、言葉を発したことが無いので、その声を聞いた者はいない。失語症などではないとのことだが。
そんな彼女の状態は、酷いものだった。
下半身は潰れ、片目を失い、片腕はちぎれ飛んでいる。さらに、全身大火傷ときた。
運よく生き延びたとして、後遺症どころの話ではない怪我だった。
「ぎ、ギャル……」
「やめなさい! ……助かる怪我じゃない。後は救護班に任せるのよ。アタシ達ができることは無いわ」
「あ、ああ……ありがとう、ギャル……」
怒号とともに、救護班が担架や機材を持って走って来た。
俺達にできることはない。せいぜいが、無事を祈る程度だろう。
「ん!? ……な、何だ?」
アルルカンと一緒に、シャークウェポンに乗るべく外に出ようとした時。誰かに服を掴まれた。
振り向くと、満身創痍で虫の息のギャルが、残った腕で俺の服を掴んでいた。
「どうした!?」
『手を』
「!?」
何だこれは、頭の中に声が響く。
まさか、ギャルの声だとでもいうのか?
俺は、訳も分からないままに、差し出されたギャルの手を握る。
『狂えるサメの勇者、数多なる巨獣の命令者よ。機会は今しかない。貴公にこれを託そう……』
「な、何だ――」
いきなり脳裏を駆け巡る、謎の古代文字のようなものや、無数のプログラミング言語らしきもの、そして0と1の羅列。
読めないはずなのに、分からないはずなのに、何故か理解できる。
「こ、これは一体!?」
『かつてバベルより失われし、究極の言語。いかなる時も、変わらぬままに世界中の人々を繋いだ……その名は統一言語』
「統一言語……!?」
かつてバベルの塔が崩壊した時、共通の言語は失われた。
だが、その言語を秘密裏に受け継ぎ、存続させる組織があった。
その名は『BABEL』。
バベルの塔崩壊から今現在まで統一言語を守り抜いてきた組織。
そして、本間博士のスポンサーの1つだった。
いやしかし、機会は今しかないとか言われても、俺視点からするとどう考えてもこのタイミングで渡すものではない。
もっと、こう……シチュエーションとかあるだろう!?
「何でギャルがそんなものを」
『まだその時ではない……『待て、しかして希望せよ』……』
ギャルの腕が力無く垂れた。
力尽きたのだろう……
「サメよ、ギャルは俺達が運ぶ。お前はシャークウェポンに乗れ!」
「あ、ああ……」
「どうしたのよ?」
「いや……何でもない。後でギャルに聞いてくれ……生きてたら」
ギャルのセリフ『待て、しかして希望せよ』は、巌窟王のものだった。これは、自分の復活を待てとかそういう意味なのだろうか?
積み重なる疑問に困惑しつつも、待っているだろうシャークウェポンへと走った。




