第48話 エビ大金星
『キューイッッッ!!!』
『ギョオオオオォォォォ!!!』
「ダオラァァァァンッッッ!!!」
元ミナミヌマエビであるダオランと、羽の生えたウツボの戦いは熾烈を極めた。
『ギョオオオオ!!』
『キュイッ!!! キュイッ!!!』
しかし、確かに熾烈なのだが、それはウツボの方だけのように見えた。
ダオランは荒々しく噛みつくウツボを見切り、不必要には近づかない。それどころか、避けた隙に、ハサミで目などの弱点を攻撃していた。
また、避けられない攻撃に対しては、自分を包み込む殻を上手く使用し、ダメージを最小限に抑えているようだ。
……こいつは本当にミナミヌマエビなのか?
妙に戦い慣れてるというか、戦い方が堅実すぎるというか。
そうやって戦いを見ていると、アンドロマリウスがやってきた。
今日は、シャークウェポンはお休みだ。サウナのダメージが思ったよりも深かったらしい。
これがサウナ・ショックか。
『先輩!!! あのエビは何だ!?』
「あいつは俺の飼ってたエビが巨大化した奴だ!! 殺さないでくれ!!!」
『よし分かったぜ!!!』
キズナは、威勢よくウツボに立ち向かっていった。
ダオランとウツボ、どちらもアンドロマリウスよりはるかに大きいのだが、それくらいの差なら簡単に覆すのがキズナだ。
一飛びでウツボの上に着地したキズナは、毒蛇の槍『フェルドランス』にて、その体表面を何度も突き刺した。
『ギョアアアアァァァァ!?』
『おおっと!』
『キューイ!!!』
『サンキュー!!』
痛みで暴れるウツボを、ダオランが抑える。
――ここでとてつもなくいやらしいのが、フェルドランスにからにじみ出る毒である。
この『毒』は、ゾウでも一滴足らずで死に至らしめる、凶悪な致死毒である。
だが、身体が大きい魔怪獣には、全身に毒が回らず決定打にならないことが多い。
なので、この毒と合わせて、耐えがたい激痛を与える毒を送り込む。
そうすることで、魔怪獣が痛みで暴れるほどに、血液とともに毒が回り……死に至る。
なお、外気に触れるとすぐに無毒化するので、事後処理は安全である。
つまり、何がいいたいのかというと。
致死毒を注入され、ダオランという盾を貫けないウツボは、詰みなのだ。
『ギ、ギョオオオオ……』
ウツボは力を失い、地面に落ちた。
しばらくはうねっていたのだが、やがて動かなくなった。
「うおおおお!!! ダオラァァァァン!!! キズナァァァァ!!!」
『キュゥゥゥゥイ!!!』
『うおおおおおおおおッッッ!!!』
俺は息と声が続く限り、1人と1匹を称えた。
それに合わせるかのように、雄叫びと勝鬨が上がったのだった。
◇
「これはこれは……興味深いですねぇ」
「うむ。まさかこの放射線がここまでの効果とは……」
キズナとともにウツボを仕留めたダオランは、何と、元のサイズに戻った。
取りあえず仮のボトルに入れていると、そこに本間博士と牧島嶺緒がやってきた。
「サメ先輩、エビに急速回復装置を使ったというのは本当ですか?」
「ああ……腕が取れてたんだ。もう5年以上飼ってる奴なんだ、つい……」
「5年? ミナミヌマエビが? ……まあいい。虎鮫よ、しばらくはそのエビ――」
「ダオランです」
「ダオランは預からせてもらうが、良いか?」
「いいですけど……本間博士に限ってないとは思いますが、殺したりしたら許しませんよ」
「安心せい。細心の注意は払う」
ダオランをボトルごと手渡した。
別に俺も、本間博士や嶺緒がヘマをするとは思ってない。
色々と便宜を図ってもらってるし、危険人物であること以外はいい人だ。
俺が大怪我を負うことに対して、俺の家族へ直接出向いて説明してくれたこともある。
シャークウェポンのパイロットとしての訓練だって、強制されないどころか、そもそも無い。本当に自由だ。
そんな博士だからこそ、俺は信頼している。
まあ、魔怪獣であるバトルマスキュラーや、液体金属の怪獣でさえ生きているんだ。心配はないだろう。
「おお、そうじゃった。シャークウェポンの修理が完了したぞ」
「本当ですか!?」
「ああ、サウナもある」
「え、マジでつけてくれたんですか?」
「おまけみたいなものじゃよ。コックピットは無駄に広いでな」
無駄に広いからってサウナをつけていいわけではない。
これが普通のロボットだと、電気系統が一発でアウトだろう。しかし、シャークウェポンは何から何まで全部が防水。
理論上はフロントガラスを開けっ放しにしながら海の中で戦える。というか、俺ならできる。サメだから。
「私は急速回復装置を量産しましょうか。それとも、ワンオフで大きいのを作りましょうか」
「人員は回す、どっちもじゃ」
「フフフ……楽しみですねぇ」
研究者同士、気が合うようだ。
そんな博士達と別れ、俺は家に帰った。
【ダオラン】体型:エビ 身長:50メートル 分類:節足動物
・虎鮫の飼っているミナミヌマエビ。
急速回復装置から発生する特殊な放射線を浴び、巨大化した。小さくなったり大きくなったりできるようになった。
これといった特殊能力は無いが、とにかくタフで力強い。また、頭もよく堅実な戦いをする。
元がミナミヌマエビとは思えない、どのような状況でも対応できるオールラウンダー。
『お、俺のアクアリウムボトルが……』
『……ドンマイ』
【スカイ・ギャング】体型:魚・飛行 身長:60メートル 分類:魚類
・海のギャングであるウツボが空に進出した存在。
竜種であるワームの血を、わずかであるが引いているとされ、戦闘力自体は脅威。
一部を除いた甲殻類系魔獣の天敵で、よく水辺に現れては捕食している姿が目撃されている。
『獲ったどー!!』
『てててんてーんてんてん』




