第46話 蒸し風呂兵器サウナウェポン
シャークウェポンの中。
エンジンの熱を放出し、怪獣と根比べすることになったのだが……
「熱……」
「これに耐えなきゃなんないの……?」
早くも俺達は負けそうだった。
「まさか、こんなに熱くなるとは……」
誤算だった。まさか、熱がシャークウェポンの装甲を貫通してくるなんて……!
いまだ修理されていない部分に、断熱材が含まれていたらしい。
完全に壊れていたのではなく、ある程度の熱が入って来るだけという壊れ方。
それも、耐えられない熱ではない。蒸し暑い、かなり熱い風呂みたいな感じだ。
「操作を……アッツ!?」
コックピットの操作盤は、言うまでもなく金属でできている。
だからか、レバーなどが熱を持って大変なことになってる。まともな操作なんてできやしない。
アルルカンも、DCSを外していた。
「熱い……」
「アンタ、何脱いでんのよ……そうね、流石に上着だけよね常識的に考えて。アタシもそうしよ……」
「クソ、俺が馬鹿だった……」
「他に何か使える武器とかあるの?」
「無い。よりによって、有効そうなのは全部壊れてる」
「じゃあ、この判断は間違いではなかったんじゃない? 熱いってことを除けば」
「そうかな……そうかも……」
「ま、アタシならもっと上手くやったけどね」
やること、やれることが無いので、ひたすら駄弁る。
……そういえば、アルルカンって超能力だか魔術だか使えたよな?
「おい、水出してくれ……」
「何よ藪から棒に……」
「お前、超能力者なんだろ? くれよ……」
「アタシはサイコキネシスとかそっち専門よ……魔術があったわね。使わないから忘れてたけど……」
「くれよ……」
「わーったわよ……ふんっ」
アルルカンが、掌から水を生成した。
コップ1杯分にも満たない量を。
「少なない? こんなんじゃ満足できない……」
「あー! そんなこという奴にはあげませーん」
「水が操作盤に……アッアー!?」
生成されたわずかな水が、全て操作盤へとかかってしまった。いくら防水性は抜群とはいえ……
水のかかった操作盤からは、ジュワッと水蒸気が上がった。
「いくら防水設計とはいえお前……」
「水没したってへっちゃらなんでしょ? じゃあいくらでもかけてやるわよ」
連続で水を生成し、投げる。
相変わらず、一度に生成される量は少なかった。
「おいっ、水蒸気でコックピットが凄い湿度に……!?」
この時、俺に電流が走った。天啓を得たと言っても過言ではない。
……実際には、熱さで頭が沸いただけなのだが。
「これは……」
「どうしたのよ?」
「今この状況、何かに似てるとは思わないか?」
「何かって何よ」
「蒸し暑い密閉空間に、高い湿度。ほら、頭のいいお前なら分かるだろ」
「……サウナ?」
「そうだ、サウナだ!」
「だからどうしたってのよ」
「ほら、そうやって操作盤でロウリュしてんだ、もうサウナだろ」
「アンタ、気でも狂ったのかしら……?」
「もっとロウリュしてくれ……あ、お前がよければ、だけど」
「サウナ好きなのアンタ? まあいいけど……」
ジュワッと音を立てる操作盤。
防水性のゴリ押しみたいなものなので、他のロボットではこうはいかない。一発で潰れる。
しかし、ここまでくると、熱波師が欲しいな……
あ、ちょうど、備え付きの扇風機があった。例によって本間博士作の、高性能な奴。
温度も風速も自由に変えられる優れものだ。これを熱波師代わりにしよう。
「熱波師、ゴー!!!」
扇風機のスイッチを入れる。
すると、湿度を伴った熱風が、俺を襲った。
間違いない。熱波だ。
「ああああぁぁぁぁ……」
「ねぇ、気持ちよさそうなところ悪いけど……外気浴はともかく、水風呂は無いわよ?」
「……」
アルルカンの言葉で、頭の中が一気に冷えた。正直、どんな水風呂よりも冷たい言葉だった。
何やってんだろ俺……
◇
「うわ、怪獣が凄い赤熱してる」
「しかも何かプルプルしてるし」
フロントガラスの向こうには、赤くなった怪獣が。恐らくだが、我慢の限界なのではないだろうか。
そうしていると、怪獣が動き始め、シャークウェポンの拘束を解いた。
「やった! 離れていくわ」
赤熱したまま、元の形をとる。
しかし、熱のせいでドロドロとしており、形をうまく保てないようだ。
「今の内に追い打ちよ!!!」
「何かあるかな……これだ!」
俺は、ある武装のボタンを押した。
「金属疲労に弱そうだな、海水スプリンクラー!!!」
かつてメイガス・ナイト4体と戦った時に使ったやつだ。
へばりついた油すら取れる勢いなので、熱した金属には効くかもしれない。
『ギャアアアア!?』
「思いの外効いてるな……」
「お、ひび割れてきたわ」
冷たい水によって急速に冷却された怪獣は、徐々に動きが鈍った。
「今ならいけるわ。ふんっ」
アルルカンが、怪獣を殴る。
すると、怪獣は砕け散り、バラバラになった。
「よし、倒したか……ん?」
怪獣の金属片を見ていると、まだ動くものがあった。
それは、かなり小さくなった怪獣だった。
「まだ生きてる? めっちゃ小さいけど」
「あらあら、可愛くなったわねぇ」
ジタバタと抵抗する怪獣をつまみ上げる。
大きさは、2メートル前後だろうか。人間サイズだ。
「しかし、地球産っぽいし、殺すのも惜しいなぁ」
「じゃあ大人しくさせましょうか?」
「できるのか?」
「まあ見てなさい」
アルルカンがシャークウェポンを操作する。
それは、吠えるための機能だった。
『GHOAAAAAAAA!!!』
『!?』
低い、ロボットのものとは思えない大声。
シャークウェポンの咆哮を受けた怪獣は、魂が抜けたようにポカンとした表情になった。
「はい、これで終わりよ」
「えぇ……」
この流れ前も見たぞ。
コイツ、他生物に対して格の違いを分からせるのが得意なのか?
「言い出しっぺの分際でアレだが、コイツどうするよ?」
「アンタが責任持って飼いなさい」
「牧場に連れてくか……もう終わったみたいだし、後でじっくり考えよ」
キズナも、すでにメイガス・ナイトを倒していた。
その内の何体かは綺麗なままで、そのまま利用できそうなほどだった。
しかし、サウナは惜しいな。博士に相談するか。
暴走も止めなきゃ……アッツ!!!
【ゴムメタルゴーレム】体型:人型 身長:50~80メートル 分類:ゴーレム
・全身が金属でできたゴーレム。大きさは個体による。
鋼よりも硬く、ゴムのような柔軟性を持っている。そのため、討伐が困難な恐るべき魔獣として知られている。
筋肉質な体型と金属の重量が合わさった、天性のパワーファイターである。
弱点のコアとかは無い。魔力を吸い取ってただの鉄塊にするか、身体の70%以上を破壊するか。それが討伐方法である。
『どこから湧いて出てくるんだよ……』
『地底じゃないスか?』
【地底怪獣リキッドメタルザウルス】体型:ゴジラ型 身長:可変 分類:金属爬虫類
・地底より現れた大怪獣。
地底に存在する金属を主食とするためか、その細胞は生体金属といっても過言ではない進化を遂げている。
全身を液体金属にして自由に動くという驚異的な能力を持っており、生命力も非常に強い。マグマでも死なない、不死身の地底怪獣の1体。
異世界のゴーレムであろうが、包み込んで同化してしまう。全ての金属の天敵。
『地球にこんな奴がいるなんて』
『負けなかったのが不思議ね』




