第41話 ロボット開発ラッシュ
「なあ、今どんなのが流行ってるんだ?」
「あん? お前知らなかったのか。今は猿会長×猿の春画がトレンドなんだぜ。全てが事実に基づいてるからリアリティがあってな――」
以上が、隣の席から聞こえた会話の内容である。
猿会長こそ、今まで出会った人の中で一番の狂人であると実感した。だって火のない所に煙は立たぬって言うし。
それに春画って……イカれてる、こいつらはイカれてる。このことは忘れよう……
「ん? ……魔怪獣か!?」
気分転換しようと窓の外を見ると、空が曇り、光の粒子が漂っていた。
その粒子が集まると、魔怪獣が現れた。
「……グッピー?」
今回現れたのは、手足の生えた10メートルくらいのグッピー、だろうか。
いつもの魔怪獣と比べては小さいが、数は10匹。微妙にシャークウェポンで出動するかどうか迷う。アンドロマリウスに任せてもいいんじゃないか。
いつもならシャークウェポンが飛んでくる時間だが……そういえば、今日は緊急メンテナンスだった。
ならアンドロマリウスがやってくれるか。
「よう! 虎鮫先輩!」
考えていると、キズナがやってきた。
ちょうどいい時に……やっぱり勘なのか。
「キズナ。どうした?」
「今から凄ぇもんが見れるから言っとこうと思ってな!」
「凄いもの?」
俺は、校庭を練り歩く魔怪獣を見る……?
待てよ、矢倍高校の校庭は、10メートルの魔怪獣が10匹も歩ける大きさだったか?
……よく見たら、何か凄く広くなっている。
登校した時、外から見た大きさはこんなではなかったのに。
「これはな、グリットの魔法で空間を拡張してるんだぜ。その内、科学部が同じようなことができる装置を作ってくれる」
「科学と魔法すげー」
綺羅輝爛星煌絢赫耀爍、通称グリット。
自称『魔法使い』の彼女が頑張っているのだが、流石に負担が大きいらしい。だから科学部は超技術の研究をしているようだ。
それもいつ完成するのか……
「それよりもほら、来たぜ! オレ達のロボットが!!!」
「ロボット?」
その瞬間、学校の屋上から黒い影が降って来た。
轟音を立てながら校庭に着地したその影は、グッピーと睨み合う。
「これが……ロボット!?」
全体的に丸く、シンプルなデザイン。
黒く塗られた、逆三角形の筋肉質なボディ。
約7メートル程だが、厚みと重さを感じさせる見た目。
「このロボットは一体!?」
「聞いて驚け! このロボットこそは矢倍高校の開発した量産型ロボット……『タフボーイ』だああああぁぁぁぁッッッ!!!」
タフボーイと呼ばれたロボットが拳を打ち鳴らし、グッピーへと果敢に立ち向かった。
◇
『グピィィィィ!!!』
『グピッ!!』
『グッピィ!!!』
敵対者を発見したグッピー達は、一斉にタフボーイへ殺到した。
外敵は群れで殺す――それが彼らの生存戦略である。
しかし、それを甘んじて受けるタフボーイではない。
その重厚な見た目に見合わない動きで跳躍し、先頭のグッピーに対し、全体重を乗せたパンチを繰り出した。
『グピッ……』
『グッピー!?』
『グピグピグッピー!!!』
金属製のパンチをもろに食らったグッピーは、一撃で絶命した。
それに驚いたグッピー達だが、流石は魔獣。戦意は衰えることなく、タフボーイへと躍りかかる。
『グッ……ピィィィィ!!!』
グッピー達は一斉に、勢いよく水を吐き出した。
マジック・モンスでは天然のウォーターカッターやアクア・ブレスと恐れられるそれは、鋼鉄であろうと容易く切断する威力がある。
小柄といえど、油断できないのが魔獣という存在なのだ。
そして、9匹から放たれたそれを、真正面から受け止めたタフボーイはというと……全くの無傷だった。
『グ、グピッ!?』
『グピグピ!?』
タフボーイは、その名の通り頑丈にできている。ウォーターカッターですらびくともしない程に。
そして、真に恐るべきは――このタフボーイが量産型ロボットであることだろう。
ズドン……
『グ……グピ!?』
グッピー達の前に、タフボーイが4機も現れた。
そう。 タフボーイはすでに量産されていたのだ。
『グピ……グッピィィィィッッッ!!!』
『グピィィィィッッッ!!!』
合計5機のタフボーイを目にしたグッピー達は、本能的に死を悟った。
しかし、死の恐怖とは裏腹に、戦意は上昇していく。
――魔獣には、『後退』の二文字はない。あるのは戦いによる生か、死かである。例外は存在するが。
この四足歩行のグッピー……マジック・モンスでは『愚卑』と呼ばれる魔獣。
地球に連れてこられた彼らは、自分達が群れから切り離された存在であると認識していた。
マジック・モンスならば、種の存続のために逃亡も辞さなかったろう。
しかし、ここにいるのは幾千万と存在する同胞のほんの一部。しかも、まだ若い男衆ばかりで、子孫を残すこともできやしない。
挙句の果てに、愚卑という種族は寿命も短いと来た。
――ならば、どうせ助からぬこの命。派手に散らしてやろうではないか。
『グピッッッ!!!』
『グッピィィィィッッッ!!!』
水の魔力の他に、炎の魔力を身に纏う。
本来なら反発し合う属性で、同時の使用は命の危険を伴うとされる。
だが、命を捨てた彼らには些細なことだ。
そして、水と炎。その2つが合わさった結果は……『水素爆発』。
命の危機に陥った水棲魔獣の、常套手段である。
『グッッッ!?』
しかし、決死の自爆も、タフボーイによって防がれた。
フックのようなパンチによって、次々と頭が破砕されたのだ。
生命活動が停止してしまえば、魔力の操作が上手い者でない限り、魔力は飛散してしまう。
そのことを、矢倍高校は研究によって知っていたのだ。
『グ、グッ……ピー……ッッッ!!!』
『!!!』
しかし、即死を免れた1匹の愚卑が、自爆を決行した。
辺り一面が、爆炎が巻き込まれる。それを、タフボーイ達はもろに受け炎に包まれる。、
格上の魔獣すら死の危険があるそれを食らったタフボーイは……ほとんど無傷だった。
『……』
キズナが正義の悪魔、アンドロマリウスを手に入れてからというもの。
町に蔓延る悪の組織を『モンキー・クラン』と共同で襲撃し、技術や研究成果を奪い続けた果てに作られた矢倍高校のロボットに、隙などなかった。
生き残りがいないことを確認したタフボーイ達は、校舎の方を見た。
そこでは、自分達をまとめ上げている指導者、キズナ。そして、ロボット乗りの先輩ともいうべき虎鮫がこちらを見ていた。
――かくして、量産型ロボット『タフボーイ』の試運転は、初陣にして大成功を収めたのだった。
【タフボーイ】
矢倍高校屈指の名機体。
その名の通り、装甲が厚い近接特化機体。近接での格闘攻撃が強い。
拡張性もかなりあるので、改造の幅が広い。
基本は7メートルだが、もっと小さい・大きいものも生産されている。




