第31話 Killing Licence ―殺人許可証―
この作品は決して犯罪を助長したりするものではありません!!!
「ブラックオックス?」
「ええ、この車の名前よ」
改造されたカウンタック。
その名は、ブラックオックスというらしい。鉄人のライバルっぽい名前だな。
「高かったんじゃないか、ランボなんて」
「そうねぇ……ランボ自体は定価だったわ。でも、改造費に日本円で100億は使ったかしら?」
「どんな改造したんだよ……」
「普通の改造じゃないわよ。機会があれば見せてあげる」
アルルカンは、報酬で趣味に走っているらしい。その内、スッペンペンにならなければいいが……
俺も何か始めてみようかなぁ。
「んー? さっきまでガソリン満タンだったと思うんだけど……」
メーターを見ると、ガソリンが減っている。
俺が乗った時は満タンだった気がするのだが。
「ブラックオックスはね、ハイオクを湯水の如く飲み込みながら走るモンスターよ。満タンでもすぐ無くなるわ」
「さっきのでも?」
「むしろさっきので、かしらね」
このご時世に、えげつない量の排ガスをガンガン排気していくのか。
まあ、怪獣と戦ってる手前、気にしてられないけど。
「ガソスタ……確か近くにあったわね」
「『ハイオク、現金、満タンで』。人生で一度は言ってみたい言葉だな」
「アタシはこれから毎回言うことになるのよ」
ブラックオックスを走らせるアルルカン。
すでに狭い住宅街は抜け、店などが立ち並ぶ広い公道に出ていた。
しかし、あまり人通りや車は多くないようだった。
「ガソスタ〜……はどこだったかしら?」
「もっと向こうの方だったなぁ確か」
「そんなとこだった?」
「いや、俺もあんま覚えてない」
「まあそうよねぇ、車乗ってなきゃ意味無いし」
車内でひたすら駄弁る。
アルルカンは、内心どう思っているかは分からないが、割と話してくる奴だ。
だが、アルルカンの顔が不快そうに歪む。
「どうした?」
「ほら、後ろの映像。見てみなさい」
ドライブレコーダーの映像を見た。
バックミラーじゃないのは、カウンタックなのでほぼ後ろが見えないからだ。
ドラレコに映っていたのは、危険極まりない滅茶苦茶な運転でこちらを煽る、1台の車だった。
クラクションを鳴らしたり、車間距離を詰めたりと好き放題やっている。
これは……煽り運転だッッッ!!!
「ああ? あの車……ニュースでもやってたやつだ。まさかこの辺にも出るとは……」
「……丁度いいわね。ガソスタの前に、お楽しみといきましょう」
「?」
そういうとアルルカンは、指パッチンをした。
とてもいい音が響いたのだが、どうしたのだろう。
「……あれ、周りの車がいなくなった」
何気なしに窓の外を見てみると、先程まであったはずの車や、歩行者の姿が見えなくなった。
「認識阻害結界とか、人避けの結界とか聞いたこと無いかしら?」
「創作じゃあよくある奴だな……やっぱお前魔術? 使えたんだな」
「あら、反応薄いわね。ま、そんなアンタにならいいかもって見せたのよ……誰にも秘密よ?」
「言われなくとも」
しかし、こんな結界を使って何をしようというのか。
そう思った瞬間、ブラックオックスが急加速した。
「おいっ!?」
「まあ見てなさいって」
一気に引き離すと、今度は回転し、煽り野郎の方を向いた。
紛れもなく逆走の前触れである。
「ちょ……マジかよ!?」
「さあ、ショーの始まりよ」
アクセルを踏み、フルスピードで突進する姿はまさに猛牛。
迫りくる黒い牡牛に、煽り野郎の顔が驚愕と恐怖に歪んだが、時すでに遅し。
ブラックオックスは相手の車をいともたやすく跳ね飛ばし、ドライバーごと粉砕してしまった。
派手に横転し炎上した車。やがてガソリンタンクに火の手が回ったのか、大爆発を起こした。
黒焦げになった運転手が見えている。間違いなく死んでいる。
「綺麗な花火ねぇ」
「汚い花火だなぁ」
『ん?』
このやり取り、前にもやったな。
しかし、隣に座ってる奴が過失運転致死をしたのに、罪悪感が毛ほども湧いてこない。もう俺もサメだな。
まあ、相手が煽り運転野郎だったのもあるが……うーん……殺人許可証があるからいいか。倫理的には何一つ良くないが。
「衝撃が全然なかった……凄い車だな。でも傷とか大丈夫なのか?」
「何のためにお金かけたと思ってんのよ。この程度の衝撃じゃ傷一つつかないわ」
また何かの超技術の恩恵らしい。スーパーロボットの装甲でも使ってんのかな。
「ふーん……ん? 何だあれ」
「ガラスじゃない……違うわね」
燃え盛る車の残骸をボーっと見ていると、キラキラと光るものが目に入った。
ガラスかとも思ったが、明らかに輝き方が違う。自ら光を放っているように見えた。
ブラックオックスを降りた俺達は、それに近づいた。
近くでよく見ると、俺もアルルカンも、それの形に見覚えがあった。
「これ、あの水晶トカゲの水晶じゃない」
「まさか……盗まれたやつか!?」
「みたいね。こんなアホそうな奴にも横流しされてるなんて思ってなかったけど」
アルルカンは、水晶の欠片を掌で弄ぶ。
それを見た俺は、取りあえず博士に連絡しておくことにした。
『もしもし、どうした? 何かあったのか?』
「はい。あの、盗まれた水晶ありましたよね?」
『ああ、あったが……もう下手人は潰し、水晶も回収したが』
「何かその水晶、横流しされてるみたいなんですが」
『何ィ!? やはりか!!! もう見つけたのか!?』
「は、はい。何か、煽り運転してきた奴が持ってたみたいなんですが……」
「あるいは、車に積み込まれてただけかもね」
『その運転手は?』
「あー……死にました」
「ムカついたからあの世に送ってあげたわ」
『むぅ、そうか……』
「とりあえず、ナンバープレートは無事っぽいんで、写メで送っときます」
『頼む……もし水晶を持った奴を見ても遠慮せず殺してもいい。じゃが、顔写真や身分証は送って来てくれ』
「分かりました。それでは」
『うむ。ああ、それとキリング・ライセンスはどんどん有効活用していけ。それではな』
電話が切られた。
キリング・ライセンスをくれた張本人だけあって、かなり物騒な人だということを再確認できた。
しかし、許可されているとはいえ、殺人教唆なんてしてもいいのか。まあ、博士自身、すでに何人か殺ってそうだけど。直接的、間接的のどっちも。
「ふんふん……なるほどねぇ」
「何してんだ?」
「ちょっと魔力の感知を。手慣れてるみたいだけど、作ってて日が浅いわねこれは」
「そんなことも分かるのか」
「ええ……!」
水晶を見ていたアルルカンが顔を上げ、ニヤリと嗤った。
これは、何かいい玩具を見つけた時みたいな顔だ。
「ちょうどこれの製作者が近くでドンパチやってるみたいね」
「戦ってんのか?」
「そうみたい。ちょっと覗きに行きましょ」
「あ、おい。待ってくれよ」
俺がブラックオックスに乗り込んだのを確認すると、アルルカンはアクセルを踏み込んだ。
「どこ行くんだよ?」
「うーん……これは広い交差点かしら? 大人数で戦うにはもってこいの場所ね」
行先は交差点。
そこでは、どんな奴らが待ち受けているのやら……




