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 浜田俊平は先ほどから同じページを目で追っていた。

 学生恋愛を題材にした短編集だ。普段はライトノベルを読んで、他のジャンルには全く興味の無かった俊平にも、とっつき易い内容のはずだった。

 全然頭に入ってこない……。

 俊平は本の陰からそっと、黒板の隅で友達と談笑する真知絵里奈を盗み見る。この恋愛小説は、俊平が密かに好意を寄せる絵里奈が「読んでみてよ」と渡してきたものだった。

 いったい、何でこの本を僕に……。

 俊平は明るく可愛らしい絵里奈の笑い声を聞きながら、もしかしたらという淡い期待を抱いた。ページは一向に次へ進まない。文庫本から微かに漂う甘い匂いばかりが気になった。

 五時間目終了のチャイムが鳴った。俊平は文庫本を大事に手に持って、いそいそと立ち上がった。人差し指が二ページ目に挟んである。

「浜田くん、どうだった?」

「えっ……」

 絵里奈がニコニコと純平の肩を叩いた。俊平は肩から全身に痺れるような感覚が走った。必死になって内容を思い出そうとするも、思考がまとまらない。

「面白かったでしょ?」

「ああ、うんとね……。うーん……、まあまあかな?」

「……面白くなかったの?」

「あ、い、いや、その……」

 俊平はまだしっかりと読んでもいないのに、適当に本の評価を下したくはなかった。だが、読めなかったとも言いたくない。

「やっぱり、面白くなかったんだ……」

「う、ううん、違うよ! 面白くなかったとかじゃなくてさ、その、何かもったい気がして、まだ全然読んでないんだ」

「えっ、もったいなくて読んでないの?」

「そ、そう! ほら、僕って好物は最後に残しとくタイプだから……」

 何を言ってるんだ僕は……。

 俊平は顔が真っ赤になった。背中が汗でびしょびしょになる。

「あはは、浜田くんって歴史小説とかばっか読んでそうだったけど、恋愛小説も好きなんだ」

「えっ? うん、そ、そうだね」

 歴史ものも恋愛ものも、読もうと思った事すら一度もなかった。だが否定出来ず、何となく明後日の方向に視線を泳がせる。

「良かったぁ。この本誰かにオススメしたかったんだ。でも本読む人ってあたしの周りにいなかったからさ」

「そ、そうなんだ……。僕ってどんなジャンルでも読むからね、また面白い本があったら教えてよ」

「うん! しっかり読んだ感想ちょうだいよ」

 よし、明日から色んなジャンルの本を読み漁ろう。

 俊平はやっと次のページに指をかけた。


 

 

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