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移り変わりゆく景色


 鈴原久美子は公園の向こうの住宅地を眺めた。

 ちょっと前まで、あの辺は田んぼだったのに。久美子は変わっていく街並みを寂しく思った。

 息子の拓哉は、公園に生えるユズリハの木の実を集めている。久美子は、息子が黒い木の実を口に入れやしないかと、ハラハラと眺めた。

 拓哉は両手いっぱいの木の実を集めると、砂場に掘った穴に埋めた。久美子が「何してるの?」と尋ねると「保管してるの」と答える。

 夕刻を告げるチャイムが流れた。久美子は、拓哉の小さな手を握りながら、帰り道に一緒に歌を歌った。

「新しい家が出来てる」

 帰宅した拓哉は、道路を挟んだ斜向かいに新しく建てられている家を指差した。

「本当だね。誰が来るんだろうね?」

「なんか、この辺も変わったなー」

「おいおい、君はおいくつ?」

「えっと、八才」

 久美子は吹き出してしまう。ひとしきり笑った後、拓哉の頭を撫でた。

「お母さんが子供の頃は、この辺にも田んぼとか畑がいっぱいあったんだよ?」

「へー」

「お母さんね、田んぼでドジョウとかカエル捕るの上手だったんだから」

 久美子は子供時代のことを思い出した。懐かしさと同時に、やはり寂しさが込み上げてくる。

「じゃあその前は?」

「えっ?」

「じいちゃんが子供の頃とかは?」

「うーんと……、山とか川があったのかなぁ?」

 久美子は言葉に詰まった。私が生まれる前、この辺はどうなっていたのだろう?

「じゃあ、じいちゃんは山とか川で魚捕ったんだ」

「山で魚は捕れないかも……」

 私の子供の頃の思い出。田畑の広がる懐かしい風景。

 それは、父や母にとっては新しい景色だったのだろうか?

「妹ができたら、僕があそこの空き地で昔遊んだんだって、自慢できるよね」

「自慢になるかなぁ?」

 妹が欲しいという意味だろうか。

 久美子は少し頬が赤くなった。エイッと拓哉の体を持ち上げる。拓哉は嬉しそうに笑った。

 君はいずれ、この景色を懐かしく思うんだ。だったら変わる前によく見ておきなさい。

 それにしても、妹とは……。

 久美子は無邪気な拓哉のワキを、こちょこちょとくすぐった。

 


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