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誰かの温もりを探して 〜現代文学・短編集〜  作者: 忍野木さりや


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28/33

徐々に明ける空


「嘘つき!」

 八代一暉は怒った。椅子に登って小さな背中を大きく伸ばす。白いカーテンの上。レールにぶら下がる二体のてるてる坊主。泣きながらその坊主頭を掴んだ一暉は、床に投げつけた。

「こら! 一暉!」

 八代妙子は息子を叱りつける。母に怒られた一暉はビクッと肩を震わすと、更に大きな声で泣き始めた。

「一暉! てるてる坊主くんに謝りなさい!」

「……ひっ……だ、だって、嘘、なんだもん」

「嘘なんてついてません!」

「嘘、だもん、雨、降ってるもん」

 一暉は窓の外を指差した。電線の向こうに広がる雨雲。ベランダで跳ねる雨粒が窓を濡らす。

 夏休みが始まって四日目の朝。梅雨はまだ明けていない。昨晩二人で仲良く作ったてるてる坊主も苦戦しているようだった。

 泣きながらてるてる坊主を拾った一暉。わっとゴミ箱に投げ捨てると、居間を飛び出した。「こら!」とその小さな背中に声を伸ばす妙子。レタスを洗う手を止め、すぐさまゴミ箱に捨てられたてるてる坊主の救出に向かう。

「早く天気になるといいね?」

 妙子は二体の顔のない坊主頭に微笑む。カーテンレールよりも高い天井付近。壁に画鋲を刺すと、てるてる坊主をぶら下げた。

 雨は夕方になっても降り続いた。一暉の機嫌は一向に直らない。妙子は口を紡いでアニメを見る息子にため息をつく。

「ねぇ、一暉? ケーキ食べたくない?」

「……ケーキ?」

 気乗りしないようなムスッとした声。だが、その幼い目が期待の色に光るのを妙子は見逃さなかった。

「そ! 今からあまーいケーキ作るから、一暉も手伝って?」

「えー、いいよー」

 嫌そうに眉を顰めながら母の元に駆け寄る息子。妙子は微笑む。

「じゃあ、一暉は生クリームを混ぜ混ぜしてくれるかな?」

「わかったー」

 椅子の上に登る息子を支える母。生クリームの液体を氷水の上のボウルに注ぐと、グラニュー糖を加える。そして、泡立て器で空気を含ませるように数回かき混ぜた。

「こうやって回してると泡立ってくるから、ふわふわのクリームをお願いね?」

「うん!」

 意気揚々と生クリームを混ぜ始める一暉。だが子供には重労働であり、一分も経たずに疲労で手の動きが遅くなった。

「お母さーん、泡立たないよ?」

「もう少し、もう少し、頑張れ!」

 一暉は疲れたように腕を振った。妙子はそんな息子を励ます。

「お母さーん、やっぱり泡立たないよ?」

「あとちょっと、あとちょっと」

「……無理だよ。やっぱり泡立たない」

 およそ四分。ギブアップした一暉は椅子を下りた。

 まぁ、粘った方かな?

 妙子は微笑んで一暉の頭を撫でる。

「ねぇ、一暉見て? ちょっとだけ固まって来てるでしょ?」

「……うん、ちょっとだけ」

「クリームを作るのってね、こんなに時間がかかるの。だからね、根気よく混ぜ混ぜしながら待たなきゃいけないのよ?」

「うん」

「てるてる坊主くんもね、根気よく空を晴れさせようとしてるんだから、一暉も待ってあげてね?」

「そうなの?」

「そうよ、てるてる坊主くんだって頑張ってるのよ!」

「ふーん」

 あまり上手いことは言えなかったな。

 妙子は苦笑した。

 一暉はチラリと天井付近のてるてる坊主を見上げる。窓の外の雨は僅かに弱まってきているようだった。

「お母さん、それ返して」

 一暉は、妙子の持つ泡立て器を指差した。

「あら、もうちょっと混ぜてみる?」

「うん、もうちょっと混ぜてみる!」

 意気込む一暉。椅子の上によじ登ると、微笑む母から泡立て器を受け取った。


 


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