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理想の浜辺

 くの字に伸びる海岸線は、遠くの山々を海に浮かばせていた。

 七里御浜に広がる海は、大空と同化して青々と輝いていた。

 サングラスを掛けた三島和年は大きなバックパックを背に、壮大な景色を眺めた。彼は日本一周を夢見て、海沿いを歩いていたのだった。

 何て良い天気なんだ。

 平日の朝。季節外れの浜辺は閑散としていた。

 和年は誘われるように、浜辺に駆け降りた。押し寄せる波の音。眩しい陽射しが海に溶け込む。その心地よい静けさが耳から身体を癒した。和年は暫く水平線を眺めた後、元気よく浜辺を歩き始めた。

 七里御浜は丸石の敷き詰められた砂利浜だ。波が丸石を攫っては押し戻した。

 アスファルトの道に歩き慣れていた和年は首を傾げた。思った以上に歩きづらい。

 和年の背負うバックパックは、ゆうに二十キロを超えていた。九十リットルのバックにはテントや着替え、予備の靴、食料、水、救急セット、カメラに双眼鏡……。長旅に必要だろうと思われるものをとにかく詰め込み、入りきらないマットや寝袋をバックの上に縛り付けていた。

 一歩進むごとに、丸石に足が沈む。沈む足を支えようと足首からふくらはぎへ、バランスを保つ為に膝から太もも、腰へと重い力が伝わった。一歩にかかる負担が、固い地面とは比べ物にならなかった。

 始めは広い海を眺めながら歩いていた和年だったが、徐々に視線は足元の浜砂利へと下がっていく。

 これは駄目だと、少し上がった砂浜に移動した。だが、乾いた柔らかい砂は砂利以上に厄介で、靴の中が砂だらけになった。

 アスファルトに戻ろうかと思ったが、雑技林が浜と道路を区切っていた。初めて歩く浜辺だった為、何処から道に上がれるか分からなかった。

 砂浜から砂利浜に戻った和年は、とにかく前に進んだ。日本一周を目標とする和年は、一日最低五十キロは歩こうと決めていた。二十キロを背負った足で平均一時間四キロ、五十キロを歩くには十二時間以上歩き続けなければならなかった。

 汗がサングラスの上に垂れた。

 歩くたびに沈む体。バックは細かく揺れて、肩とウエストベルトを巻く腰に痛みが走る。

 とにかく一歩一歩前に進み続けた和年は、やっとアスファルトに上がれそうな階段を見つけた。

 アスファルトに上がると、ふうっと息を吐く。

 和年は七里御浜を横目で見た。そして興味を失ったように前を向いて歩き始めた。

 

 

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