表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/33

地下室

 

 仏壇の置かれた四畳半の部屋を抜けると地下室があった。古い納屋を背にしたその場所は五歳の僕には恐ろしく、大好きな母が仏壇へと向かうだけで大泣きした。

 幼馴染と地下室に潜ったのは十五歳の時だった。女の子と話すのが何だか恥ずかしかった時期である。地下は狭く、暗い。漬物が置いてある以外に変わった事はなかったが、幼馴染の息が触れると妙にドキドキした。暗がりに目が合うと二人でドギマギして「吊り橋効果かも」と笑った。

 二十五歳の時、妻と赤子を連れてこの家に帰って来た。妻は地下室を見て「昔、二人でここに隠れたよね」と笑った。

 飼い猫が居なくなったのは三十五歳の時だった。真っ先に地下室を探したが見つからなかった。代わりに亡き母のアルバムを見つけた。

 まだ中学生だった次男が万引きをしたと学校から電話があった。四十五歳になった私は息子をキツく叱り、地下室に一晩閉じ込めた。

 奔放だった長女が男を連れて帰省したのは私が五十五歳になった年の暮れだ。地下室に隠れては父を困らせた少女の面影はそこには無かった。「結婚する」あたかも今しか見てないような娘の言葉に無性に腹が立ち若い二人を怒鳴りつけると、妻から部屋を追い出された。

 六十五歳の私は地下室のある古い廊下を抜けた。よく磨かれたフローリングの上で本を読む孫の頭を撫でる。納屋はとうの昔に取り壊され、娘夫婦と二人の孫がそこに暮らしていた。

 病院を出た私は、白髪の目立ち始めた長男の車に乗り込む。家はリフォームされており昔の面影は無いようだ。妻の写真が飾られた仏壇に手を合わせた後、覚束無い足取りで地下室を下りた。

 暗くて狭いそこは、懐かしい匂いがした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ