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山桜

 

 通学路は山の斜面に沿うように続いていた。

 草木が隙間なく生い茂る夏、その道を通れば時折、鹿や野狐が木々を揺らした。秋になると広葉樹は錆びた夕日のように色づく。凍えるような冬は一面が雪に覆われた。

 通学路を覆うように枝を伸ばす一本の桜の木があった。木はポツンと山の斜面に生えており、若葉が芽吹き始める春になると、その木は満開の花を咲かせた。

 小学生の頃、私はその桜の木の下を歩くのが好きだった。味気ない通学路の景色は、その一本の山桜で鮮やかに彩った。夏が近づくと大量の毛虫が湧いたが、それも何だか非日常的な感じがしてワクワクした。

 中学に上がった私は学校へ行かなくなった。その頃の私は周りで起こる様々な出来事が退屈で、苦痛で、残酷に感じた。多感な時期だった。

 桜の木は知らぬ間に切られていた。何とか高校に上がることの出来た私は、その事を知った。別に何とも思わなかった。ただの退屈な人生の一コマに過ぎないとすぐに忘れてしまった。

 全てが単調で味気がないと、高校生の私はいつも下を向いていた。

 大学に進学した私はバイトを始めた。近所のカフェで毎日、忙しくコーヒーを運んだ。

 カフェでは同い年の女の子が働いていた。茶色く染められた短い髪は軽くウェーブしており、小柄でよく笑う彼女はとても可愛らしかった。私は彼女の前に立つと緊張してしまい、上手く喋れなかった。それでも気張って話しかけた。

 私は彼女と話すのが好きだった。

 味気ない日常の景色は、一人の女性で鮮やかに彩ったのだった。

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