4話
悪魔を体に宿し、魔人となった人は同族を増やそうと人を殺すようになるのです。
ときに残虐に。ときに狡猾に。ときに美しく。ときに無残に。
宿した悪魔の個性とその人の個性によって、その辺りは決定されるんだとか。不思議ですね。
そして厄介なことに、そんな悪魔を崇拝する〝魔教徒〟なんて連中も世の中には蔓延っていて、ほんと大変な時代に生まれてしまいました。やれやれです。
そこへコンコンコン、とノックの音が響いて、薪割りの男性がやってきました。長いのでここでは旦那様としましょう。
「旅人さん、お疲れでしょう。空き部屋へ案内します」
「そうですね、くたくたです。お心遣い感謝します」
見ず知らずの他人をこの家に置いてくれる訳ですから、家族全員に対して感謝の礼をしました。
また後で、と奥様に一言伝えてから退室します。
「こちらです」
空き部屋は廊下を挟んですぐ反対側にありました。
「物置として少々使っているので手狭ですが、ベッドもありますよ。使ってください」
「ありがとうございます。雨風を凌げるだけでも助かりますよ」
ほんとに。
「では私は夕食を用意します。それまでお好きにくつろいでいてください」
「お構いなく」
「では」
旦那様は軽く頭を下げてから空き部屋を出て行きました。
それを見届けてから、わたしは荷物を床に置き、魔力板を壁に立てかけて「ふう」と一息つきました。
ゆっくりとベッドに腰掛けて、部屋の中を見回してみます。
確かに物置として利用しているようですね。予備の斧があったり、斧用の砥石もあります。木こりでもして生計を立てているのでしょう。他にあるのは古着や保存食などでしょうか。
大きく息を吸ってみます。
嗅ぎ慣れない他人の匂い。木造建築の独特な木の香り。あまり埃っぽくはないのできちんと清掃しているか、ある程度頻繁に出入りがあるのでしょう。
他人のお宅を詮索するのは良くありませんね。この辺にしておいて、今のうちに準備をしておきましょう。
なんの準備か、ですか?
それはもちろん──
内緒ですとも。