表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/24

3話

「初めまして奥様、わたしは旅をしている者です。今晩だけお邪魔させていただきます」


 頭全体が包帯でぐるぐる巻きにされているのでわたしのことが見えているのかはわかりませんが、しっかりと頭を下げました。

 そもそもわたしには、この人が女性なのかどうかも判別できません。

 母親のもとへ案内してくれたわけですから、この方は女性なんでしょうけど。

 布団をかけているのもありますが、なんというか、肉体も、精神も、存在も、華奢だったのです。

 今にも灰になって崩れて消えてしまいそうな、そんな儚さが人の形をしていました。


「ようこそいらっしゃいました。ゆっくりしていってくださいませ、旅人さん」


 そう言ってくださった奥様の声まで消え入りそうで、まるで虫の息。ちゃんと聞き取れたのは奥様がわたしに気を使って頑張ってくれているからか、それともこの部屋がとても静かだからか。

 どちらでもよいでしょう。早速ですが、わたしは思い切って聞いてみることにしました。


「失礼ですが、その包帯はお怪我? それともご病気?」

「ああ……こちらこそ、このような(なり)で申し訳ありません。包帯(これ)は怪我です。森の中で不幸があって」

「なるほど不幸。熊に襲われてしまったとか?」

「そのようなものです」

「命を拾いましたね。むしろ幸運です」


 熊は人だってむしゃりと食べてしまう、とても大きくて獰猛な生き物で、世界で何千何万と被害者が出ています。多くは森に生息しているので、この辺りにいてもおかしくありません。

 わたしも何度も遭遇したことがあります。

 これでも旅を続けて長いので、多少の心得もありますから大事には至っていませんが、他人事ではありませんでした。


「母さんが大怪我したのが幸運だって言うのかよ?!」

「こら──」

「いいんです」


 突然息子さんが大声を上げたのでびっくりしてしまいました。顔には出しませんが。

 注意しようとした奥様の言葉を遮って、わたしは中腰になり息子さんに視線を合わせます。


「確かに怪我をしてしまったことは不幸です。でもそれで死ななかったのは幸運です。命を失った人を正しく(とむら)わなかった場合、どうなるかはご存知ですか?」

「……魔人になるって父さんが」

「その通りです。ちゃんと覚えていて偉いですね」


 わたしは微笑んで息子さんの頭を撫でてあげました。

 息子さんは複雑そうな表情を浮かべていました。ふふ、可愛いです。


「悪魔と呼ばれる悪い存在が人の体に入り込み、悪さをするようになります。それが魔人です」


 自分で言っておいてなんですが「悪さ」とはまた可愛らしい表現だな、と。

 具体的に何をするのかって? そんなの決まっているじゃないですか。




 ──人殺しですよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ