22話
「旅人さんはこれからどうなされるのですかな? 村は見ての通りですが……」
雨が降りしきる村を見渡して村長さんが物憂げな表情を浮かべます。
もともと何もない村でしたが、本当に文字通りの意味で何も無くなってしまいました。
一晩雨風が凌げればいいと思っていたのですが、もはやそれも難しいでしょう。
「魔教徒がこのままだと皆さんも不安でしょうし、すぐに連れて行こうと思います。何もお手伝いできなくて心苦しい限りですが」
心にも無いことを言いながら頭を下げると、村長さんは手と首を一緒に振って慌てふためきました。
「魔教徒を討伐し、魔人にまで対処して頂けただけでも充分過ぎる働きでございますよ!」
「ありがとうございます」
頑張った甲斐がありますね。やっぱり金額引き上げてみましょうか……この雰囲気ならば恐らく断れないでしょう。ふふふ。
などと性懲りもなく心の中で悪い笑みが浮かび上がりますが、もちろんそんなことはしません。したいけど。
「……旅人さん!」
「はい? どうしましたか?」
雨に濡れた息子さんが何かを決意したかのような、そんな表情を浮かべて詰め寄ってきました。
「どうしたら、旅人さんみたいに強くなれる?!」
「わたしのようにですか? 死ぬほど難しいですよ?」
魔法は文字通り死なないと手に入りませんし、戦闘経験も積まなければなりません。
生半可な覚悟では無駄死にするだけでしょう。
「それでも強くなりたい! あんな奴ら簡単に蹴散らせるくらいに!」
あの親あればこの子あり。
もしかしたら、と思わなくもありませんが、わたしから言えることは多くありません。
「では、僭越ながらひとつアドバイスをしましょう」
人差し指を息子さんの目の前に立てて見せます。
息子さんの目は期待に輝いていましたが──
「わたしのように、『雨も滴るいい女』になってください。君は男の子なので『いい男』ですね」
──急転直下。期待の輝きが今の空のように一気に曇りました。わかりやすくて可愛いですね。
「……どういう意味?」
「そのままの意味ですよ? 強くなるための秘訣です」
華麗にウインクをして見せました。
雨あるところに死体あり。死体あるとこわたしあり。
雨が降るところには死体がよく転がっているものです。死体が転がっているということは、死体が転がるような問題が発生しているということ。
死体が転がるような問題なんて荒事か事故くらいなもの。そんな場面に出くわし続ければ、自然と実力も身に付くこと請け合い、という寸法。
わたしはこれで強くなりました。
なので、職業柄雨女なんです。だったら濡れることを逆手に取れたほうが都合がいいでしょう?
だから雨が似合う人になれば、結果的に実力も付くのです。
「おすすめはしませんが、わたしの目から見て息子さんは才能あると思います。おすすめはしませんが」
雨が似合う点でも、意志の強さの点でも、将来性はあると思いますが、念には念を押しておきます。
まだ普通の人生を歩める男の子をこんな腐った世界に引き込むつもりはありません。
しかし息子さんは前のめりに言いました。
「だったら俺も連れてって!」
「わたしの旅にですか? つまり『弟子』ということですか」
「そう! 弟子! 俺のことを鍛えてください!」
息子さんは頭を下げてお願いしてきます。この目は本気のようです。
だったらわたしはその誠意に応え、こう返答するしかありません。
「嫌です」
ニッコリと笑いながら突き放してあげました。




