19話
村全体が静まり返り、しばらく経ってから村の人たちが様子を見に恐る恐る戻ってきました。
村人たちを代表してか、わたしの元へゆっくりと歩いてきたのは息子さん。
ぽつりぽつりと、灰色の雨雲から冷たい雫が降ってきました。
「た、旅人さん……」
「息子さんですか。終わりましたよ。もうこの村は安全です」
安心させてあげようと笑顔で声をかけますが、息子さんの表情は暗いまま。
他の村人さんは安心したり、喜んでいる人も見受けられる中で、息子さんは予感して──いえ、確信していながらも、信じたくないのでしょう。
気持ちはお察ししますが、わたしは優しい嘘をつけるような心は持ち合わせていません。いつでも正直な気持ちを言葉に乗せるように心がけています。
「えっと……その……」
恐らく息子さんはどう聞けばいいのか、言い淀んでいます。
──『お母さん』を殺したのか。
──『魔人』を殺したのか。
どちらも正解であり、どちらも不正解ですが、ここではあえてこう言いましょう。
「『魔人』なら死にましたよ。わたしが殺しました」
家族との繋がりを強く願った奥様に宿った悪魔の魔法は、引き裂くような魔法でした。
なんだか皮肉な話ですね。
「そう……だよね……」
息子さんはがっくりと肩を落としてこの世の終わりのような表情を浮かべました。
息子さんからしたら一夜にして父と母を亡くしたわけですから、涙のひとつくらいこぼしてもおかしくないでしょうに。この心の強さは母親譲りなのかもしれませんね。
この雨はもしかしたら、息子さんの代わりに世界が泣いてくれているのかも。なーんて。
「息子さん」
落ち込んでいる息子さんにわたしは声をかけてあげました。この言葉が慰めになるかはわかりませんが。
「〝21g〟。この数字が何を示しているか、わかりますか?」
「……?」
突然の問いに、息子さんは首を傾げました。
わからなくて当然です。何のことを言っているのかすらわからないでしょう。
「これは『人間の魂の重さ』と言われています」
人間は死んだ瞬間に体重が21g減る、という説があるそうです。そしてその減った重さは魂なのではないか、と言われているのです。
眉唾物だと笑う人が沢山いますが、わたし個人としてはこの説はとっても好きです。人間に心や魂がある証拠になればいいなと思います。
だからこそ、わたしは息子さんのためにこんなものを用意してみました。勝手に。
わたしだけにしかできない秘奥義です。企業秘密とも言います。
「息子さんにはこれを差し上げましょう」
「これは……?」
「奥様と旦那様の〝魂〟です」
息子さんの目の前に差し出したのは、美しく光り輝く宝石でした。




