17話
魔人は連続で魔法を発動しますが、わたしには当たりません。当たったら即お陀仏なのでこれでも結構必死です。
足をかける場所が無かったらわたしの魔法で壁の一部を小さく圧縮して窪みを作り、そこを足掛かりに高く跳びます。あの魔人が壁に小さな亀裂を作り、張り付いていたのをヒントに真似てみました。
併せて足裏に魔力を集めて見えない足場を作ったりもして、とにかく複雑な軌道を描きながら地上を目指します。
旦那様のために。息子さんのために。そして奥様の願いを叶えてあげるために。
暗くてよく見えませんが、魔人が顔を顰めたような気がしました。当たらなくてイライラしているようですね。ニヤニヤ。狙い通りです。
「縺、ソ、縺、ョ、縺、後、○、!、!」
叫ぶ唸りは怨嗟の声か、怒りの咆哮か。
「ふむふむ、ふむふむ……なるほどわからん。しっかり人語を勉強してきてください。じゃないと伝わりませんよー」
適当なアドバイスをしつつ、彼我との距離は目と鼻の先。近づけば近づくほど狙いは正確になりますから、ここからは小手先でも邪魔をしてやりましょう。
わたしは魔人に向かって魔力を集めた手の平を向けました。
それを察知して、魔人は頭を引っ込めます。やはり視覚は無さそうですが、その代わり魔力の感知に長けているようです。
まあ、それを逆手に取った魔法を放つフリです。
わたしの魔法がどんな効果を持っているかは、先程からこまめに発動しているので想像がついたのでしょう。
賢いと言えばいいのか、小賢しいと言えばいいのか、判断に困るところですね。
でもお陰で穴を登り切り、洞窟を出ることができました。
ここまでくればこちらの独壇場と言っても過言ではありません。
もうこの魔人の魔法はわたしには通用しませんよ。何度も見ましたから。
軽く身を引くだけ。必要最低限の動きだけで避けることができちゃいます。
「ほらこの通り。どう、凄いでしょう? どやどや」
実際に魔人の魔法を簡単に避けてみせて、見えていないでしょうけど、全力でどやどやしてやりました。
「さて、貴方にはそろそろ退場してもらいましょうか。──この世から」
わたしは全身から魔力を迸らせ、両手に集めて魔法を発動させます。
ボッ! と自然発火するまでに手の表面が熱せられ、準備は整いました。
「悪魔とか悪霊とかアンデッドとか、悪い存在は燃やすに限りますよね」
わたしは恵まれています。
本当に。




