15話
「そういえば旦那様が『地下水脈』がどうとか仰っていましたね」
魔人と一緒に落ちた先には洞窟がありました。かなり広いです。
このまま頭を掴んでいるとわたしの魔法を発動させる前に魔人の魔法によって真っ二つにされそうだったのでいったん適当にぶん投げて距離を取ります。
魔人は空中で器用に姿勢を制御して壁に着地。
わたしも足裏の魔力を感じて着地の衝撃を和らげました。
「猿ですか、どんどん人間離れしていますね。まあ、とっくに人間ではないんですけど」
ボヤきつつ観察してみると、壁の亀裂に手足を滑り込ませています。例の魔法で小さな亀裂を作り出し、そこに掴まっているようですね。元は起き上がることもままならなかった非力な奥様の身体だったなんてとても信じられません。
「明かりがあるのは素直に助かりました」
洞窟の中には等間隔で輝光石を用いたランタンがぶら下げられていました。この地下水脈が村を潤す水源ならば、定期的に入って点検などを行なっているのでしょう。しっかりと柱で補強もされています。
何はともあれ、ここが戦いのステージです。
「縺、ソ、縺、ョ、縺、後、@、縺、ヲ、!、!、!」
魔人は奇怪な叫びを反響させて一直線に飛びかかってきました。
魔法の射程ではあちらが勝っているはずですが、洞窟が崩れてしまうのを忌避したのか直接攻撃しに来ました。
魔法は強力ですが頭は弱い悪魔なのかもしれません。あるいはまだ魔法の制御に自信がないのか。術者から離れれば離れるほど思うように操るのは難しいですからね。
わたしはタイミングを合わせて魔人の頬骨に蹴りを一発。手応えはありましたが一発で終わるほど魔人は柔ではありません。
常人であれば頬骨が砕けたあと顔が一周して元の位置に戻るくらいの威力があったはずですが……何度も言うように常人ではないのでこんなもんですね。
吹き飛ばされる勢いのまま地面を何度か跳ねて壁に激突。柱で補強された洞窟なので崩れることはありませんでしたが、これは加減したほうがよさそうです。
「魔法ばかりに頼っていると思っているのなら、それは間違いですよ」
巻き上がる砂埃の向こう側へ声をかけます。
悪魔や、人間でありながら魔法が使える人などは魔法に頼った戦い方をする傾向にあり、肉弾戦は苦手としているパターンが多いです。この悪魔はそれを逆手に取って接近戦を挑んだのでしょう。
わたしの場合は徒手空拳が主な戦い方であり、魔法はその補助かおまけでしかありません。残念でした。
魔人の魔法の発動を感じて、頭上を見上げます。
「そう来ましたか……!」
巨大な落石がわたしを押し潰さんと眼前に迫っていました。