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13話

 とは言ったもの、息子さんが近くにいる状態じゃまともにやり合えません。奥様と戦い、勝利を収めなければ〝一緒にいたい〟という願いを叶えてあげることもままなりません。

 まずは場所を変えるか、息子さんを安全な場所に逃がさなければ。話はそれからです。


「縺、あ、ゅ、あ、≠、あ、縺、ゅ、あ、≠、あ、縺、!、?、!、?」


 奥様は到底人間には理解できそうにない奇声を上げながら頭を無造作に掻き(むし)り、指に絡まった髪の毛がブチブチと引き千切られます。頭皮から出血しようが、お構いなしでした。


「あ、これマズイやつですね」


 わたしはとっても(さと)い美少女ですので、色々と察してしまいました。これはいったん逃げましょう。

 わたしはうっかり強めに投げ飛ばしてしまった息子さんの首根っこを再び掴み上げると、窓ガラスをぶち破って豪快に脱出。もちろん息子さんが怪我をしないように庇いながら。

 その瞬間、立派な木造建築が縦に真っ二つに割れ、横に真っ二つに裂け、斜めに真っ二つに両断され、さらに半分に、さらにさらに半分に。

 ──どんどん半分にされていって、家の原形などあっという間に崩れ去ってしまいました。

 圧倒的な未知なる現象を見届けて、わたしは壁になるように息子さんを背に隠します。


「他の村の人と一緒に安全なところまで逃げてください」

「でも父さんと母さんが──!」

「旦那様も奥様も、もうダメです。諦めてください」


 嘘や隠し事がほんのちょっぴり苦手なもので、こんな言い方しかできないのはわたしのよくないところだと自覚はしているのですが、言い方を考えているほど悠長な時間はありません。


「息子さんまで死んでしまっては、旦那様も奥様も浮かばれません。だから生きてください」

「父さんも母さんもいないなら死んだ方がマシだよ!」


 かちーん。

 ちょっと頭に血が上ってしまったので、手荒なことをするのをどうかお許しください。

 わたしは再三、息子さんの首根っこを掴み、足が浮き上がるまで持ち上げて、ただの廃材の山と化した家がよく見えるように突きつけます。

 魔人と化した奥様は息を荒げ、廃材を吹き飛ばしながら周囲に視線を巡らせていました。恐らくこちらを探しているのでしょう。目は見えないはずですけど。音でこちらを探っているのかもしれません。

 わたしは息子さんの耳に息を吹きかけるように声を小さくして囁きます。


「息子さんも、旦那様がどうなっていたかはその目で見ましたよね」

「────っ」


 息子さんが息を詰める気配が伝わってきました。

 わたしは続けます。


「右脳と左脳で奇麗に分かれていましたね。心臓はちゃんと左側にありました。とっても美味しかった夕食がまだ原形を留めていましたね。腸の長さって10メートル近くあるそうです。健康的な桜色をしていました」


 どんどん息子さんの顔色が悪くなっていくのがわかります。そうです、そのまま旦那様の亡骸と、自分の姿を重ねて想像してみてください。

 そのときでした。奥様が──いえ、魔人の顔がグルリとこちらを捉えたのは。

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