表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/24

12話

 ここにきて、奥様の限界が訪れてしまったようでした。まだギリギリ自我は残っているようですが、体の支配権はほとんど悪魔に乗っ取られてしまっているようです。

 旦那様は……即死でしょう。鋭利な刃物か何かで奇麗に両断されています。流石にわたしも初めて見ました。縦半分になった人間は。

 かなり悲惨な光景なので、あまり細かく言うのはやめておきましょう。


「息子さん、死にたくなければ離れてください。危険です」

「嫌だよ! 母さん! 母さんってば!!」


 息子さんはわたしの警告を無視して奥様に抱き着き、必死に呼びかけています。死にたいようですね。

 ですが助かる命を見過ごすほどわたしは非情ではありません。先程も申した通り、命は平等ではないのです。魔教徒とは違い、息子さんの命は失われていいものではありません。

 わたしは息子さんの首根っこを掴み、少し乱暴ですが引っぺがすようにして後ろへと放り投げました。


「ぐえ」


 息子さんからカエルの潰れるような声を出させてしまいましたが、お陰で命まで体から出ていくことは防げました。

 わたしが息子さんを放り投げた直後、奥様が横になっていたベッドが突然半分に裂けたのです。もし息子さんがそのままだったら、旦那様と同じ未来を辿っていたことでしょう。


「奥様……まだ気持ちは変わらないのですか?」


 ずっと旦那様と一緒にいたい。息子さんをずっと守っていたい。奥様はそう仰られていました。

 しかし、もうその想いが果たされることはありません。すでに旦那様は真っ二つ。息子さんも同じ運命を辿るところでした。

 他でもない奥様の手によって。

 例え体を支配し、精神までも支配しつつある悪魔のせいだったとしても、奥様は一生、いえ、死んでも気に病むことでしょう。


「い、っ、し、ょ、に、い、た、い、!、!、!、!」

「そうですか。やはりお強いですね」


 母は強し、とは言いますが、これほどまでとは。恐れ入ります。

 奥様の家族を愛する気持ちは本物のようです。

 ですが、何度でも言いましょう。

 ──命の価値は平等ではないのです。

 奥様の命はすでに失われたも同然であり、そこにいるのは奥様ではなく、奥様の皮を被った悪魔──『魔人』です。

 ならば、わたしはあえてこう言いましょう。




「奥様のその願い、叶えてさしあげましょう」




 わたしなら、それができるから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ