蘇りし最凶の魔王、古代魔法の力で最強領地を作り上げる【プロローグ短編】
静寂なる闇の中。
俺は安らかな眠りに入っていた。
何者にも侵せぬ平穏なる空間に。
――めて。
何かの音が聞こえてくる。
音は静寂なる闇を揺さぶり、徐々に亀裂を入れていく。
――めて、魔……。
世界を揺らすその音。
どうやら、何者かの声のようだがいったいこれは……。
――目覚めて、魔王様!
その瞬間、闇は砕かれ一気に光が飛び込んできた。
雷に打たれたような感覚に、俺は。
「何者だ、俺を呼ぶ者は――!」
拳を突き出し、腹の底から大声を上げる。
気がつくと、石棺座り込んでいた。
……と、なにやら目を白黒させた少女の姿がそこにあった。
頭には、くるりと曲がった角。そして、後ろには黒い光沢のある尻尾。
魔族。俺と同じ一族だ。
世界の主要種族のひとつであり、人間の次に数が多い種族であったが、人間との覇権争いに打ち勝ち、現在の最大勢力となっている。
「ほ、本当に、目覚めた……?」
「小娘、俺を呼んだのは貴様か?」
「は、はい! そ、そそうです! コ、コ―ディリアと申します、です……」
魚のように口をパクパクと開くコーディリアという少女。
後ろの尻尾がピンと張っており、明らかに緊張の色が見える。
あたりを見回すと、石造りの廃墟。
いたるところ苔むしており、かなり古いものであるようだった。
天井から空いた穴は、雨でも降りそうなどんよりとした曇り空が見える。
「あ、あの……ゼルディン様、でらっしゃいますか?」
「いかにも、俺はゼルディン・レヴァナント・エリュシオン」
「あの、1000年前に世界を支配した、伝説の……?」
「1000年前? 伝説? ……貴様は何を言っている?」
「信じられないかもしれませんが、ここはあなたのいた時代の1000年後なんです」
「なんだと……!?」
信じられない、というのが第一。
そんなことはあるまいと思いつつも、周囲の朽ちようからうっすらとそれが真実味を帯び始める。
しかし、鵜呑みにするのは早い、そう思ってあたりをうろついていると崩れた壁の向こうに、巨大な世界樹が見えた。
あの世界樹自体には見覚えがあるが……。
「2本だと……!?」
そのとなりに、同じように生える世界樹。
俺の時代に、世界樹は1本しか存在しなかった。世界樹が成長するには膨大な月日が必要なはず。
「では、本当にここは1000年後なのか?」
「はい」
「……そうか、俺ははるか遠い未来で目覚めたのだな」
「魔王様からすれば、そうなります」
「1000年、そうか、1000年か。俺たちのあの時代から……」
思い返せば、昨日のことのように思える。
誇り高き側近たちと共に世界をかけ、迫りくる敵を蹴散らした。
国土という国土を大きく発展させ、巨大な都市を築いた。
懐かしいものだ。
世界征服した街を望んだ時の喜びは、今でも覚えている。
1000年か。あの町並みは、きっとさぞ栄えているのだろうな。
ふむ、未来の街がどうなっているのか興味が出てきた。
「未来……いや、貴様らからすれば、現代か。この時代の街はどうなっている?」
「……ここがこの時代の私たちの街なんです」
「笑える冗談だ。明らかに、ここは廃墟だろう?」
コーディリアが黙り込む。
最初は、笑っていた俺だったが、長く続く沈黙に言いしれぬ悪寒が襲ってくる。
――まさか、本当に?
大地も、海も、空も全てを支配したのだぞ?
どれだけ長い月日が経ったとして、そんなことがあり得るのか?
「人間たちとの戦いに敗れ、住む場所を失い……水も食べ物も、手に入れるのが精一杯なんです」
信じがたい。
いったい、1000年の間に何があったというのだ……?
「魔王様……!」
突如、ひざまずくコーディリア。
「あ、あの、お願いです、みんなを助けてください! 私たちには、今強いリーダーが必要なんです!
こんなこと、とても厚かましいお願いだと思います。でも、伝説の魔王であるあなたなら、きっと――」
「貴様、この俺を誰だと思っている?」
「え……?」
「俺は、魔王だ。魔族を救うのは俺の使命だ。それはどの時代であろうと、関係ないことだ。この世界に生きる魔族が、苦境にあえぐことなど、この俺が許しはしない!」
少女の顔がパァッと明るくなる。
王たるものが民を見捨てるなど、ありえない。よほど、状況は深刻らしい。
王という希望さえも民は信じられなくなってきている。
民に希望をもたらすは王の務めだ。
「まずは、住む場所からか。このようなところに住んでいては風邪を引く」
「この辺に、他に住める場所はありません。住めるような場所はほとんど人間に奪われてしまっているので……」
「そうか、貴様は知らんのだな」
「え?」
「なぜ、俺が世界を支配することができたのか。この俺が、いったいどれほどの力があるのかを」
膝を付き、石畳に手を置く。
「魔王ゼルディンの力、とくと見るがいい。――リビルド・クレイドル!」
*
黒い大理石の床と、水晶で作られた巨大な柱。
天井には、青黒いシャンデリア。
物質形成による副産物である赤い魔力のチリが、まだそこらを舞っている。
まぁ、こんなものだろう。
玉座にてあたりを見回していると、赤いカーペットの上でうろたえるコーディリアの姿が映った。
「え、えええええええーッ!?」
コーディリアの叫びが広い空間に反響する。
「い、移動した……? ここは、いったい……?」
「移動などしていない。先ほどと、同じ場所だ」
目が泳いでいたコーディリアだが、俺を見つけ少し落ち着きを取りもどす。
「これは、俺の魔法のひとつだ。先ほどの遺跡を作り変えさせてもらった。さすがに雨風もしのげないのでは話になるまい?」
「雨風って、そんなレベルじゃ……!
これが、古代魔法……? これが伝説の魔王……?」
「どうだ、俺は伝説通りか?」
「伝説通り……いえ、伝説以上です! こんな魔法、どんな本でも見たことなかった……!」
目を爛々とさせながら、あたりをぺたぺたと触り始めるコーディリア。
さて、ここはまだ序の口。問題はこれからだな。
俺の手中にあった世界は俺の手を逃れ、人間のものになった。
魔族たちもこの調子では滅ぼされていたかもしれない。
だが、ここで俺が目覚めたことでそれも終わりだ。
この世界が、本当は誰のものなのか。
再び歴史に魔王ゼルディンの名を刻んでやることにしよう。
「――世界を必ずや、我が手に!」
初投稿です!
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