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港街の中華料理店

作者: チャーリー宮毛

これは、いつか書こうと想い続けていたおはなしです。幾重ものヒダ状の丘がひしめくように集まった小半島、本牧。 

そこに出来た窪んだ谷あいを指でなぞる様にUの字に走る本牧通りの界隈には、本道に限らず旧道、路地に至るまで沢山の中華料理屋がありました。いずれも小さなお店ばかりですが、

NEWCOMERの来日して着住しだしているチャイニーズではなく、中華街を本貫とする華橋の人達が営んでいきた老舗のお店です。

なんだ、街の中華料理屋ならウチラのまわりにも一杯あるよと、くくりをつけて〆わないで下さい。

そこには、面白い世界があったんです。


話はいきなり飛んでしまいますが、

僕の育った生駒という土地にも、一軒の中華料理屋がありました。

いつも主のおじさんがお店のテーブルを見渡せる一角に座っていました。大きな人で、眼鏡をかけ、大股で椅子に腰掛けているその姿は、一家の長にふさわしい風格を漂わせていました。

おじさんの役目は、カウンターに出てきた料理を卓に運ぶ事でした。あとは常連客と他愛ない話をしているだけ。よく通る大きな声が、いつも店内に響いていました。

たまにお話に夢中になり、おじさんのうしろのカウンターに置かれたゆらゆら湯気のあがった料理を放置したまま喋り続け、

女将さんに注意されてびっくりしてたちあがったり、頼んだ料理がまだ出てこないとお客が告げると途端に笑顔を険しい表情に変え、首を左右にふりながら小走りで駆けてゆき、フーライフオーフオーと厨房に文句を言ってまたバタバタと椅子に腰掛け、何事もなかったかのように、より格別の笑顔を卓に向けていました。

そんな姿は可笑しくて可愛くもあり、

枝にもどってはまた森に消えてゆくせっかちな鳥のようで、銅鑼がしゃんしゃん響く中、滑稽な主人公が暗虚から出て来てはまた消えるような京劇を観ているようでもあり、子供心にも、説明できない高揚感を覚えていました。

その、85年も続く老舗を立ち上げたおじさんはもういませんが、若い頃横浜の中華街から流れて同じ在日華橋の奥さんと神戸で知り合い結婚、生駒でこのお店を開店させた方でした。

本牧に35年位前、16才で出てきた頃はこの山ヒダ小半島本牧には、沢山の中華料理屋が犇めいていました。

そしてこの土地には、丘陵をうまく利用した、フェンスに囲まれた住宅地、米軍管理のハウジングエリアもありました。

中華街の大飯店でコックを続け、お金を貯めて独立、そして自らのお店を構えた華橋の人達は、店先のショウウインドウにゴールドとレッドの配色で

「CHINESE RESTRANT」

と描き入れ、店内には英語のメニューと、英語の話せる娘を雇い、内装はといえば、デコレーションチャイニーズスタイルにて店内を朱赤や丹青で塗り立てここは竜宮城かいなとみまごうまでにチャイナオーナメントで飾り立て、規模は狭いが、アメリカンチャイニーズと同じような盛付けた感性と手法で店をつくりあげたのでした。


フェンスの内側に飽きた米軍属の住人達は、ストリートの向こうから流れてくる芳香に敏感でした。アメリカンナイズされたイタリー料理が出てくるお店、そしてチャイニーズレストラン。

ゴールデンブラウン色の酢豚にジャズミン茶。不器用に箸を扱い、運ばれたきた料理を口に運びながら、合間に大人も子供もコカ・コーラか黄色いファンタ(笑)。

黄色いFANTAと茶色の酢豚の妙なマッチングは、その後僕も虜になってしまいました。


ある日面白いシーンに遭遇しました。

夕刻、店のテレビの相撲中継の音声と、店員が知り合い華橋のお客との間で飛び交うチャイニーズが響く店内。ユルくてダラッとした空気が流れていました。そこに、米国の家族連れがやってきたのですが、その瞬間、それまで垂れ流れていたTVの相撲中継は消され、店内には中国風のイントロ曲が流れだし、卓についたその家族に笑顔でお茶を運び英語のメニューを手渡す御姉様。

瞬時に無国籍空間に変化を遂げたのでした。


それはまるで中華料理屋を営んでいるというよりも、演じているというような可笑しみがあり、明日行ったらこの流浪役者たちはこの小さな芝居小屋共々、跡形も無くなっていても何ら不思議じゃない可笑しみがありました。

そんな事を感じながら、店内に沈香する中華線香ですすけた、神を祀った朱の神檀の中を見ていたら、

甘いエロティックな感覚が、

滑稽さのあとにジンワリ身体を伝い降りてくるのを感じてしまうのでした。

「以下次号」

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