06:温度なんて知りません!
さて、肉体(肉ないけど)を手に入れた私は少しだけ行動範囲が広がった。
と言ってもこの地下っぽい部屋だけだけど。
...だって外に出てモンスターだ!やっつけろ!
とかなったら怖いじゃん?
もしかしたら他にも骸骨歩いてるかもしれないけどそんな事はまだわからないわけだしさ。
仕方がないから私は部屋をウロウロする。
これじゃホントにお化けみたいだねぇ。
なんて思ったりするけど他にすることがないんだ。
仕方ないだろ!
と半ばやけになっていたりもする。
マッドなサイエンティストと思ってたけど意外とヤバそうなものはないんだよなぁ。
例えば人が入った水槽とかさ。(※培養槽と言う。)
魂だけの私をいじるなら倫理的に大丈夫って事かしら...?
いやダメだろ死んでんだぞ(多分)。
人体(?)蘇生や命の創造は倫理に反するだろ。
なんて自問自答するくらいしかやることが無い。
だって本はあっても読めないんだもの。
せめて絵本でもあれば...いや無理だな。
ゼロから始める異世界文字なんてやれる自信ないわぁ。
せめてえーびーしーから始めましょ。
そんな文字ないけどな!
...これ結構寂しい痛いやつの生活じゃね?
なんて頭に浮かんだらなんか悲しくなってきた。
涙でそう...涙腺ないけど。
目玉もないのに見えている不思議。
それを言ったら魂の段階で視界があるのもおかしいよね。
「うーん、ふぁ〜んたじぃ...。」
なんてやる気のない声をあげてみる。
声帯もないくせにどっから声が出てるんだか。
ないないない尽くしじゃないのさ。
意外と生活できてるけど。
だってないのに視覚ある、聴覚ある、触覚ある。
味覚は知らないけど嗅覚は、多分ある。
だけど痛覚は今のとこ感じない?
あれ?なんで?
痛くないのをいい事にあちこちいじってたけど。
今更気づく事もあるんだね。
まあ痛いの嫌だからいいけどさ。
なんてふと壁の方を眺めたら地図と目が合った。
そう、目が合った。
「...なんでこの地図目玉の落書きされてんの...。」
何故そんなリアルな目玉を落書きしたのか。
やっぱりここの家主はおかしいのでは無いか?
という疑問と今更だろという結論が脳内を占める。
...多分脳もないけど。
「うーん、私が今いる所はどの辺なのかなぁ」
地図を見たら当然思いつく質問だ。
大陸が1つ、2つ、3つ、これは島かな、まあ4つ...はなにこれまんまる。
いくら何でも綺麗なまんまるはないでしょ...え?マジ?
とりあえず5つって事にしておこう。
国との境界線やよく分からないけどイカの落書きに...これなんだろ、蛇?
変な地図を貼ってるなぁなんて思いながらメモや印を眺めてみる。
「ここだな。」
と急に上から降ってくる声に心臓が飛び出そうだった。
心臓ないけど...ってこのくだりはもう飽きたかな。
毎度お馴染みのヤツが来た。
...気配がまるでなかったんだが...。
それよりも男の指先に目を向ける。
指をさされた場所は地図のやや右側上部。
中央に広がる最も大きな大陸の真ん中ちょい右って所だった。
「豪雪地帯の多い国だ。
年間通して雪の降る場所が多い。」
そう言われるとここ寒いのかぁ...なんて思う。
ここの気温がどうなのかわからないのは有難いんだけどねぇ...。
そこで気付く、温度多分わかんないわ、私。
もしかしたら適温で管理されているのかもしれないけれどあまりよくわからない。
試しに男の頬をつついてみる。
「...何をしているんだね?」
「いや、ちょっと。」
男が抵抗する素振りを見せないことを言い事につつき続ける。
感触はわかるけど温度は感じなかった。
意外と気づかないもんだねぇ。
なんて考えてから例えば触った雪でさえ冷たく感じることが出来ないのか。
例えば誰かに抱きしめられても温もりを感じないのか。
そう思ったら少し寂しくもあった。
まあ後者に関してはそんな予定はないんだけどね。